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第九章「ウィル」

「久しぶりの我が家って感じだね」

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 家に帰り着いた頃には東の空は薄明るくなっていた。

「なんだか、久しぶりの我が家って感じだね」

「実際には二日ぶりくらいだけどね」

 着替えを洗濯かごに入れ、ダイニングに戻るとオリバーがホットミルクを作ってくれていた。
 椅子に座り、出してくれたマグを手に取る。甘い香りがして、ハチミツを入れてくれたのだとわかった。

「記憶をなくしていた間のことは結構覚えているんだな」

 そういえば、と思い尋ねる。同居人は渋い顔をした。

「そうだよ。……ウィルはさ、なんでいきなり他に好きな人がいるとか言い出したの? アレさえなければ話はもっと早かったのに」

「……でも、その分魂を抜かれるのが遅くなってよかっただろ」

 そうだけどさ、とオリバーは唇を尖らせる。
 弁明をするように俺は続けた。

「……自信がなかったんだよ。幼馴染じゃない、男の俺をあえて選ぶか? って」

 きょとん、と金の竜人は目を瞬かせた。

「お前だって、自分が男と付き合うなんて思えないとか言っていただろ」

「でも選んだじゃん」

 結果だけを見れば確かにそうである。

「確かに最初はそういうのに流されてウェンディを選んでたけどさ、やっぱり男でも女でも関係なくウィルが好きなんだと思うよ」

 まるでハチミツのような甘い言葉を囁いてくる。耳まで赤く染まり、俯いた。

「今日は一緒に寝ようよ。明日から二日間休みをもらっただろ? ゆっくり休んでいちゃいちゃしよ」

 指と指を絡めてくる。ここのところ塩対応の彼と接していたから忘れていたが、そういえばこういう奴だった。
 俺はコクリと頷いたのだった。





 起きて、食事をして、洗濯をして、部屋の掃除をすませているとあっという間に夜になった。

「今晩は俺の部屋で寝よ。あの日のリベンジさせてよ」

 初夜失敗した日のことを言われているのだと思い至り、体中に熱が集まる。そうだよな、記憶を取り戻したんだから当然こうなるよな。

「……うん、わかった。じゃあ、風呂入ってくる」

 自分が受け入れる側なので、当然準備がいる。一緒に入ろうか、と尋ねてくるオリバーを無視して俺は風呂場に向かったのだった。
 諸々の準備を済ませ、覚悟を決めていると、入れ替わりに身体を洗ってきたオリバーが戻ってきた。彼はベッドの上で座っている俺を見て顔を輝かせ、服を脱ぐと羽と尻尾を出して抱きつき、押し倒してきた。

「ふふ……、嬉しいなぁ。記憶がない時のことを覚えているから、余計に」

 両手で抱きしめつつも尻尾も足に絡めるのはオリバーが好きなスタイルだった。久しぶりにされて、ああ、帰ってきたんだなぁとなんとなく考えた。記憶をなくしている間のオリバーもオリバーなのだが、一定の距離があった。

「俺さ、ウィルの好きな人とやらに本気で嫉妬してた。ミリアに薬を盛られた時も、ずっとウィルを寝取る事考えて抜いてた」

 耳元で囁かれながらも服を脱がされる。

「……何言って」

「しかもそんな時に男同士はカウントされないとか言ってくるしさ~。俺本当に眼中にないんだと思って凹んでたんだから」

 ちゅ、と耳を甘噛みされ、体が震える。そのままあえて水音を聞かせるかのように耳たぶをしゃぶられた。

「察してるだろうけど、ハプバーに行って男同士のこと色々聞いてきたんだ。今日はウィルのこと気持ちよく出来ると思うよ」

 手で首筋をなぞりながら更に耳を舐められ、ぞくぞくと震えていく。
 今までさわりあいやキスなら何度もしたことがあるが、久しぶりなので余計感じてしまう。更には耳をこんなに執拗に責められたことなんてない。

「ん……、そういうの、いいから……」

 いたたまれなくなって返すと、オリバーははむ、と耳を甘噛する。

「良くないよ。考えてみたら、前回は入れることに囚われすぎてて愛撫がおざなりだったもんね。いっぱい触って気持ちよくなろうね」

 告げて、今度は首筋を舐めてくる。両手で乳首をくりくりとこね回し、尻尾で腹のあたりをなでさすられた。

「ちょ……、4つも同時はずるいっ……」

「だって、ウィルはおへそでも気持ちよくなっちゃうでしょ? 今日はいっぱい快感を感じてほしいもん」

「でも……、あっ……」

 びくん、と身体を震わせる。オリバーは嬉しそうな顔をして、唇を寄せてきた。

「ウィル、ベロ出して」

 べ、とオリバーが舌を見せつけてくる。すっかり頭が働かなくなっており、何も考えずに舌を出した。
 すぐに舐められ、口の外で絡まっていく。優しく吸われ、噛まれ、唇があわさる。その間も口内の気持ちいい所を責められ、頭がぼうっとしてきた。
 オリバーが顔を離す。唇の間に白糸がつたい、顎に落ちてきた。それを見た彼は顎のあたりをぺろぺろと舐める。

「すっかり溶けてきてる。俺、この顔を知っていたはずなのに、ずっと妄想してたんだよ」

 そ、と上半身を起こすと、彼はベッドサイドに用意していたボトルを手に取る。中身はローションだ。なぜ知っているのかと言うと、俺も同じものを買っていたから。つまり、今この家にはオリバーが買ったものと俺が買ったもので二瓶のローションが存在していた。
 オリバーは自分の手に垂らすと俺の尻に塗りたくる。

「おっきくなってるね」

 勃起している性器にも触れ、ぬるぬると塗っていった。

「んんっ……」

 右手でしごきながら、左手の人差し指を中にいれる。つぷ、と入ってくる感触に以前切れた時のことを思い出し、身をこわばらせた。ローションの助けを借りてオリバーの指が入ってくる。

「ここかな……?」

 前立腺を探し当てたのか、何度も探ってくる。俺も開発できないかと道具を使って刺激してみたが、あまり効果がなかった。
 申し訳なく思っていたが、オリバーが腹を舐めたり乳首を尻尾でこねくり回したりしながらも指では前立腺を刺激し続けるものだから、次第に違った感覚を覚えていく。

「んっ……」

 ついに、ビクリと震えて声が出てしまい、慌てて抑える。オリバーの瞳が輝いた。

「気持ちいい?」

 ゆるく首を横にふる。

「……よく、わからない」

「そう?」

 くに、くにと再び撫でられる。そのたびにぞわぞわとした快楽が押し寄せてきた。

「そこ……、なにか、へんっ……」

「気持ちいいって、言うんだよ」

 更に刺激を加えられ、逃げ出したくなる。これまで感じたことのなかった感覚に襲われ、口を押さえた。

「まずはね、後ろが気持ちいいって知ってもらうことが第一なんだって。声を我慢しないで、いっぱい気持ちいいって言ってね」

「う……、あ……」

「そうしたら、もっとヨくなれるって」

 右手ではペニスをしごきながら奥を撫でられ、だんだんどちらが気持ちいいのかわからなくなってくる。

「あっ……、ぁあっ……、や……」

「や、じゃなくて、イイでしょ?」

「イイ……、イイけどっ……」

 どんどん頭が白くなっていく。

「なんか……へんっ……、へんなの……、まえとはちがうの……っ、クる……」

 足に力を入れて閉じようとするけれど、オリバーが許してくれない。

「ナカイキできそう? すごい、さすがウィルだ」

「や……、何……」

 ふいに前への刺激をやめ、袋と穴のあたりを撫でながら奥をえぐってくる。

「やだ……、おねがい、まえ、さわって……っ」

「後ろが気持ちいいって身体に覚え込ませなきゃいけないんだって。大丈夫! ウィルなら後ろでイけるから」

 何の根拠もなく聞きかじった知識を披露してくる幼馴染を蹴り飛ばしたい。なのに口からは喘ぎ声まじりの懇願しか出てこないし、身体はびくびくと震えている。
 イきたいのに、決定的な刺激がなくてもどかしい。ねだるように自分から腰を動かしてしまった。

「ははっ……、かわいい、ウィル。イきたいよね?」

 オリバーは左手はそのままに、上半身をあげて俺の口に再び口づけた。先程よりもねちっこい舌の動きに身体が跳ねる。魔法のように作り変えられてしまった。

「イきたい……、おねがい……」

 ふいに唇が離れた隙に懇願する。彼は顔をスライドさせ、耳元で囁いた。

「いいよ。イって」

 くに、と前立腺を押され、全身が快感で包まれる。

「ああぁっ……」

 ビクビクと身体をのけぞらせ、これまでにない気持ちよさに耐える。こんなの知らない。シーツを握って耐えていると、更にオリバーは中を刺激してきた。

「らめっ……、やめてぇ……っ! いま、イってるからぁ……」

「ナカイキだと、何度でもいけちゃうんだって」

 綺麗な笑顔が憎らしい。ぶんぶんと首を横に振った。

「へんになるっ……、くるっちゃう……もぅ……」

 けれどそれは幼馴染を興奮させるだけだった。

「え? ウィル、俺のことで狂ってくれるの? 嬉しいな」

 ぐりぃ、と再び指で押し付けられ、意味がわからなかった。

「やらぁ……、おねがっ……、も、ほんとにむりっ……! たすけてっ……」

 俺をいじめている相手に手を伸ばす。やっと指を抜いてくれた。

「そっか……、じゃあ、今日はここまでにしておこうね」 

 ふわ、とオリバーが俺の頭を撫でる。

「ウィル、可愛かったよ。すっごく好き。がんばってくれてありがとう」

 甘い言葉を吐きながら、何度も何度も撫でてくるが、到底それどころではない。余韻が辛い。気持ちよくて泣きそうになる、という感覚を初めて知った。

「……でも、オリバーはまだイってない」

「うん……、太もも使っていい?」

 上目遣いに見つめられ、何も考えずに頷く。身体をうつ伏せにされ、腰を上げさせられた。下に布団をつめられ、閉じた足の間にオリバーの熱いモノが入ってくる。

「……っ」

 指よりも何倍も太いそれがいつか入ってくるのだと思うとまたも下半身が熱くなってしまう。太もももローションで濡れているので卑猥な水音を出していた。

「はっ……、気持ちいい……っ、ねぇ、ウィル。身体にかけていい?」

 ぐちゅぐちゅという音とともに、オリバーの声も切羽詰まっていく。
 コクコクと頷いた。
 びゅる、と熱い飛沫が背中にかかる。彼は、ハ、と吐息を漏らして俺の上に落ちてきた。
 背中から抱きつかれ、尻尾と両手足で絡みつかれる。
 耳元で囁かれた。

「毎日ちょっとずつ慣らしていこう」

「……え」

 また明日もこの快楽を味わうのだろうか。
 立ち上がれそうにない。手足に力が入らない。こんなんで、身体がもつのだろうか。
 不安になっていると、背中にオリバーの唇の感触がする。しばらくそうして俺の項を堪能したあと、彼は満足げに俺を抱きしめ眠りについたのだった。
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