38 / 47
#38 予想外な再会と魔の手
しおりを挟むど、どうしてお婆さんがこんなところに?
それにさっきのアレはなんだったの?
思いがけない人物の登場により、余計に頭が混乱してくる。
昨日と同じ真っ黒なローブに身を包み、ファンタジーの本で知り得た知識によると、臣下の礼とやらをとっているお婆さんの姿に釘付け状態だ。
未だ茫然自失状態に陥っている私とは違い、依然狼の獣人姿のレオンは剣を構えていて、私のことを背で隠すように前に立ち、お婆さんのことをじっと見据えたままでいる。
まさに臨戦態勢だ。
そこへ垂れていた頭を上げたお婆さんの、この場にはそぐわないえらく感心しきりの声音が放たれた。
「さすがでございます。お嬢様。いやしかし、まさかこれほどの能力を秘めておられたとは、この私めにも予想できませんでした」
ーーど、どういうこと? 今のって、お婆さんがやったんじゃなかったの? ってことは、私? ええッ!? ウソ、本当に?
お婆さんの言葉を聞いた私の頭の中は、驚きを通り越してもはや大パニックだ。
私が脳内で、大騒ぎを繰り広げているなか、お婆さんの眼前に剣の切っ先を向けて身構えながら、レオンが再び地を這うような低音ボイスを響かせた。
「お前は昨日の。一体何用だ? 返答しだいではこの場で切り捨てる。心して答えろ!」
普段は、王子様然としていてとっても優しいレオンだけれど、狼の獣人姿で剣を構える様は、勇敢な騎士そのもので、並々ならぬ気迫に満ちている。
ーーたまにはこういう姿も凛々しくていいなぁ。
なんて、気づけば、仰天するのも忘れて、凜々しいレオンの姿にうっとり見蕩れてしまっている。
そこに今度はお婆さんから、実に予想外な言葉が飛び出してきた。
「いや~。それにしても見違えました。ずいぶんとご立派になられましたねぇ。お父上であらせられる国王陛下も、さぞかしお心強いことでしょう。お久しゅうございます。クリストファー殿下」
ーーええ!? てことは、もしかしてレオンは王子様なの? クリストファー『殿下』って言ってたし。
驚きの連続で、もう何がどうなっているのかさっぱりわからなくなっていく。
ただただ瞠目したままで、お婆さんとレオンのことを交互に見遣ることしかできずにいる。
すると今度は、私ほどではないが、驚いた表情でお婆さんのことを見遣っていたレオンが、怪訝そうな表情に変わり、不遜な声音を放つ。
「フンッ、そんな戯言に耳を貸している暇はない。さっさと質問に答えろ。それとも今すぐ切り捨てられたいか?」
そうしてじりじりとお婆さんの方へとにじり寄っていく。
レオンからは、今にも飛びかからんばかりの気迫と殺気が漂っている。
ーーあれ? 違ったの?
私が困惑していると、またまたお婆さんから、この場にそぐわない、にこやかな表情同様の朗らかな声音が繰り出された。
「覚えておられませんか? 昔、まだ殿下がよちよち歩きの頃に、何度かお会いしているのですが。あぁ、失礼致しました。私としたことが、自己紹介をすっかり忘れておりました。私は、十五年前まで、殿下のお父上であらせられる国王陛下レアンドル•パストゥール様に仕えておりました、魔法使いのソフィア・ロベールにございます」
ーーてことはやっぱり、レオンはモンターニャ国王陛下の息子。つまり正真正銘の王子様だったんだ。
真実かどうかを本人に確かめたくとも、相変わらず私のことを背でかばうようにして立ってくれているので、私からはレオンの顔を窺い知ることができない。
レオンの反応を待っていられず、いても立ってもいられなくなって、私は思わず声を放っていた。
「それってつまり、レオンがモンターニャ王国の王子様だってことだよね?」
すると真っ青な顔でこちらに振り返ってきたレオンが、私の両肩をがっしりと掴んできて。
「あっ、や、そのっ……違うんだ。ノゾミ。別に嘘をついていた訳じゃないんだ。ただ、言い出しにくかっただけでーーって、嘘をついていたことには違いないね。ごめん。
でも、信じて欲しい。マッカローン王国の王太子にいきなり異世界に召喚された挙げ句、追放されてしまったノゾミに、嫌悪されてしまうのが怖かっただけであって。神に誓ってもいい。騙すつもりはなかったんだ」
人間の姿に早変わりして必死な形相で、矢継ぎ早に、怒涛の弁明を繰り出してきた。
さっきまで構えていた剣も凛々しかった姿も、どこかに霧散してしまっている。
勿論、レオンの豹変ぶりには驚きはした。
けれども私は、不謹慎にも、自分のことで、レオンがこんなにも取り乱し、狼狽えてくれていることに感激し、胸をキュンキュンときめかせてしまっている。
そこに再びお婆さんの声が割り込んできたのだが。
「おやおや、その様子ですと、お嬢様にはご内密にされていたのですねぇ。それはそれはとんだやぶ蛇となってしまい、申し訳ございませんでした」
申し訳なさそうに謝ってきた直後に、なにやら難しい顔つきへと早変わりしたお婆さんの放つ、ただならぬ雰囲気と意味深な言葉に、
「ですが、もうあまり時間がございません」
何か心当たりでもあるのか、レオンの顔つきが真剣なものにガラリと变化した。
「それは一体どういうことだ?」
「詳しいことを説明している猶予はございませんので、単刀直入に申し上げます」
レオンの声に促され、そう言って前置きしてきたお婆さんから簡潔な説明がなされた。
なんでもお婆さんは、十五年前よりモンターニャ王国の王命により、このマッカローン王国に臣下として潜入していたそうだ。
それはかねてから、マッカローン王国が近隣の国々を侵略しようと企てている、という噂があったからなのだとか。
そしてその動きは、現国王が病床に伏し王太子が実権を握るようになったことで顕著になったようで。
先日、予言者により、マッカローン王国が近隣の国々を支配下に置き、帝国を築くための資金源として、精霊の森に埋蔵されているという秘宝を探し出すのに、聖女として召喚された私の能力が最も有効だと予言されたそうだ。
そうして最後に語られた次の言葉により、
「ノゾミ様の能力を利用するために、既にさっきの者たちとは違う使いが、ルーカス殿のところに向かっておりますことをお伝えするために参りました。おそらく、既に人質として捉えられているかと。ですので、お嬢様とご一緒に、早急に隣国へお帰りください」
命の恩人であるルーカスさんの身に、既に危険が及んでいることを知ることとなったのである。
レオンには色々と聞きたいことがあれど、ルーカスさんのことが気にかかってしょうがない。
勿論、私には、レオンと一緒に隣国に逃げるという選択肢などなかった。
「レオン、私今すぐ帰るッ!」
「ノゾミ、もちろん僕もそのつもりだよ」
「おふたりならそう仰ると思っておりました。私もお供させていただきます。さぁ、参りましょう?」
こうして、私の言葉を聞き入れてくれたレオンとお婆さんとともに、ルーカスさんの家へと向かうこととなったのだった。
10
お気に入りに追加
215
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。
せいめ
恋愛
婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。
そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。
前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。
そうだ!家を出よう。
しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。
目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?
豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。
金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!
しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?
えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!
ご都合主義です。内容も緩いです。
誤字脱字お許しください。
義兄の話が多いです。
閑話も多いです。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る
束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました
ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。
幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。
シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。
そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。
ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。
そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。
邪魔なのなら、いなくなろうと思った。
そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。
そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。
無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
孕まされて捨てられた悪役令嬢ですが、ヤンデレ王子様に溺愛されてます!?
季邑 えり
恋愛
前世で楽しんでいた十八禁乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したティーリア。婚約者の王子アーヴィンは物語だと悪役令嬢を凌辱した上で破滅させるヤンデレ男のため、ティーリアは彼が爽やかな好青年になるよう必死に誘導する。その甲斐あってか物語とは違った成長をしてヒロインにも無関心なアーヴィンながら、その分ティーリアに対してはとんでもない執着&溺愛ぶりを見せるように。そんなある日、突然敵国との戦争が起きて彼も戦地へ向かうことになってしまう。しかも後日、彼が囚われて敵国の姫と結婚するかもしれないという知らせを受けたティーリアは彼の子を妊娠していると気がついて……
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる