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第6話 「体重が2キロも落ちてる……」

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 結果から言うと、昨日のお辞儀の一件のおかげで少なくともミロのいる部隊において省吾は受け入れられるようになっていた。
 昨日の女性兵士曰く「最初はオエライさんの行楽につきあわされるのかと思ってたけど、あなたは体力あるし、何より団長のあの困った顔! いいものが見れたわ」とのことだった。
 そういうつもりはなかったんだけどな。
 思いながらも、明るく接してもらえるのは嬉しい。次の日も、その次の日も省吾は鍛錬の時間を楽しみにしていた。
 けれど、日に日に省吾の顔色は悪くなっていく。
 眠れないのだ。
 夜に何度も目が覚めてしまい、それから1時間は眠るのに時間がかかる。前の世界にいた頃はこんな事はなかった。
 何故だろう。思うが原因に心当たりがない。

「なんか、顔青くないか?」

 そうミロに言われて、やっぱり他人から見てもこの顔色は酷いのか、と省吾は自覚した。

「うん、まぁ、あんまり眠れてなくて」
「今日の鍛錬は休んだほうがいいんじゃないか?」
「いや、でも、……俺、この時間を唯一の楽しみにしてるっていうか」

 眉尻を下げて唇をとがらせると、ミロは気まずそうに視線をそらした。

「……わかったよ。でも、しんどいと思ったらすぐに言えよ」

 最初に言った通り、ミロは省吾に対して敬語を使わない。だからだろう、ミロの部隊の人間達も省吾に対して敬語を使わず、フランクに接するようになっていった。それで省吾が嬉しそうにするものだったから、レオも注意をすることはなかった。
 こうしてその日の練習が始まった。
 掛け声を出しながらの走り込みは以前の世界で散々したもので、慣れているはずだった。それなのに。
 走り込みが始まってたった十分程度で省吾は倒れてしまったのだった。
 





 目を開けるとここ数日で見慣れてしまった天蓋があった。

「起きた!?」

 すぐに司会に銀色が入り込んでくる。ノアだ。

「よかったぁ~。大丈夫? 気持ち悪い? 目の下すごいクマだよぉ~」

 涙目になりながら彼は省吾の頬や首筋に手を当て状態を確認する。

「……ノア?」

 彼とは鍛錬を始めてからというもの会っていない。どうやら週に一度、守護石に力を入れるときにだけ会うのだろうと思っていた。医者のような役割も担っているのだろう。

「よかったぁ~。俺が誰かわかるんだねぇ」

 省吾は両頬をノアに掴まれる。彼の瞳に溜まった涙が本気で心配していたことを示していた。

「おい、いい加減離してやれ。省吾が驚いてんだろ」

 ノアの後ろにはミロもいた。ミロだけではない。彼の部隊のもの数人と、ジェドとメイド達。ミザリーもいた。

「あ、そうだねぇ~。ごめんね? ここのところ、上手く眠れていなかったんだって?」

 言いながらノアは後ろに引く。

「おう……」
「言ってよ~! そういう時は! なんのための召喚士だと思ってるの!」
「いや……、こんなことで迷惑かけるのもって思って……」

 俯いて省吾はぼそぼそと呟く。事実、省吾は風邪くらいなら医者に行かなくても市販薬を飲んで寝て直していた。母親が滅多に帰ってこなかったものだから、自分が体調を崩した時に誰かに助けを求めるという発想がそもそもなかった。気がついてくれた時には蓮が粥やらプリンを買ってきてくれたが、医者に行くように言われたことはなかった。
 そもそも、省吾は自分の不調を異世界に飛ばされたストレスからくるものだと思っていたのだ。ここまで良くしてくれる彼らにそれは言いづらい。

「迷惑なわけないでしょ~!? 俺は省吾が楽しくおかしく毎日を過ごせるようにサポートするのが仕事なんだからぁ!」

 そうだったのか。

「わかった……。だったら、今度からなにかあったら言う」

 普段の穏やかな雰囲気からすると怒っているのだろうが、ノアは喋り方が幼いためにどうしても怒っているようには思えない。省吾の言葉に納得したのか、ノアは眉尻を下げた。

「とりあえず、召喚士兼主治医として、しばらくは鍛錬禁止だからねぇ~。その間に眠れない理由を探らせてよぉ」
「えっ!」

 それは困る。けれどミロの方を見ても、他の人達もうなずいていたからには決定は覆すことが出来ないのだろう。しゅん、と省吾は肩を落とした。




 




 それから、省吾はノアの研究室へと移動し、体調を調べられた。省吾は隅の方にあるベッドに上半身裸で寝転び、変な機械のようなものから伸びる管の先を体中に貼り付けられていた。
タブレットのような画面を見ながらノアは頭を抱える。

「体重が2キロも落ちてる……。なんで……? 健康には気を使ったはずなのに……」

 相変わらずこの部屋だけ世界が違うんだよなぁ、と思いながら省吾は周囲を見回す。こういった機材を作る鉱石が貴重なので、技術はあっても中々民衆には行き渡らない、と前にジェドに聞いた。

「あのさ……、ちょっと聞きたいんだけど、俺の食事の中身の成分表とかあったりするか?」

 絶望顔のノアに省吾は恐る恐る尋ねる。
 このところの省吾の食事は豪勢なもので、肉や魚に野菜が美味しそうなソースをかけられて出される。朝はミルク粥、昼と夜はパンとまるで高級レストランでの食事のようだった。毎回果物もつけられ、中でもキャロルがよく出された。

「大体の成分なら調べればわかるけど、詳しいものになるとわからないかなぁ~。とはいえ、俺達にとってはなんともなくてもヒジリ様たち異世界人には有害なものもあるのかもねぇ。よし! 今から話を聞きに行こう!」

 ノアは椅子から立ち上がると省吾の体につけたチューブを外し、外に待機していたジェドを呼び出した。
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