6 / 60
第6話 「体重が2キロも落ちてる……」
しおりを挟む
結果から言うと、昨日のお辞儀の一件のおかげで少なくともミロのいる部隊において省吾は受け入れられるようになっていた。
昨日の女性兵士曰く「最初はオエライさんの行楽につきあわされるのかと思ってたけど、あなたは体力あるし、何より団長のあの困った顔! いいものが見れたわ」とのことだった。
そういうつもりはなかったんだけどな。
思いながらも、明るく接してもらえるのは嬉しい。次の日も、その次の日も省吾は鍛錬の時間を楽しみにしていた。
けれど、日に日に省吾の顔色は悪くなっていく。
眠れないのだ。
夜に何度も目が覚めてしまい、それから1時間は眠るのに時間がかかる。前の世界にいた頃はこんな事はなかった。
何故だろう。思うが原因に心当たりがない。
「なんか、顔青くないか?」
そうミロに言われて、やっぱり他人から見てもこの顔色は酷いのか、と省吾は自覚した。
「うん、まぁ、あんまり眠れてなくて」
「今日の鍛錬は休んだほうがいいんじゃないか?」
「いや、でも、……俺、この時間を唯一の楽しみにしてるっていうか」
眉尻を下げて唇をとがらせると、ミロは気まずそうに視線をそらした。
「……わかったよ。でも、しんどいと思ったらすぐに言えよ」
最初に言った通り、ミロは省吾に対して敬語を使わない。だからだろう、ミロの部隊の人間達も省吾に対して敬語を使わず、フランクに接するようになっていった。それで省吾が嬉しそうにするものだったから、レオも注意をすることはなかった。
こうしてその日の練習が始まった。
掛け声を出しながらの走り込みは以前の世界で散々したもので、慣れているはずだった。それなのに。
走り込みが始まってたった十分程度で省吾は倒れてしまったのだった。
目を開けるとここ数日で見慣れてしまった天蓋があった。
「起きた!?」
すぐに司会に銀色が入り込んでくる。ノアだ。
「よかったぁ~。大丈夫? 気持ち悪い? 目の下すごいクマだよぉ~」
涙目になりながら彼は省吾の頬や首筋に手を当て状態を確認する。
「……ノア?」
彼とは鍛錬を始めてからというもの会っていない。どうやら週に一度、守護石に力を入れるときにだけ会うのだろうと思っていた。医者のような役割も担っているのだろう。
「よかったぁ~。俺が誰かわかるんだねぇ」
省吾は両頬をノアに掴まれる。彼の瞳に溜まった涙が本気で心配していたことを示していた。
「おい、いい加減離してやれ。省吾が驚いてんだろ」
ノアの後ろにはミロもいた。ミロだけではない。彼の部隊のもの数人と、ジェドとメイド達。ミザリーもいた。
「あ、そうだねぇ~。ごめんね? ここのところ、上手く眠れていなかったんだって?」
言いながらノアは後ろに引く。
「おう……」
「言ってよ~! そういう時は! なんのための召喚士だと思ってるの!」
「いや……、こんなことで迷惑かけるのもって思って……」
俯いて省吾はぼそぼそと呟く。事実、省吾は風邪くらいなら医者に行かなくても市販薬を飲んで寝て直していた。母親が滅多に帰ってこなかったものだから、自分が体調を崩した時に誰かに助けを求めるという発想がそもそもなかった。気がついてくれた時には蓮が粥やらプリンを買ってきてくれたが、医者に行くように言われたことはなかった。
そもそも、省吾は自分の不調を異世界に飛ばされたストレスからくるものだと思っていたのだ。ここまで良くしてくれる彼らにそれは言いづらい。
「迷惑なわけないでしょ~!? 俺は省吾が楽しくおかしく毎日を過ごせるようにサポートするのが仕事なんだからぁ!」
そうだったのか。
「わかった……。だったら、今度からなにかあったら言う」
普段の穏やかな雰囲気からすると怒っているのだろうが、ノアは喋り方が幼いためにどうしても怒っているようには思えない。省吾の言葉に納得したのか、ノアは眉尻を下げた。
「とりあえず、召喚士兼主治医として、しばらくは鍛錬禁止だからねぇ~。その間に眠れない理由を探らせてよぉ」
「えっ!」
それは困る。けれどミロの方を見ても、他の人達もうなずいていたからには決定は覆すことが出来ないのだろう。しゅん、と省吾は肩を落とした。
それから、省吾はノアの研究室へと移動し、体調を調べられた。省吾は隅の方にあるベッドに上半身裸で寝転び、変な機械のようなものから伸びる管の先を体中に貼り付けられていた。
タブレットのような画面を見ながらノアは頭を抱える。
「体重が2キロも落ちてる……。なんで……? 健康には気を使ったはずなのに……」
相変わらずこの部屋だけ世界が違うんだよなぁ、と思いながら省吾は周囲を見回す。こういった機材を作る鉱石が貴重なので、技術はあっても中々民衆には行き渡らない、と前にジェドに聞いた。
「あのさ……、ちょっと聞きたいんだけど、俺の食事の中身の成分表とかあったりするか?」
絶望顔のノアに省吾は恐る恐る尋ねる。
このところの省吾の食事は豪勢なもので、肉や魚に野菜が美味しそうなソースをかけられて出される。朝はミルク粥、昼と夜はパンとまるで高級レストランでの食事のようだった。毎回果物もつけられ、中でもキャロルがよく出された。
「大体の成分なら調べればわかるけど、詳しいものになるとわからないかなぁ~。とはいえ、俺達にとってはなんともなくてもヒジリ様たち異世界人には有害なものもあるのかもねぇ。よし! 今から話を聞きに行こう!」
ノアは椅子から立ち上がると省吾の体につけたチューブを外し、外に待機していたジェドを呼び出した。
昨日の女性兵士曰く「最初はオエライさんの行楽につきあわされるのかと思ってたけど、あなたは体力あるし、何より団長のあの困った顔! いいものが見れたわ」とのことだった。
そういうつもりはなかったんだけどな。
思いながらも、明るく接してもらえるのは嬉しい。次の日も、その次の日も省吾は鍛錬の時間を楽しみにしていた。
けれど、日に日に省吾の顔色は悪くなっていく。
眠れないのだ。
夜に何度も目が覚めてしまい、それから1時間は眠るのに時間がかかる。前の世界にいた頃はこんな事はなかった。
何故だろう。思うが原因に心当たりがない。
「なんか、顔青くないか?」
そうミロに言われて、やっぱり他人から見てもこの顔色は酷いのか、と省吾は自覚した。
「うん、まぁ、あんまり眠れてなくて」
「今日の鍛錬は休んだほうがいいんじゃないか?」
「いや、でも、……俺、この時間を唯一の楽しみにしてるっていうか」
眉尻を下げて唇をとがらせると、ミロは気まずそうに視線をそらした。
「……わかったよ。でも、しんどいと思ったらすぐに言えよ」
最初に言った通り、ミロは省吾に対して敬語を使わない。だからだろう、ミロの部隊の人間達も省吾に対して敬語を使わず、フランクに接するようになっていった。それで省吾が嬉しそうにするものだったから、レオも注意をすることはなかった。
こうしてその日の練習が始まった。
掛け声を出しながらの走り込みは以前の世界で散々したもので、慣れているはずだった。それなのに。
走り込みが始まってたった十分程度で省吾は倒れてしまったのだった。
目を開けるとここ数日で見慣れてしまった天蓋があった。
「起きた!?」
すぐに司会に銀色が入り込んでくる。ノアだ。
「よかったぁ~。大丈夫? 気持ち悪い? 目の下すごいクマだよぉ~」
涙目になりながら彼は省吾の頬や首筋に手を当て状態を確認する。
「……ノア?」
彼とは鍛錬を始めてからというもの会っていない。どうやら週に一度、守護石に力を入れるときにだけ会うのだろうと思っていた。医者のような役割も担っているのだろう。
「よかったぁ~。俺が誰かわかるんだねぇ」
省吾は両頬をノアに掴まれる。彼の瞳に溜まった涙が本気で心配していたことを示していた。
「おい、いい加減離してやれ。省吾が驚いてんだろ」
ノアの後ろにはミロもいた。ミロだけではない。彼の部隊のもの数人と、ジェドとメイド達。ミザリーもいた。
「あ、そうだねぇ~。ごめんね? ここのところ、上手く眠れていなかったんだって?」
言いながらノアは後ろに引く。
「おう……」
「言ってよ~! そういう時は! なんのための召喚士だと思ってるの!」
「いや……、こんなことで迷惑かけるのもって思って……」
俯いて省吾はぼそぼそと呟く。事実、省吾は風邪くらいなら医者に行かなくても市販薬を飲んで寝て直していた。母親が滅多に帰ってこなかったものだから、自分が体調を崩した時に誰かに助けを求めるという発想がそもそもなかった。気がついてくれた時には蓮が粥やらプリンを買ってきてくれたが、医者に行くように言われたことはなかった。
そもそも、省吾は自分の不調を異世界に飛ばされたストレスからくるものだと思っていたのだ。ここまで良くしてくれる彼らにそれは言いづらい。
「迷惑なわけないでしょ~!? 俺は省吾が楽しくおかしく毎日を過ごせるようにサポートするのが仕事なんだからぁ!」
そうだったのか。
「わかった……。だったら、今度からなにかあったら言う」
普段の穏やかな雰囲気からすると怒っているのだろうが、ノアは喋り方が幼いためにどうしても怒っているようには思えない。省吾の言葉に納得したのか、ノアは眉尻を下げた。
「とりあえず、召喚士兼主治医として、しばらくは鍛錬禁止だからねぇ~。その間に眠れない理由を探らせてよぉ」
「えっ!」
それは困る。けれどミロの方を見ても、他の人達もうなずいていたからには決定は覆すことが出来ないのだろう。しゅん、と省吾は肩を落とした。
それから、省吾はノアの研究室へと移動し、体調を調べられた。省吾は隅の方にあるベッドに上半身裸で寝転び、変な機械のようなものから伸びる管の先を体中に貼り付けられていた。
タブレットのような画面を見ながらノアは頭を抱える。
「体重が2キロも落ちてる……。なんで……? 健康には気を使ったはずなのに……」
相変わらずこの部屋だけ世界が違うんだよなぁ、と思いながら省吾は周囲を見回す。こういった機材を作る鉱石が貴重なので、技術はあっても中々民衆には行き渡らない、と前にジェドに聞いた。
「あのさ……、ちょっと聞きたいんだけど、俺の食事の中身の成分表とかあったりするか?」
絶望顔のノアに省吾は恐る恐る尋ねる。
このところの省吾の食事は豪勢なもので、肉や魚に野菜が美味しそうなソースをかけられて出される。朝はミルク粥、昼と夜はパンとまるで高級レストランでの食事のようだった。毎回果物もつけられ、中でもキャロルがよく出された。
「大体の成分なら調べればわかるけど、詳しいものになるとわからないかなぁ~。とはいえ、俺達にとってはなんともなくてもヒジリ様たち異世界人には有害なものもあるのかもねぇ。よし! 今から話を聞きに行こう!」
ノアは椅子から立ち上がると省吾の体につけたチューブを外し、外に待機していたジェドを呼び出した。
10
お気に入りに追加
1,868
あなたにおすすめの小説
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
クズ男と別れたら、ヤンデレ化して執着されました
ノルジャン
恋愛
友達優先だとわかっていて付き合ったが、自分を大切にしてくれない彼氏に耐えられず別れた。その後彼が職場にも行けない状態になっていると聞いて……。クズなヒーローが振られてヒロインへの気持ちに気づくお話。
※ムーンライトノベルズにも掲載中
とある婚約破棄の顛末
瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。
あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。
まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。
【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される
鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。
レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。
社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。
そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。
レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。
R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。
ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。
序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜
水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑
★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位!
★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント)
「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」
『醜い豚』
『最低のゴミクズ』
『無能の恥晒し』
18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。
優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。
魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。
ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。
プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。
そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。
ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。
「主人公は俺なのに……」
「うん。キミが主人公だ」
「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」
「理不尽すぎません?」
原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!
名前を忘れた私が思い出す為には、彼らとの繋がりが必要だそうです
藤一
恋愛
消失か残留か・・異世界での私の未来は、この二つしか無いらしい・・。
残業帰りの最終電車に乗っていたら、私は異世界トリップしてしまった。
異世界に飛ばされたショックの所為か、私は自分の名前を忘れてしまう。
飛ばされた先では、勝手に「オオトリ様」と呼ばれ「繁栄の象徴」だと大切にされる事に。
戻れる可能性が高いが、万が一、戻れなかった時の為に、一人では寂しかろうと「生涯の伴侶」(複数)まで選定中。
「自分の名前を思い出せば還れるかも」と言うヒントを貰うが、それには伴侶候補たちとの交流が非常に重要らしい。
元の世界に戻る(かもしれない)私が、還る為だけに伴侶候補たちと絆を深めなきゃいけないって・・!
**********
R18な内容を含む話には※を付けております(もれている場合はお知らせ下さい)苦手な方はご注意を下さい。
じれじれなので、じれったい展開が苦手な方もご注意下さい。
【完結】ゴリラの国に手紙を届けに行くだけの簡単なお仕事です
雪野原よる
恋愛
数万人の国民全てがゴリラ(比喩的表現)である国。最強のゴリラが国王となってその他のゴリラを統べる国。外交使節としてその国を訪れた私は、うっかりその最強のゴリラに惚れてしまったのだった……どうする? どうなる?
※この世界では、ゴリラ=伝説上の最強生物という設定です。
■クールに見えるヒロインが周りから可愛がられ、ちやほやされてポンコツ化するだけの話です(元からポンコツだったとも言う)
■文章は硬めですが内容はゆるっゆるです。
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる