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スピンオフ「クリス✕リィト編」

スピンオフ「クリス✕リィト編」第11話

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 クリスがトイレに行った隙に、リィトはポケットから惚れ薬を取り出す。ガラス製の小瓶はキラキラとランプの明かりを反射して光っていた。

 一日で効果が切れて、しかもその間のことは忘れてしまう。

 クリスはリィトに対して、恋愛相手とは見られないようだった。
 でないと、恋人ができれば嬉しいだなんて到底言えない。少なくともリィトはクリスに恋人が出来たら、発狂してしまう自信はある。

 では、リィトがクリスに告白したらどうか。
 何度も考えた可能性は、けれど幼馴染みを失いたくない一心で否定した。彼に断られ、気まずくなって会うこともできなくなるなんて嫌だ。
 ぎゅ、とリィトは惚れ薬の蓋を開けるとクリスのワインに向かい全部入れたのだった。


「あれ? ワインの味、ちょっと変わってないかい?」

 クリスは飲みかけのワインに再び口づけると首を傾げる。リィトは用意しておいた別の瓶を出した。

「バレたか……。実は、このワインが少し残っていたから僕のとクリスのに入れておいたんだ」
「へぇ、そうなんだ」

 クリスはすぐに順応してワインを飲む。褒められた飲み方ではないが、案外混ぜても美味しいんだね、とクリスは笑ってくれていた。

 じ、とリィトはクリスを観察する。
 彼はリィトと目があうと、首をかしげて微笑んだ。かわいい。好き。とつい口に出しそうなところを我慢してリィトも笑顔を作る。
 クリスの頬が赤くなった。ん? とリィトは目を細めクリスを観察する。
 クリスの反応は、自分に好意を寄せる多くの男女と同じだった。瞳が潤み、熱がこもっていく。
 リィトは自分の心臓が音を立てて暴れまわるのを感じた。

「……どうしたんだい? クリス」

 わかっているくせに小首をかしげて尋ねる。クリスはぱっと目をそらした。

「ごめん……。なんでか今日の君はすごく綺麗に思えて……」
「そうかい?」
 
 リィトは震えそうになるのを必死に堪える。緊張で喉が渇いていた。
 クリスは視線を宙に浮かべる。

「えっと……、なんだか熱くなってきたな。酔っているみたいだし、今日のところはこれで帰ろうかな」
 
 ガタ、とクリスは席を立つ。慌ててリィトは引き止めた。

「酔っているのなら、無理に帰るのは危ないんじゃないかい? 泊まっていきなよ!」
「え」
 
  クリスは首まで赤く染まり、慌ててリィトの手から逃れる。

「だ、ダメだよ! そんなの、危ない……」
「危ない? なんでだい?」

 更にリィトはクリスに近づく。
 クリスがまた一歩下がるが、リィトも更に距離を詰めるだけだった。

「まさか君が僕を襲うなんて、そんなことあるわけないだろう?」

 上目遣いに尋ねてみる。どうせ後で忘れるのだ。強気にもなれるというものである。
 クリスは必死にコクコクと頷く。こんな時でも肯定するのかとリィトは苛ついた。
 リィトはクリスの手を取ると、指をあわせる。

「……僕は別に、クリスになら襲われてもいいけど」

 リィトは他人を誘惑したことはないが、誘惑を仕掛けられたことはある。
 過去の体験を思い出しながら、リィトはねっとりとした手付きでクリスの胸板に触れた。相変わらず大きな体は熱い。心臓の方に手を置くと、バクバクと脈打っているのが聞こえたような気がした。

「……クリスは、僕とじゃ嫌?」

 上目遣いに見つめる。クリスの喉がゴクリと鳴る。
 イケる、とリィトは思った。
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