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スピンオフ「クリス✕リィト編」
スピンオフ「クリス✕リィト編」第15話
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鬱々としたまま研究を終わらせ、家に帰る。外に出る気にもなれなくて、買い置きのパンを薄く切り咀嚼していた。クリスがいないとリィトの食事はとたんに貧しくなる。
一人ではちゃんと料理する気がおきないのだ。
今後の対策を考えていると、コンコン、と扉がノックされる。
「こんばんは、リィト。いるのかい?」
クリスである。
ひぇ、とリィトは背筋を正す。
「昨日のことで話があるんだ。開けてくれないか?」
次第に体が震え始める。
優しい彼のことだから、きっとリィトに対して怒ることはしない。それどころか体は大丈夫かとか。そういう心配をされるのだろう。
そうして、昨日のことは間違いだったと告げられるのだ。
なかったことにされるのであれば上々だ。けれど、気まずく思った彼から距離を取られたら。
思考はどんどん悪い方へと進んでいく。
リィトは扉の前に立って、どうすることも出来ないまま時間が経つのを待っていた。出来ることならばこのまま帰ってもらいたい。
「リィト? おかしいな。明かりはついていたはずなのに……」
クリスは再びドアをノックする。
しまった、と思うが後の祭りである。リィトが消し忘れたのだと思って去ってくれるのを待つしかない。
パラパラ、と音がして、雨が降り始めたのがわかった。すぐに本降りになり、石畳を叩く音が強く聞こえる。
玄関に屋根はあるものの、これだけ降ったら濡れてしまうだろう。お願いだから早く帰ってくれ。祈るような気持ちで考えていた時だった。
「あれ? クリス、どうしたんだ?」
省吾の声がする。
彼はちょうど今帰ってきたところなのだろう。
「省吾様……。リィトを訪ねてきたんですが、どうやらいないみたいで。彼が帰ってくるまでここで待とうと思ったんです」
ざぁ。
叩きつけるかのような雨の音が更に強くなる。省吾の戸惑ったような声がした。
「え? この雨の中を? ここの屋根、古くて雨漏りもしてんじゃん。よかったら俺の部屋で待つか?」
「え」
思わず声をあげてしまい、慌ててリィトは口をふさぐ。
「省吾様の部屋、ですか?」
クリスの戸惑ったような声がする。
やめてくれ、と思わず出ていきそうになった。
こんな雨の中、初めての相手と二人きり。小説や劇では何かが起きるパターンだ。
「うん。リィトが帰ってくるまで」
「え……、でも」
「遠慮すんなって! 風邪を引いちゃいけないし」
元気な省吾の声に不安になり、ドアノブに手をかけた。
「すみません、省吾様」
穏やかなクリスの声がする。
「省吾様の言葉でも、それは出来ません。きっと、ミロ様が嫌がると思うので」
「……え」
「俺だったら、前に体の関係を持った人と自分の恋人が仕方がないとはいえ家で二人きりになるのは嫌なんです。ミロ様もきっとそうだと思います。だから、出来ません」
まるで子供に言い含めるようなクリスに、省吾の焦ったような返事があった。
「あ、……その、俺、そういうつもりじゃなくて!」
「はい。省吾様が優しさで言ってくださったことは理解しています。でも、やはりミロ様に対して申し訳が立たないので」
リィトはその場に蹲る。頭を抱え、痛烈に思った。
だからクリスが好きなのだ、と。
省吾の部屋でクリスと二人きりになったことは、どちらかが言わなければきっとバレない。
省吾も大した事だと捉えていないから、ミロに報告なんて考えもしないだろう。ならば、二人の時間を楽しめばいいのに、クリスは毅然と線を引いた。
雨に体が濡れるのにも構わず、仁義を押し通した。
だめだ。
リィトは諦める。
彼への気持ちを捨てることなんて出来ない。前に進めなくてもいい。もし、昨日のことで拒絶されても、それが彼の出した答えなら受け入れる。
覚悟を決めてドアの取っ手を捻った。
「……リィト」
ドアが開いた事で二人の視線がリィトに集中する。
リィトは省吾の方を見た。
「あの、ごめん……。僕、うたた寝してて。クリスはこっちで引き取らせてもらうね」
嘘ではあるが、ついた方がいい嘘もある。
省吾は眉尻を下げた。
「うん。わかった。ごめんな、クリス。変なことを言って」
「いえ、嬉しかったです」
一人ではちゃんと料理する気がおきないのだ。
今後の対策を考えていると、コンコン、と扉がノックされる。
「こんばんは、リィト。いるのかい?」
クリスである。
ひぇ、とリィトは背筋を正す。
「昨日のことで話があるんだ。開けてくれないか?」
次第に体が震え始める。
優しい彼のことだから、きっとリィトに対して怒ることはしない。それどころか体は大丈夫かとか。そういう心配をされるのだろう。
そうして、昨日のことは間違いだったと告げられるのだ。
なかったことにされるのであれば上々だ。けれど、気まずく思った彼から距離を取られたら。
思考はどんどん悪い方へと進んでいく。
リィトは扉の前に立って、どうすることも出来ないまま時間が経つのを待っていた。出来ることならばこのまま帰ってもらいたい。
「リィト? おかしいな。明かりはついていたはずなのに……」
クリスは再びドアをノックする。
しまった、と思うが後の祭りである。リィトが消し忘れたのだと思って去ってくれるのを待つしかない。
パラパラ、と音がして、雨が降り始めたのがわかった。すぐに本降りになり、石畳を叩く音が強く聞こえる。
玄関に屋根はあるものの、これだけ降ったら濡れてしまうだろう。お願いだから早く帰ってくれ。祈るような気持ちで考えていた時だった。
「あれ? クリス、どうしたんだ?」
省吾の声がする。
彼はちょうど今帰ってきたところなのだろう。
「省吾様……。リィトを訪ねてきたんですが、どうやらいないみたいで。彼が帰ってくるまでここで待とうと思ったんです」
ざぁ。
叩きつけるかのような雨の音が更に強くなる。省吾の戸惑ったような声がした。
「え? この雨の中を? ここの屋根、古くて雨漏りもしてんじゃん。よかったら俺の部屋で待つか?」
「え」
思わず声をあげてしまい、慌ててリィトは口をふさぐ。
「省吾様の部屋、ですか?」
クリスの戸惑ったような声がする。
やめてくれ、と思わず出ていきそうになった。
こんな雨の中、初めての相手と二人きり。小説や劇では何かが起きるパターンだ。
「うん。リィトが帰ってくるまで」
「え……、でも」
「遠慮すんなって! 風邪を引いちゃいけないし」
元気な省吾の声に不安になり、ドアノブに手をかけた。
「すみません、省吾様」
穏やかなクリスの声がする。
「省吾様の言葉でも、それは出来ません。きっと、ミロ様が嫌がると思うので」
「……え」
「俺だったら、前に体の関係を持った人と自分の恋人が仕方がないとはいえ家で二人きりになるのは嫌なんです。ミロ様もきっとそうだと思います。だから、出来ません」
まるで子供に言い含めるようなクリスに、省吾の焦ったような返事があった。
「あ、……その、俺、そういうつもりじゃなくて!」
「はい。省吾様が優しさで言ってくださったことは理解しています。でも、やはりミロ様に対して申し訳が立たないので」
リィトはその場に蹲る。頭を抱え、痛烈に思った。
だからクリスが好きなのだ、と。
省吾の部屋でクリスと二人きりになったことは、どちらかが言わなければきっとバレない。
省吾も大した事だと捉えていないから、ミロに報告なんて考えもしないだろう。ならば、二人の時間を楽しめばいいのに、クリスは毅然と線を引いた。
雨に体が濡れるのにも構わず、仁義を押し通した。
だめだ。
リィトは諦める。
彼への気持ちを捨てることなんて出来ない。前に進めなくてもいい。もし、昨日のことで拒絶されても、それが彼の出した答えなら受け入れる。
覚悟を決めてドアの取っ手を捻った。
「……リィト」
ドアが開いた事で二人の視線がリィトに集中する。
リィトは省吾の方を見た。
「あの、ごめん……。僕、うたた寝してて。クリスはこっちで引き取らせてもらうね」
嘘ではあるが、ついた方がいい嘘もある。
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「うん。わかった。ごめんな、クリス。変なことを言って」
「いえ、嬉しかったです」
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