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第五章「満月の夜」
【幕間】かわいい狼さん(イリス視点)
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幕間のイリス→ウィル、イリス→ピオの掌編小説です。
本編に関係ないので、いらないと思われたら読み飛ばしてください。
_________________________________________
満月の夜に拾った可愛らしい人狼は、少し魔法をかけると腕の中で眠り始めた。
くぅ、くぅと規則正しい寝息を立てるウィルにイリスの頬がほころぶ。
「かわいいなぁ……」
妹にはああ言ったが、こんな愛らしい生き物が腕の中にいるのだ。撫でたくなっても仕方がない。イリスは狼の毛皮にふわり、ふわりと手を這わせる。柔らかい毛皮に口元が緩んだ。
ウィルの額に顔を近づける。獣の香りのはずなのにどこか甘い。
「……オリバー君、ずっとウィル君を忘れたままでいてくれないかなぁ」
願っても仕方がない願望を口にし、慌てて口をつぐむ。
同じ竜人として、彼の動向は気になっていた。ここのところのオリバーはどう見てもウィルに執心している。少し仲良くするだけで射殺しかねない視線を向けてくるのだ。
記憶がなくても、魂が求めているのだろうか。
ふいに昔を思い出す。
オリバーが自分の容姿に釣られて寄ってきた人にトロフィー扱いされて苦しんでいるのと同様に、イリスの容姿もまた変な人を引き付けた。
いきなり捕まり、奴隷として売られそうになっていた自分に大人たちは高値をつけ、なんとか競り落とそうとした。いい大人が目の色を変えて自分と妹を落札しようとする姿は不気味だった。
そうして買われていった先でピオに出会い、逃げてきた自分たちを保護してくれた。
元々隣に住んでいて仲が良かったし、奴隷として働かされている間も事あるごとに会いに来てくれて、本を貸してくれていた。
彼に文字を教わっていなければ今の自分はなかっただろうと思える。
だから、履き違えてしまったのだ。友情と愛情を。
ピオはどう見ても異性愛者だし、自分に恋愛感情は抱いていない。
それでもイリスはピオを愛してしまったし、彼を欲しいと望んでしまっている。それが愛を与えてることに喜びを見出す竜人の性なのか、自分の生物としての感情なのか、未だわからなかった。
あるのはただ宙に浮いたままの醜い感情だけ。
彼に近寄る女性に嫉妬し、恋愛対象として見てもらえないことに傷つき、それでも求めてしまうドロドロとした愛情をずっと捨てたいと思っていた
「……いいなぁ、オリバー君は」
隣にウィル君がいて。愛した人に愛を返してもらえて。
ふわり、とまたウィルの頭を撫でる。彼も同様に、オリバーが他の女性を見ていて苦しそうな顔をしていた。その顔を笑顔にしたいと思ったし、実際に笑ってくれた時には胸がくすぐられたようだった。古本屋を回っていて楽しかったし、もっと一緒にいたいと感じるようになっている。
ずっとオリバー君の記憶が戻らないで、ウィル君が私のそばを選んでくれたらいいのに。
ついつい抱いてしまった願望そのままに再び額に頬ずりをする。
急に毛が薄くなり、人間の姿に戻った。
「……ああ、そうか。人狼は寝たら人間の姿に戻っちゃうのか」
足を開き、膝の上に乗っかっている様子は対面座位のようでいたたまれない。そのうえ裸だ。
慌ててローブを取る。その際に、ふと気がついてしまった。
人肌が温かい。
服を通じてぽかぽかとぬくもりを与えてくれる。つい、ぎゅう、と抱きしめてしまった。
「……ウィル君、私のことを好きになってくれないかなぁ」
ムリだろうことはわかっている。彼の瞳に映るのはいつだって金色の髪を持つ竜人だ。
それでも、つい妄想をしてしまった。この家で彼と、妹の三人で暮らしている景色を。
きっと、穏やかで楽しい日々になることだろう。
いつまでも裸でいたら風邪を引いてしまう。服を着せようとした時だった。
ビキッ……。
不穏な音がして周囲を見渡す。すぐに被害に気がついた。窓ガラスに無数のヒビが入っていたのだ。
けれど今はそれどころではない。窓の外の光景に目が奪われていた。
そこには、怒りに目を血走らせた黄金の竜がいた。
本編に関係ないので、いらないと思われたら読み飛ばしてください。
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満月の夜に拾った可愛らしい人狼は、少し魔法をかけると腕の中で眠り始めた。
くぅ、くぅと規則正しい寝息を立てるウィルにイリスの頬がほころぶ。
「かわいいなぁ……」
妹にはああ言ったが、こんな愛らしい生き物が腕の中にいるのだ。撫でたくなっても仕方がない。イリスは狼の毛皮にふわり、ふわりと手を這わせる。柔らかい毛皮に口元が緩んだ。
ウィルの額に顔を近づける。獣の香りのはずなのにどこか甘い。
「……オリバー君、ずっとウィル君を忘れたままでいてくれないかなぁ」
願っても仕方がない願望を口にし、慌てて口をつぐむ。
同じ竜人として、彼の動向は気になっていた。ここのところのオリバーはどう見てもウィルに執心している。少し仲良くするだけで射殺しかねない視線を向けてくるのだ。
記憶がなくても、魂が求めているのだろうか。
ふいに昔を思い出す。
オリバーが自分の容姿に釣られて寄ってきた人にトロフィー扱いされて苦しんでいるのと同様に、イリスの容姿もまた変な人を引き付けた。
いきなり捕まり、奴隷として売られそうになっていた自分に大人たちは高値をつけ、なんとか競り落とそうとした。いい大人が目の色を変えて自分と妹を落札しようとする姿は不気味だった。
そうして買われていった先でピオに出会い、逃げてきた自分たちを保護してくれた。
元々隣に住んでいて仲が良かったし、奴隷として働かされている間も事あるごとに会いに来てくれて、本を貸してくれていた。
彼に文字を教わっていなければ今の自分はなかっただろうと思える。
だから、履き違えてしまったのだ。友情と愛情を。
ピオはどう見ても異性愛者だし、自分に恋愛感情は抱いていない。
それでもイリスはピオを愛してしまったし、彼を欲しいと望んでしまっている。それが愛を与えてることに喜びを見出す竜人の性なのか、自分の生物としての感情なのか、未だわからなかった。
あるのはただ宙に浮いたままの醜い感情だけ。
彼に近寄る女性に嫉妬し、恋愛対象として見てもらえないことに傷つき、それでも求めてしまうドロドロとした愛情をずっと捨てたいと思っていた
「……いいなぁ、オリバー君は」
隣にウィル君がいて。愛した人に愛を返してもらえて。
ふわり、とまたウィルの頭を撫でる。彼も同様に、オリバーが他の女性を見ていて苦しそうな顔をしていた。その顔を笑顔にしたいと思ったし、実際に笑ってくれた時には胸がくすぐられたようだった。古本屋を回っていて楽しかったし、もっと一緒にいたいと感じるようになっている。
ずっとオリバー君の記憶が戻らないで、ウィル君が私のそばを選んでくれたらいいのに。
ついつい抱いてしまった願望そのままに再び額に頬ずりをする。
急に毛が薄くなり、人間の姿に戻った。
「……ああ、そうか。人狼は寝たら人間の姿に戻っちゃうのか」
足を開き、膝の上に乗っかっている様子は対面座位のようでいたたまれない。そのうえ裸だ。
慌ててローブを取る。その際に、ふと気がついてしまった。
人肌が温かい。
服を通じてぽかぽかとぬくもりを与えてくれる。つい、ぎゅう、と抱きしめてしまった。
「……ウィル君、私のことを好きになってくれないかなぁ」
ムリだろうことはわかっている。彼の瞳に映るのはいつだって金色の髪を持つ竜人だ。
それでも、つい妄想をしてしまった。この家で彼と、妹の三人で暮らしている景色を。
きっと、穏やかで楽しい日々になることだろう。
いつまでも裸でいたら風邪を引いてしまう。服を着せようとした時だった。
ビキッ……。
不穏な音がして周囲を見渡す。すぐに被害に気がついた。窓ガラスに無数のヒビが入っていたのだ。
けれど今はそれどころではない。窓の外の光景に目が奪われていた。
そこには、怒りに目を血走らせた黄金の竜がいた。
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