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ミロ✕省吾番外編

ミロ✕省吾番外編10

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「結局、ランプ達の嫌がらせだったのかぁ」

 ノアはため息を付きながら椅子に腰掛ける。ミロも隣に座った。ミロの首にあった傷はノアによって治されている。
 このあと警察で事情聴取を受けなければいけないが、警察の方が事情を汲んでくれ、ノアとミロは省吾の発表を聞くことが出来たのだった。これは二人の身元がしっかりしたものだったからである。
 中央に大きな黒板があり、その横に大きな紙を飾るためのスタンドが立っている。ここに持ってきた発表の補助資料をかけていくのだった。黒板を取り囲むように机が段になって設置されている。省吾曰く、“あちらの世界の大学の講義室と似たような作り”とのことだった。
 
「最初は偶然知り合ったらしいけど、省吾の研究を知っていく内に阻止しなきゃって思ったらしいんだ」

 これは、直接ダミアンから聞いた話である。捕まった彼に、なんでこんな事を? と尋ねたら、手短に答えてくれた。
 
「ランプの奴らはすごく能力が高いというわけではない。だからといって、武力体力に優れているわけでもない。中途半端なのに勉強をしないから給料の高い仕事につけない。省吾の研究が発表されたら居場所がなくなると思っていたんだろうな」

 ミロからしたら、甘えるなといいたいところである。
 こちらは毎日汗水垂らして訓練をして体を鍛え上げているというのに。

 壇上ではサイと省吾が発表のためのセッティングをしている。今は合間の五分休憩だった。サイも省吾もフォーマルな黒いローブを纏っており、普段は化粧やアクセサリーでゴテゴテと着飾っているサイのシンプルな姿は珍しかった。
 
「人を襲ったり、やり方が間違っていたのは俺も認めるんだけどさ」

 ノアは面白くなさそうに口を開く。
 
「先天性のものに恵まれなかった場合は上手くその不足と付き合っていかなきゃいけないんだよね。それで、自分にはないのに他の人には存在するのを知って、それがキラキラと輝いているように見えたら嫉妬しちゃう」

 ミロはノアに視線を移す。ノアは淡々と続けた。
 
「省吾が作った電力みたいに自分の誇れる所を代替するものが出来てしまったら不安になる気持ちは、わからなくもないなぁ。……コンプレックスだらけの自分しか残らないんだもん」

 ノアはミロから見ても魔力、知力ともに恵まれている人間だと思っていた。お前が言うか、と言いそうになり、すぐに思い直す。彼が言っているのは魔力のことではない。
 ノアは生まれつき魔力が高い。知力もあるから様々な魔具を作ることが出来る。けれど、人を愛する力が弱い。本人曰く、恋愛小説は高等学術書よりも難易度が高いのだとか。
 ミロはノアの頭を乱暴に撫でる。
 ノアは唇を尖らせて目を半眼にしてミロに視線を向けたが、何も言わずに薄く笑った。





 省吾の発表が終わり、質疑応答に入った。彼の発表はわかりやすく、専門知識がなくてもすんなりと理解することが出来た。隣でノアも興味深そうに壇上を見つめている。
 前段に座っていた初老の男が手をあげる。基本的に教授陣やアカデミーの生徒が前に座るらしいので、彼もきっと学会関係者だろう。
 
「興味深い内容で大変面白く聞かせていただきました」

 ノアが耳打ちをする。彼は学生時代の先輩で魔具製作関連の研究者だ、と。
 
「今回、ミサキ様が発表なされた電力を魔力の代替エネルギーとして使う案ですが、雇用の冷え込みを招く事に繋がらないのでしょうか」

 ピクリ、と省吾が反応する。
 この発表準備の間、本人自身がずっと考えていたことだろう。彼は質問した男の方を見る。
 
「ご質問をありがとうございます。私は、そうはならないと信じています。今回製作したものはあくまで魔力の代替エネルギーであって、魔力そのものではありません。また、エネルギー量も多くはないので、すぐに雇用に影響するようなことはありません」

 発表の間ずっと、省吾の一人称は私になっていた。
 どちらかというと、と省吾は続ける。
 
「私の研究は、裾野を広げる役割を担っていると思っています。この世界の器具の多くは魔力を原動力にしています。なので、魔力が少ないものからすると生きづらい世界です。私は、そういったこれまで生きづらかった人達が、少しでも楽に生きることが出来るようにと今回の研究を続けてきました」

 省吾はまっすぐに男を見つめていた。
 
「今回の研究により、元々魔力を持つ人手がいる場面は減るかも知れません。けれど、その分これまで手が回っていなかった分野に人が流入し、発展するチャンスにも繋がるのではないかと私自身は思っております。……代替エネルギーが出来たからと言って、その人自身の本来の能力が変わるわけではないので」

 そこまで言うと、省吾は眉尻を下げた。それ以上言葉が続かなかったので、返答は終わりだと判断したのだろう、先程の男性が「ありがとうございました」と返答していた。
 
 結果として、省吾の発表は成功と言えるだろう。複数のスポンサーに打診され、彼の研究に補助金が降りたのだから。
 
 
 
 
 居酒屋の一角でミロとノアは乾杯、と盃を傾けた。居酒屋とはいえ個室になっており、周囲の喧騒は聞こえてこない。二人共国の要人であるからして、外で酒を呑む場合、こうして秘密が守られる場所を選ぶのだ。
 サイと省吾は研究発表後のアカデミーのパーティに呼ばれ、部下たちは解散。ミロとノアは先程取り調べが終わり帰ってきたところだった。
 
「ダミアン達は厳重注意処分で終わりそうだね」

 ノアは少し不満そうに告げる。警察で話を聞いたところ、やったことが傷害罪と脅迫罪だった。けれど、傷はもうノアが治してしまったし、被害者である省吾が大きな問題にして欲しくないと言っていた事から、温情が与えられそうだったのだ。
 ミロはテーブルの上に並べられた南国料理の一つである魚の炙り焼きに手を伸ばす。
 
「まぁ、実害は出てないわけだもんなぁ」

 ミロのメンタル面に多大な被害を負ったが、それについては口には出さない。その時、個室の扉が開いた。
 
「お疲れ様~。先に飲んじゃってるの?」

 サイと省吾が入ってきた。彼らは紙の袋を所持しており、ローブも昼に着ていたフォーマルなものなので直接こちらに向かったのだろう。
 
「おぅ、お疲れ」

 ミロは手を上げ、二人を歓迎する。サイは中に入るとミロの隣に腰を下ろす。省吾はその向かい、ノアの隣に腰掛けた。
 ミロは省吾にメニューを差し出す。
 
「省吾もお疲れ様。発表している姿、かっこよかったな」

 笑顔で告げると、省吾は頬を赤くした。
 
「ミロが発表前に激励してくれたから……。だから、頑張れたんだ」

 はにかむ顔は可愛らしい。目を細めると、省吾はそっと視線をそらした。

「えっと、サイ、何食べようか」

 省吾はサイにメニューを見せる。今日はノアとミロが奢ると言うと、彼は礼を告げてきたが、その後も不思議なほどに省吾と視線があわなかった。
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