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ミロ✕省吾番外編

ミロ✕省吾番外編8

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 発表当日である。
 省吾はサイと連れ立って控室で最後の確認をしているらしく、終わった後でないと会えないようだった。ミロはノアと連れてきた部下数人を配置していく。今日は甲冑は纏っておらず、一般人の服装を着ての参加である。
 なお、彼らは省吾を知っている兵士達だったので、たまたま非番で、かつ省吾の発表会と聞いて張り切って来ているようだった。
 突貫工事で作成したイヤーフックを全員に渡すと中と外、それぞれに5人ずつ警備についてもらう。怪しい人間がいたら事情聴取をするようにと指示してあった。

「へぇ、すごいねぇ。アンタの一言で十人もの人が非番なのに来てくれたんだ」

 ダミアンがミロの姿を見るなり馴れ馴れしく話しかけてくる。現在ミロはロビーで行き交う人々を観察中だった。現在この場にはミロとダミアンしかいない。一対一で話し合うには苦手な相手の出現に、ミロは心の中で舌打ちをした。

「省吾もきっと喜ぶと思うぜ。あとで控室に顔を出してやりなよ」

 身内のような言い方に不満が顔に出たのか、ダミアンは楽しそうに笑ってミロの顔を覗き込んできた。

「アンタ、本当に省吾のこと好きなんだな」

 至近距離で真紅の瞳に見つめられ、ミロは睨み返す。目を細めたダミアンがミロの耳元で囁いてきた。

「俺と省吾が浮気してても、それでも好き?」

 一瞬、思考が停止した。すぐに彼の手を離させると距離を取る。一瞬でも妄想してしまい、鳥肌が立った。ダミアンは相変わらず下品な笑いを浮かべてミロを見ている。

「省吾、俺に突っ込まれて涙目でアンアン喘いでんの、めちゃくちゃカワイイの。背中に手を伸ばしてきて、もっと、もっとって……」
「黙れ」

 いつもの癖で腰の剣に手をやる。今は一般人のふりをしているので短刀しかなかった。

「証拠、見たい?」
「見たくない。省吾に直接聞く」
「へぇ、勇気あんね、アンタ」

 ミロはダミアンに背を向け歩き出す。本当だと思えなかったし、これ以上話を聞いていたくもなかった。ダミアンはミロの後ろをついてくる。振り切りたくて闇雲に廊下を曲がった。
 省吾はそんなに器用なタイプではない、とミロは思っている。
 実際、クリスとお勤めをしていた時はうまく感じられなかったようだ。それほど心が体に現れる。
 しかし。
 ふと、ここのところ目を合わせようとしなかった省吾が思い浮かぶ。
「浮気している時って、目をあわさないようにするのよね」
 女性兵士達の雑談まで脳裏によぎり、ミロは奥歯を噛み締めた。その時だった。

「っ!?」」

 急激な睡魔に襲われ、目の前が歪む。膝をつくと、ダミアンとグリゴリー、それにフェリックスの三人がミロを取り囲んでいた。




 ミロが目を覚ますと、椅子に座らされ、薄暗い部屋で手足を拘束されていた。手は後ろ手に縛られ、足は椅子の脚に固定されている。

「ああ、起きた?」

 ダミアンが近寄ってきて、にぃ、と口角を上げた。いたずらげな瞳には残忍な色が乗っている。
 周囲を見渡す。真っ黒なカーテンで光を遮っているあたり、地下ではないらしい。兵士宿舎の新人生の居室と同じくらいの狭い部屋で、男達は扉を背にミロを見つめていた。

「……なんで、お前ら」

 まだ舌が上手く回らない。ダミアンは肩をすくめた。

「ちょっと、省吾の発表を取り止めにしてほしくてね」
「そうそう。魔力の代替の動力とか、俺らからすると、いい迷惑なんだよな」

 ダミアンの言葉にフェリックスが追従する。ミロは顔をしかめた。

「迷惑?」
「そう。アンタみたいな上流階級の奴にはわかんないと思うけどさ、俺らみたいなランプ程度の仕事にしかありつけない人間からすると、魔力を電力で代替されると迷惑なわけ。仕事なくなっちゃうだろ」

 ミロは愕然として三人を見る。冗談を言っている訳ではなく、全員本気という顔をしていた。

「お前ら、そんな事のために学会を爆破するだなんて予告を出したのか?」

 当然のように三人とも頷く。

「情報を聞き出すのは簡単だった。省吾はすぐに俺達を信用して色々教えてくれたからな」

 にぃ、とダミアンの口角があがる。昔絵本で見た悪魔のような微笑みだと思った。
 
「そうそう。しかも、俺らを信頼して自分から手紙の相談までしてきたんだよな。俺、笑い出さないように必死だった」

 ゲラゲラと笑いながらフェリックスが言う。腹の底が熱くなった。無遠慮にダミアンが近づいてくる。

「悔しそうな顔してんなぁ? 省吾が可哀想ってか? これを聞いてもまだそう思っていられるか?」

 グリゴリーが持っていたカバンから録音機を取り出す。以前ノアが持っていたものよりも若干大きいが仕組み自体は同じようだった。
 彼がスイッチを入れる。録音機からは荒い音ながら、省吾の声と聞き取れる声が聞こえてきた。

『あっ……ダメ、そこっ……』
『ほらほら、もうちょっと我慢しろって』
『省吾、すぐ痛いって言うよな。雑魚すぎ』
『だって……、三人いっぺんなんて、辛くて……』

 ここまでで再生が止められ、三人が得意そうな顔をしてミロを見つめている。喘いでいる声は間違いなく省吾のものだった。ダミアンとフェリックスの煽る声も聞こえる。グリゴリーは言葉こそ発しなかったが、再生中ずっとクスクスと笑い声が入っていた。

「浮気現場。録っちゃいました」

 グリゴリーが小首を傾げる。胃に不快感が広がり、吐きそうだった。

「この時の省吾、傑作だったよな。上でも下でも俺らのブツ咥えて、自分から腰振っててさ」
「恋人に申し訳ねぇとか思わねぇの? って聞いてみたらどうせバレないからいいんだって」

 三人はどっと手を叩いて嘲笑している。
 今すぐ斬り殺したくなった。しかし、捕まった時に短刀とイヤーフックは取り上げられてしまっており、助けを求める手段はなかった。なんとか縄を外そうと試みるが強く縛り付けられており時間がかかりそうだった。

「浮気されて憎くねぇ? まぁ、俺たちは楽しませてもらったからいいんだけど」

 ダミアンがミロの顔を覗き込んでくる。
 嫌悪感を顕に睨みつけたが、彼は気にした様子なくニヤニヤと笑っているだけだった。

「さて、あと一時間で発表というところかな」

 フェリックスが時計を見る。彼がダミアンに目配せをすると、ダミアンも頷き返した。そうしてフェリックスとグリゴリーを残し、彼は去る。

「省吾に揺さぶりをかけないとね。アンタも仲間に加わる?」

 グリゴリーがミロの顎を撫でながら問う。触るな、と言いたかった。
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