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鳥籠から出るために

鳥籠から出るために④

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 いくら世間知らずな美桜でも、『極道』がどんなものであるかぐらいの認識はあった。

 とはいえそれはドラマや映画などで知り得た知識ばかり。

 それも、前家元がその昔流行っていたという極道モノ、いわゆる任侠映画の熱狂的なファンだった影響から、その知識は古い上に非常に偏っていた。

 そうとは知らない美桜の脳裏には、昭和の名優らがサイコロを振ったり、日本刀やドスを振り回したり、小指を詰める場面が映し出されていたのである。

「ーーええッ!? 極道って。あの、切った張ったの世界で、サイコロを振ったり、敵対する組と抗争したり、小指を詰めたりする、任侠映画でお馴染みのヤクザ屋さんのことですか?」

 興奮気味に思わず漏らした美桜の言葉に、一瞬、三人が凍り付いたように固まってしまう。

 けれどもすぐに、三人が揃いも揃って肩をぷるぷる震わせはじめる。かと思えば、ぷっと吹き出す姿に、美桜はわけがわからずキョトンとしてしまっていた。

 少しして、いち早く笑いを収めた尊から、驚嘆したというような呟き声が聞こえてくる。

「……まぁ、世間知らずのお嬢様の知識が古すぎるのはしょうがないとして」

 そして立て続けに放たれた問い掛けには、あからさまに呆れを孕んでいるように聞こえてしまう。

「お前、そうとも知らずに、のこのこ俺に着いてきたのか?」

  馬鹿にされたと思った美桜は、腹立ちさと羞恥で赤らんだ頬をぷっくりと膨らます。

 確かに来る気があるかと問われて頷きはしたが、着いてきたと言うより、強引に担がれてきたようなものだ。しかも尻まで叩かれている。

 ーーそれをのこのこ着いて来たのか、だなんて、あんまりだ。

「……そ、それはだって、突然のことで気が動転していたし。それに……」

 言ったところでどうにもならないと言い淀むも、気持ちが収まらない。

 尊のことを恨みがましく横目でじとっと見遣っていた。すると何かを察したらしい尊に、自分にだけ聞こえるように耳元で、面白おかしく茶化されてしまう。

「ああ、俺に担がれて尻を叩かれたことを根に持ってるのか。それはすまなかったな。詫びに、叩いた尻でも撫でてやろうか」
「////ーーけ、結構ですッ!」

 美桜は顔を赤く染め、ますますむくれてしまうのだった。

 そんな美桜のことを尊は歯牙にもかけていない素振りで、知らん顔を決め込んでいる。

 それなのに……。こうして極道である尊と話していても、やはり嫌悪感も恐怖感も感じられない。

 それどころか、気づけば今のように尊に対して、感情のままに何もかもを曝け出してしまっている。

 ーーやっぱり助けてもらったせいなのかな。

 だからといって、尊が極道だとわかった以上、手放しでは喜べない。

 これから自分がどうなってしまうのかという不安だってある。

 飽きるまで置いてくれると言ってはいたが、その後は、もしかしたらどこかに売られてしまうかもしれない。

 自分のもっている極道というイメージがどうしても付き纏う。

 そうこうしているうちに、いつしか車は、夜桜のライトアップやクリスマスのイルミネーションの名所としても知られる、都心の複合商業施設へと到着していた。

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