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ミロ✕省吾番外編

ミロ✕省吾番外編7

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「緊急事態よ」 
 
 明後日に省吾の発表が迫った夕方、ミロは夕食休憩のためにメニューを見ていたところ、首根っこを引っつかまれノアの研究室へと運び込まれた。 
 中ではノアがラーリを一列に並べており、真剣な顔をして指示を飛ばしていた。彼の隣にダミアン達もおり、真剣な顔で何かを話し合っている。 
 
「緊急事態?」 
「これを見て?」 
 
 ようやく話せそうだったので口を開いたら、サイは真面目な顔をしてミロに一枚の手紙を渡してきた。 
 以前見た嫌がらせの手紙と同じ文字で印刷されていた。 
 
「……発表を辞退しないと、会場を爆破する」 
 
 読みながら眉根にシワが刻まれていく。本気か、と思いながらサイを確認したら、彼もノアも真顔だった。 
 
「これ、アカデミーで公式文書を書く時に誰でも使えるフォントで、嫌がらせにも大人気なんだよね」
「つまり、アカデミー関係者って線が濃厚になってきたってわけ」
 
  なるほど、と頷きながらも、何故この三人がいるのかと目で示す。
  
「昨日省吾の部屋に遊びに行ったらこの手紙を見つけたんだよ。省吾は隠そうとしていたみたいだけど、やっぱり心配だろ?」
 
  ミロの視線に気がついたダミアンが返した。
  遊びに行ったら? 聞き捨てならない言葉に顔をしかめると、サイは察したように返した。
  
「三人で行ったのよね! ほら、省吾最近忙しそうだったし、息抜きを兼ねて、ね!」
「そうそう。おかげでこれ発見できたんだからさ!」
 
  ダミアンが薄く笑って同調する。思うところはあるが、今はあえてツッコミを入れなかった。
  
「それで、警察には言ったのか?」
 
  ミロは尋ねる。これにはグリゴリーが返した。
  
「行ったけど、まだ何も起こっていないからって追い返されたんだ。こんなイタズラでいちいち動くわけにはいかないからって」
 
  ミロ達のいる親衛隊と警察は管轄が別れており、ミロの方から何かを言って動かせるわけではない。
  
「いかにもお役所仕事って感じねぇ」

 呆れた、という顔をしてサイが返す。ノアは自らの尖らせた唇を人差し指でつついた。

「昔からそうだったよ。警察は証拠がないと動かない。だから俺、ラーリを使って徹底的に証拠を集めたもん」

 ノアはラーリの中から一匹を取り出して抱える。どうやらこのラーリは彼の私的な飼いラーリらしい。

「ああ、あんた昔からこういう手紙もらってたものねぇ」
「サイみたいに正面から嫌いって言ってくれるんだったらまだわかりやすくて好きなんだけどね」

 ふぅ、とノアはため息をつく。サイは気まずそうな顔もせずに平然とノアを見つめていた。会話としては緊張感が漂うものなのに陰湿な雰囲気にならないのは、彼らが心の底では信頼しているからだろう。

「手紙を使ったりして年々陰湿になっていっていたから、こうやってラーリに証拠を持ってきてもらうのが一番楽だったんだ」

 ノアの持っていたラーリが得意そうに縦長い機械の箱を取り出す。鉱石が収められており、周囲を細い金属線が所狭しと敷き詰められていた。

「これはねぇ、三時間分の音声を録音しておけるんだぁ。再生もできるから、証拠として提出しやすかったんだよねぇ」

 ぴ、とラーリが中央につけられたボタンを押す。どうやら録音されていたようで、先程のノアの言葉が再生されていた。

「あと、これは今回のために作ってみたよ」

 机からノアは六個のイヤーフックを持ってくる。先端に藍色の鉱石がついており、頭に触れる部分に呪文の書かれた金属片が取り付けられていた。
 ノアは耳にかけながら説明をする。

「ここの鉱石を押さえながら喋りたい相手を思い浮かべると、半径五キロ以内ならその人と通話出来るんだ」

 ノアはミロにイヤーフックを差し出す。つけろ、ということだったのでミロは耳につけた。鉱石を押さえ、ノアの顔を思い浮かべる。リィ……と高い音が響き、直接脳にノアの声が響いた。

『聞こえる?』
「おお!」

 ミロは目を見開く。他の四人はキョトンとした顔をして二人の様子を観察していた。

『俺の声は聞こえるか?』

 念じてみると、すぐにノアの肯定の声が返ってきた。

『うん。成功だね。よかったぁ』

 ノアは自分のイヤーフックを外すと使ってみるように他の四人にも渡す。彼らは皆一様に驚いていた。

「これで当日は俺たちで省吾を守ろうね。一応、警備としては普段と同じように人を配置しているんだと思うけど、念には念を入れておこう」
「そうだな。俺も……職権乱用にはなるが、部下に声をかけてみる。暇な奴がいたら連れていきたい」
「助かるわ。私は当日省吾のアシスタントで抜けられないから」

 ノア、ミロ、サイと今後について話し合う。

「省吾、愛されているんだなぁ」

 その様子を見てダミアンが感慨深そうに口を開いた。グリゴリーもフェリックスもコクコクと頷く。

「警察に行って相手にされなかった時、もう俺らで頑張るしかないって思ったけど、お前たちみたいな奴がいてくれてよかったよ」

 にっこりとダミアンが人懐こい笑みを浮かべる。省吾の身内のような言い方が引っかかったが、彼らも省吾に対して親愛の情を向けているのだろう。ミロは苦笑を浮かべた。

「ああ。こっちもお前達が気がついてくれてよかった」
「なんとか学会を成功させような」

 笑って頷きあう。
 こうして当日の打ち合わせをしてサイ達は帰っていったのだった。


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