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スピンオフ「クリス✕リィト編」
スピンオフ「クリス✕リィト編」第5話
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クリスは以前よりも頻繁にリィトに会いにくるようになった。
リィトもクリスが会いに来てくれるのは嬉しいが、クリスが来たら高確率で省吾も一緒に夕食を食べるものだから胃が痛い。
省吾は他人と一緒にする食事に対して嬉しそうに頬を緩めるものだから辞めろと言いづらい。そのうち省吾は一人でもリィトの部屋を訪ねてくるようになったし、省吾の恋人らしき騎士とも知り合いになった。
ミロと名乗っていた彼はリィトに対し、良くしてくれるお隣さんと省吾から聞いていると話してくれ、余計に嫉妬をしている自分が惨めに思えたのだった。
省吾を疎ましく思っていたリィトだったが、彼のしている研究を聞いて彼に対して興味を持つようになった。
「え? じゃあこの電力ってやつを魔力に変える事ができるのかい?」
省吾はヒジリであった時には少しの魔力が使えたようだったが、新しいヒジリが来てからというもの、言葉の翻訳機能をなくし、魔力も使えなくなってしまったのだという。
彼は街に降りてから美容医療関連の医院で世話になっていたが、魔力を使える事を前提に作られた魔具の多い医療の世界で彼ができることといえば事務仕事ばかりになってしまう。
しかし、異世界から来た彼のできる事務仕事はラーリという、スライム型人形でもできてしまう。そこで自分になにか出来ないかと探したところ、電力という、磁石に金属の糸を巻き付けて引き起こす力を人間の本来持っている魔力に変換出来そうだと気が付き、その研究を始めたのだという。
「うん。来月の学会で発表する予定なんだけど、うまく話せるか心配で……」
サイという、省吾の務めている医院の医者に強く勧められて技術を学会で発表するにまで至っていると聞いてリィトは目を剥いた。慣れない言語で学会発表をする大変さは想像に難くない。
彼の研究にまつわる書類を読ませてもらい、技術の素晴らしさに舌を巻いた。
「なんだこれは! すごいじゃないか! これが実用化されれば魔力を持っていない人間でも補助器具を扱えるようになる!」
リィトは視界がキラキラと輝いていく錯覚を抱く。省吾は照れたように頭をかいた。
「ありがとう。俺、あっちの世界でこういう電気とかについて勉強していて……。こちらの世界でも使えないかと思ってやってみたんだ」
なるほど、とリィトは思う。
すでにあるもので何とかなってしまう場合、多くの人間は代替案を考えない。ハサミがあるのにわざわざ新しく道具を作ってまで紙を切ろうと思える人間はなかなかいない。
魔力の代替エネルギーに対して、かねてよりリィトも考えていたが、電力というものの存在を知らなかったために発明出来なかった。
省吾が異世界から持ち込んだ技術は魔法のようにすら思えたのだった。
「すごいな! 当日ぜひ僕も君の発表を見に行きたい! そして可能ならば技術を提供してほしい」
学会の名前を見ると、リィトも参加資格のあるものだった。彼は一定以上の技術、学力水準のあるアカデミーの会員なので、そちらに打診すれば省吾が発表する予定の学会に参加できるだろう。
「え、あ、うん……。リィトが見てくれてるんなら心強いな」
そんな事を言って省吾はにっこりと笑った。相変わらず、真夏のひまわりのような笑顔だと思った。
こうして省吾の発表は無事に終わり、多額の寄付金を集めることに成功した。
この頃には省吾はサイの勧めとリィトの引き抜きにより、リィトの所属するアカデミーの研究所で電力による医療器具の研究、開発をするようになっていた。
リィトもクリスが会いに来てくれるのは嬉しいが、クリスが来たら高確率で省吾も一緒に夕食を食べるものだから胃が痛い。
省吾は他人と一緒にする食事に対して嬉しそうに頬を緩めるものだから辞めろと言いづらい。そのうち省吾は一人でもリィトの部屋を訪ねてくるようになったし、省吾の恋人らしき騎士とも知り合いになった。
ミロと名乗っていた彼はリィトに対し、良くしてくれるお隣さんと省吾から聞いていると話してくれ、余計に嫉妬をしている自分が惨めに思えたのだった。
省吾を疎ましく思っていたリィトだったが、彼のしている研究を聞いて彼に対して興味を持つようになった。
「え? じゃあこの電力ってやつを魔力に変える事ができるのかい?」
省吾はヒジリであった時には少しの魔力が使えたようだったが、新しいヒジリが来てからというもの、言葉の翻訳機能をなくし、魔力も使えなくなってしまったのだという。
彼は街に降りてから美容医療関連の医院で世話になっていたが、魔力を使える事を前提に作られた魔具の多い医療の世界で彼ができることといえば事務仕事ばかりになってしまう。
しかし、異世界から来た彼のできる事務仕事はラーリという、スライム型人形でもできてしまう。そこで自分になにか出来ないかと探したところ、電力という、磁石に金属の糸を巻き付けて引き起こす力を人間の本来持っている魔力に変換出来そうだと気が付き、その研究を始めたのだという。
「うん。来月の学会で発表する予定なんだけど、うまく話せるか心配で……」
サイという、省吾の務めている医院の医者に強く勧められて技術を学会で発表するにまで至っていると聞いてリィトは目を剥いた。慣れない言語で学会発表をする大変さは想像に難くない。
彼の研究にまつわる書類を読ませてもらい、技術の素晴らしさに舌を巻いた。
「なんだこれは! すごいじゃないか! これが実用化されれば魔力を持っていない人間でも補助器具を扱えるようになる!」
リィトは視界がキラキラと輝いていく錯覚を抱く。省吾は照れたように頭をかいた。
「ありがとう。俺、あっちの世界でこういう電気とかについて勉強していて……。こちらの世界でも使えないかと思ってやってみたんだ」
なるほど、とリィトは思う。
すでにあるもので何とかなってしまう場合、多くの人間は代替案を考えない。ハサミがあるのにわざわざ新しく道具を作ってまで紙を切ろうと思える人間はなかなかいない。
魔力の代替エネルギーに対して、かねてよりリィトも考えていたが、電力というものの存在を知らなかったために発明出来なかった。
省吾が異世界から持ち込んだ技術は魔法のようにすら思えたのだった。
「すごいな! 当日ぜひ僕も君の発表を見に行きたい! そして可能ならば技術を提供してほしい」
学会の名前を見ると、リィトも参加資格のあるものだった。彼は一定以上の技術、学力水準のあるアカデミーの会員なので、そちらに打診すれば省吾が発表する予定の学会に参加できるだろう。
「え、あ、うん……。リィトが見てくれてるんなら心強いな」
そんな事を言って省吾はにっこりと笑った。相変わらず、真夏のひまわりのような笑顔だと思った。
こうして省吾の発表は無事に終わり、多額の寄付金を集めることに成功した。
この頃には省吾はサイの勧めとリィトの引き抜きにより、リィトの所属するアカデミーの研究所で電力による医療器具の研究、開発をするようになっていた。
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