上 下
23 / 101
鳥籠から出るために

鳥籠から出るために⑨

しおりを挟む

 美桜が言い切った刹那。尊はひどく驚いているのか、全ての動きをピタリと停止させた。

 あたかも時間が止まってしまったかのようだ。

 当の美桜はといえば、慌てて捲し立てたせいか、全力疾走したときのように、呼吸は乱れ、鼓動も加速し、胸まで苦しくなってくる。

 わかりやすく言えば、軽い興奮状態だ。

 けれどもここで引き下がったら、尊は今度こそ部屋から出て行ってしまう。またひとりにされてしまう。

 ーーそんなの絶対嫌だ。ずっと傍にいて欲しい。

 そんな思いに突き動かされてしまっている美桜は、なおも尊の腰にぎゅうぎゅうとしがみついてしまうのだった。

 そこに尊から意外にも狼狽えたような声音が届く。

「……おい、ちょっと待て。お前、どういうことか、わかって言ってるのか?」
「ーーへ!?」

 尊からの問い掛けに、美桜は虚を突かれたように頓狂な声を発していた。

 美桜は必死だったために、ただただ純粋に、思ったままをただ口にしたに過ぎない。

 つまりは、発言通りで、他意など全くなかった。

 なので、まさか念押しされるとは思ってもみなかったのだ。

 相も変わらず尊の腰にしがみついたままでキョトンとしているところに再度質問が降らされたところで。

「だから、わかって言ってるのかと訊いたんだ」

「……は、はい。思ったことを口にしただけなので」

 そう答えるしかなかった。

 美桜の返事を聞き届けた尊は、僅かに目を瞠ってから、今度は違った質問を投げかけてくる。

「だったら、お前は俺に惚れてるってことなのか?」

 しかし恋愛経験の皆無な美桜には、その自覚などあるはずもなく。

「まさか。初対面でそんなわけないじゃないですか。ドラマや小説じゃあるまいし」

 間髪入れず、尊に自信満々にキッパリと言い切ってしまう。

 それを耳にした途端、返事が意外だったのか、しばし尊は目を点にしていたが、すぐに途轍もなく低い声音を響かせた。

「……お前、俺のことをおちょくるとはいい度胸だな」
「ーーへッ!?」

 けれども美桜は、尊の言葉の真意が全く掴めない。見開いた曇りなき眼をパチパチと瞬かせるしかできないでいる。

 ーーど、どういうこと? 話が全く見えないんですけど。

 そんな美桜を一瞥すると、尊は口元になにやらニヤリとした怪しい微笑を僅かに浮かべさせた。そしてぶつくさと独り言ちるように呟きを落とす。

「いや、自覚がないだけか」

 尊の声を拾うことができなかったので、相も変わらず美桜はキョトンとしたままだ。

 しばらくして、不意に尊が動く気配がしたかと思えば、美桜の身体がグラリと傾いでしまう。

 ーーな、なに? もしかして地震?

 そんなことを思った次の瞬間には、あたかもデジャヴのように、尊の肩に軽々担ぎ上げられてしまっていた。

 そうしてスタスタと歩き始めた尊によって、寝室の大きなベッドの上へとさりと下ろされ、あっという間に組み敷かれてしまっている。

 突然の出来事に目を丸くすることしかできずにいるところへ。

「俺を煽ったのはお前だ。男を煽ったらどうなるか、今からたっぷりとその身体に教え込んでやる。覚悟はできてるんだろうな?」

 妖艶な色香を纏い不遜な微笑を湛えた尊からの宣言と問い掛けが放たれて、尊のただならぬ色香にあてられた美桜は、夢現でコクンと顎を引いていたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を溺愛してくれたのは同期の御曹司でした

日下奈緒
恋愛
課長としてキャリアを積む恭香。 若い恋人とラブラブだったが、その恋人に捨てられた。 40歳までには結婚したい! 婚活を決意した恭香を口説き始めたのは、同期で仲のいい柊真だった。 今更あいつに口説かれても……

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

初恋は溺愛で。〈一夜だけのはずが、遊び人を卒業して平凡な私と恋をするそうです〉

濘-NEI-
恋愛
友人の授かり婚により、ルームシェアを続けられなくなった香澄は、独りぼっちの寂しさを誤魔化すように一人で食事に行った店で、イケオジと出会って甘い一夜を過ごす。 一晩限りのオトナの夜が忘れならない中、従姉妹のツテで決まった引越し先に、再会するはずもない彼が居て、奇妙な同居が始まる予感! ◆Rシーンには※印 ヒーロー視点には⭐︎印をつけておきます ◎この作品はエブリスタさん、pixivさんでも公開しています

甘やかしてあげたい、傷ついたきみを。 〜真実の恋は強引で優しいハイスペックな彼との一夜の過ちからはじまった〜

泉南佳那
恋愛
植田奈月27歳 総務部のマドンナ × 島内亮介28歳 営業部のエース ******************  繊維メーカーに勤める奈月は、7年間付き合った彼氏に振られたばかり。  亮介は元プロサッカー選手で会社でNo.1のイケメン。  会社の帰り道、自転車にぶつかりそうになり転んでしまった奈月を助けたのは亮介。  彼女を食事に誘い、東京タワーの目の前のラグジュアリーホテルのラウンジへ向かう。  ずっと眠れないと打ち明けた奈月に  「なあ、俺を睡眠薬代わりにしないか?」と誘いかける亮介。  「ぐっすり寝かせてあけるよ、俺が。つらいことなんかなかったと思えるぐらい、頭が真っ白になるまで甘やかして」  そうして、一夜の過ちを犯したふたりは、その後…… ******************  クールな遊び人と思いきや、実は超熱血でとっても一途な亮介と、失恋拗らせ女子奈月のじれじれハッピーエンド・ラブストーリー(^▽^) 他サイトで、中短編1位、トレンド1位を獲得した作品です❣️

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

処理中です...