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#12 淫夢のなかで王子様と!? ✱
しおりを挟む優しくて甘やかで、けれど私のすべてを食らい尽くすかのような、あたかも飢えた獣が狙った獲物を仕留めようとするかのような。
例えるならば、そんな、なんとも情熱的で獰猛な劣情を孕んだような熱い眼差し。
野々宮先輩の初めて見せる、雄を思わせるような、その姿に、不思議と怖さは微塵も感じない。
怖いどころか、早く野々宮先輩に食らい尽くして欲しい。なんてことを心から願っていた。
これまで誰にも晒したことのなかった、身体の一部始終を熱くて強い眼差しで見つめられ。
肌がじりじりと焼けつくように熱く滾ってゆく。
その熱を辿るように野々宮先輩の熱くざらついた舌や形のいい柔らかな唇が、滑らかな柔肌を這い回る。
触れられたところからひんやりとした感覚がする。
けれどあとからすぐに甘やかな痺れが追いかけてきて、やがて滾るような熱を孕んでゆく。
その熱が全身に及ぶ頃には、私の身も心もとろとろに蕩けてしまっていた。
どこもかしこも敏感になっていて、少し舌を這わされただけで、甘やかな快感が生じて、全身がビクビクと慄いてしまう。
なんとも恥ずかしくてどうしようもない。
思わず野々宮先輩の視線から逃れるようにして横に顔を背けていた。
そんな私の反応に、野々宮先輩は満足そうに、眇めた瞳で見つめつつ。
『あぁ、僕のノゾミ。君はなんて可憐で美しいんだ』
背けた私の顎を指でそうっと上向かせながら、歯の浮くような台詞を囁いてくる。
いつの間にか溢れていた涙が滲んで微かにぼやけた視界のせいか、先輩にキラキラとしたエフェクトでもかかっているかのように輝いて見える。
粉々に砕いた宝石の粒をちりばめたような、キラキラとしたオーラのようなエフェクトを纏った先輩の姿は、あたかも王子様のよう。
そういえば、小さい頃から絵本を読むのが好きだった私は、シンデレラに登場する王子様に憧れていたんだっけ。
大人になったら、シンデレラのように素敵な王子様に見初められて、いつまでも幸せに暮らしたい。そんなことを夢見ていた。
でも現実は、そんな夢とは程遠いもので。
いつしか私は、来る日も来る日も勉強に追われるようになっていた。
テストで結果が出るたびに、九十九点であろうと満点でないと、褒めてもらえず。
お兄ちゃんのように、いつも満点を取れない私は、ダメな子なんだ。
いつしかそう思うようになっていった。
両親に褒めてもらうためには、もっともっと頑張らなきゃ。
小学三年生の頃には、そう思うようになって、シンデレラのようになりたい。なんて夢、今、思い出すまで、スッカリ忘れ去っていた。
それが今、目の前には、王子様のような野々宮先輩がいる。
ーーあー、本当に、夢みたい。
どこか夢見心地で思考に耽っている私の耳元に先輩の声音ではない、他の男性の声音が流れ込んできた。
先輩の声よりも甘やかでとても耳に心地いい声音。
『ノゾミは、やっぱりこの男のことが好きなの?』
けれどその声音には、聞いているだけで心をキュッと締め付けられるような、そんな切なさを孕んでいた。
慌てて視線をその声に向けると、野々宮先輩だったはずの顔が、レオンのそれと入れ替わっていて。
『ーーッ!?』
私が驚きの余り言葉を失っていると。
『今はそれでも構わないよ。けれど、いつか絶対に振り向かせてみせるから』
レオンがそう言って声を紡いでいる合間にもその顔は徐々に人の形を帯びてゆく。
そうしていつしか野々宮先輩の姿へと変化していた。
けれど茶髪だったはずの先輩の髪は、アッシュグレーの少しクセのあるロングヘヤになっていて、後ろで一つに結わえられている。
ダークブラウンだったはずの切れ長の双眸も、宝石のように煌めくサファイアブルーの瞳へと変貌を遂げていた。
現実世界から異世界に召喚された際にお目にかかった我儘王太子を彷彿とさせる、王子様然とした姿に驚きを隠せずに、声を漏らすと。
『……せ、先輩?』
その声を耳にした途端、先輩の綺麗な顔が苦しげに歪んでしまう。
その様子に私の胸がまたもやキュウッと締め付けられる。
とその時、先輩の腕に強い力で抱きすくめられていた。
『今はそれでいい。けれど、いつかきっと、ノゾミの身も心もすべてを僕だけのものにするからね』
『え? どういうーーんっ』
そうして続けざまに紡ぎ出された言葉に聞きかえそうとした私の言葉は、王子様と化した先輩によって、唇を塞がれることによって奪われていた。
それからは、もう、息をつく間も与えてもらえないほどに、甘美な激しいキスで身も心もとろとろに蕩かされてしまう。
『……あっ、……ふぅ……んんっ』
僅かに開いた唇の隙間からは、自分のものとは思えないくらい、甘く淫らな嬌声を漏し。
気づいた時には、王子様然とした先輩の手により充分に解され、泥濘と化した蜜口に滾るように熱くなった剛直のような昂りのすべてを受け入れていた。
途端に、痛さよりも、この世のものとは思えないほどに甘やかで痺れるような快楽を与えられた私の身体は狂ったように身悶え、いつしか意識を手放してしまったようだった。
その間際、
『ノゾミ、愛してるよ』
私の名前と愛の言葉を紡ぎ出す切なげな声音が、まるで呪縛のように、幾度も幾度も繰り返されていたような気がするけれど、とても曖昧だ。
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