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永遠の愛
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「はぁ……はぁ……」
ある一人の男は真っ暗な誰も居ない街を駆けていた。それも何かから逃げるように。そこには刃物をチラつかせながら走り寄ってくる一人の女性が居た。にこやかな笑みで追いかけてくる女性を、男は必死に追い払おうとしていた。
「来るな!」
「なんでぇ……けんちゃぁーん……」
男の名前は憲秀。友人からはけんちゃんと呼ばれ親しまれていた。
「ゆうゆう刃物を仕舞ってくれ!」
女性の名は悠梨と言い、ゆうゆうというあだ名が付けられていた。友人は居なく、憲秀だけが唯一の友人だった。
「ねぇ。けんちゃんしか居ないのおおお」
「来るなあぁぁぁぁ!!」
憲秀は必死に逃げながら思い返していた。何故悠梨がこうなったのかを。
悠梨の実家は昔からもやしを用意し焼肉屋の匂いで、もやしを食べるという貧乏な家庭であった。貧乏だった理由は悠梨の父親が会社を引き継いだはいいものの、経営が上手くいかず気づけば借金地獄になり倒産という形になったからだった。
そんな親元に産まれた悠梨は年齢を重ねる毎に徐々に着れる服が無くなり、中学生に上がった時だった。悠梨の通う中学はかなり珍しく制服がない学校であり、私服登校が当たり前だった。悠梨はそれに困りながら毎日同じ服で登校していた。それを性格の悪い奴が見逃すはずもなく、悠梨はあっという間にいじめられっ子になってしまった。
「痛い……やめてよ!」
「なに。悠梨のくせに口答えする気?」
「やめてよおお!」
学校の三階。女子トイレの個室で毎日虐められ、トイレの水をかけられ、蹴られ、殴られしていた日々に、悠梨はとうとう我慢する気持ちが切れ、気づけば立ち入り禁止の屋上に入り、自殺をしようと一歩踏み出そうとしていた。
すると悠梨の死角に居た、ある一人の男子生徒が、寝転びながら悠梨を手招きしていた。それが憲秀だった。
「……なに」
「君。悠梨ちゃんだっけ?」
「だったらなんなの」
「もしかして自殺するつもりだった?」
「だったらなんなの」
「同じセリフか~」
すると悠梨の前に憲秀は立ち、濡れていた服を何故か持っていたタオルで少し拭き、自分の着ていたパーカーを悠梨に被せた。
「えっなに」
「それ、パーカー貸すから。あと中の服脱ぎなよ。風邪ひくよ~」
そう言うと憲秀は上半身裸で、また寝転び寝始めた。悠梨は何が起きたか分からず、ただボーッとしていると、学校のチャイムが鳴り響く。
「あ、時間か~。まぁいいや~」
「えっ君……行かないの?」
「君じゃなく、僕の名前は憲秀だよ」
「あ、えと……」
「悠梨ちゃん。君は戻りな。あと中の服脱がないと風邪ひくってば」
憲秀は悠梨の中の服を目を瞑りながら脱がそうとしていた。悠梨は顔を真っ赤にしながら、何故か言うことを聞いてしまっていた。
「よし。いいね」
「あ、ありがと……」
「良いんだよ。じゃ行っておいで。次虐められたりしたんなら、僕の名前をその子たちに出してご覧。どうせ、龍也とかだろ?」
「え、いや……」
「え、龍也じゃないの?!」
憲秀は驚きながら立ち上がった。悠梨の肩を掴み揺らす。悠梨はそれに驚きながらも、自分でも知らないうちに虐めグループの名前を上げていた。
「えと、愛子とか……」
「あーなるほどな。あいつら可愛い子にキツく当たるからな~」
「へ?」
「うん?」
「か、可愛い?」
「うん。君がね?」
恥ずかしいセリフをしゃあしゃあと吐く憲秀に悠梨はただ唖然としていた。
そんな二人は学校が終わる時間まで屋上で話し込んでいた。すると二人を慌てて探していた教師に屋上にいる事がバレこっぴどく叱られていた。
「お前らここダメだと言っただろうが。特に憲秀!」
「へーい」
「というかなんでお前は上半身裸なんだよ!」
「屋上から服捨てましたから~」
「なっ?!」
憲秀は嘘を吐いた。悠梨は事実を言おうと教師に何か言おうとしたが、下を俯いてたおかげで顔を上げた時には説教が終わり、教師は居なかった。
「さ。帰ろうか。悠梨ちゃん」
「へ?」
「ほら。早く」
裸にリュックを背負う彼の姿に、悠梨は立ち尽くしてしまった。かなりの変わり者なのだと。
そんな不思議な関係が築かれたあとの翌日。悠梨は再び、虐めグループにトイレに呼び出され震えながら行くと、そこには昨日の倍の人数が居た。何をされるのか分からず、悠梨は黙っていると主犯の愛子は、悠梨を蹴っ飛ばし、髪の毛を掴みあげる。
「あんた、なんで憲秀くんとつるんでんのよ」
「……え?」
「憲秀くんに近づくなよ!」
もう一発愛子が悠梨に蹴りを入れようとした時だった。女子トイレに憲秀が現れ、愛子を殴り飛ばした。
「へ。憲秀くん…?!」
「愛子。お前そんな奴だったんだな」
「いやこれは悠梨と楽しく遊んでて」
「へー。そうなのか。悠梨」
「え、いや」
「悠梨……!」
鋭く悠梨を睨みつける。その愛子の目線で悠梨は何をされるか分からず、ただ従っておこうとした時だった。憲秀は激を飛ばす。
「お前ら、そうやって人を痛めつけて何が楽しい。それで命を落としてる子だって居るんだ。現に君たち、俺の大事な幼馴染を殺してるよな」
「な、なんのこと?」
「小学生の時だよ。覚えてねぇのか」
「え?」
「お前ら三人で、俺の幼馴染の悠梨を殺しただろうが」
「あ、あれは違うでしょ?!」
何を言っているか分からず、悠梨がポカンとしていると憲秀は悠梨の手を引っ張りながら女子トイレを出た。憲秀は鋭く愛子たちを睨みつけた。
「え、あの」
「悠梨ちゃんは俺が守ってやるからな」
その日から憲秀は悠梨にとって王子になった。虐められそうになったら颯爽と駆けつけてくれ、困ってる時は相談に乗ってくれた。
二人が高校に上がる頃。悠梨の見た目は高校生に見えないほど大人っぽくなり、スラッとしたモデル体型になっていた。悠梨は高校に行きたいと両親に嘆いたが、高校に行かせる金がないと頭を下げられ、断念した。
憲秀は無事に高校に合格し、高校生となった。その日おめでとうと言うために悠梨は憲秀と共にある公園へ来ていた。
「悠梨は、何するんだ?」
「……わかんない」
「そうか。暫く別れることになるな。元気にな」
「うん……」
悠梨はキュッと心臓が締め付けられる気持ちになった。その翌日から悠梨は違法風俗店に務めることになっていた。
毎晩のように乱暴な客人に慰みものにされ、辛い日々を送っていた。身体の節々に痛みが走る中でも金の為に勤めていたが、四年経ちそんな生活も慣れてしまった頃、何か店が騒がしくなっていた。悠梨がひょっと顔を扉から出すと、警察官に捕まるオーナーの姿が見える。
すると奥からイケメンの男が、そして見た事のある顔が現れた。憲秀だった。
「えっ憲秀……くん?」
「……ここで働いている方ですか?」
「えっはい」
「ここが違法風俗と知っててですか?」
「違法?!」
「知らなかったようですね」
すると憲秀はオーナーの腕に手錠をかけて、パトカーの車内へと連れて行った。そして憲秀はパトカーに乗る先輩達を見送り、悠梨と思われる女性の元へ向かった。
「……悠梨」
「憲秀くん」
「こんなとこで何やってたんだ」
「……」
「悠梨」
「憲秀くんには関係ないじゃん」
「……明日話がある。あの公園で」
「うん……分かった」
悠梨と憲秀はまた離れ離れになり、明日を待った。
☆☆☆
翌日の夜。綺麗に身を包みながら公園に向かった。するとひと足早くついていた憲秀は、悠梨の姿を見つけた途端、走り寄ってくる。
「悠梨!!」
「憲秀くん……」
「悠梨。良かった。来てくれた……」
大きく息を吐き、憲秀は安堵していた。悠梨はその姿が、あの中学の時の姿と重なっていた。
「は、話って……?」
「悠梨。俺と付き合ってくれ。急すぎてごめん」
「へ……」
突然の告白に悠梨は固まった。そしてフッと我に返ると同時に身体を汚してしまったことに後悔をし始め、悠梨は軽く首を横に振った。
「……悠梨?」
「ダメだよ。私となんか」
「な、なんでだ?」
「知ってるでしょ。私あの違法風俗店で働いてた汚い女だよ」
「……汚くなんかないさ」
「弱い女だよ。希死念慮が消えない、ただの死にたがりで、そして弱い」
「……悠梨。俺の目を見て」
「え?」
悠梨は顔を上げると、すぐ近くに憲秀の顔があった。数センチ動けばキスをしてしまう距離だった。
「憲秀……くん」
「良いから。黙って俺の目を見てくれ」
「……」
悠梨はジッと見つめ、憲秀の瞳に惹き込まれるように気づけば目を瞑っていた。するとフワッといい匂いがしたと思えば、憲秀の唇が悠梨の唇に触れた。
「……」
「……」
二人は黙って、もう一度キスを交わした。
「俺と。付き合ってくれ」
「……弱い女だけどいいの?」
「弱くなんかない。ずっと生きていてくれてありがとう」
「……けんちゃん」
「……悠梨」
その日から二人は真剣に交際を始めた。そして気づけば三年後。ゴールインしていた。
「けんちゃーん!」
悠梨から希死念慮が消え、憲秀と共に過ごす日々に満足していた。ただ、憲秀には一つ悩みがあった。それが今の刃物を持ち追いかけてくる彼女だ。
「喧嘩する度刃物で追いかけるのやめてくれえええ!!」
「けんちゃんなんで私以外の女と会ってたの!!」
「誤解だあああああ!!!」
こんな日々も憲秀と悠梨にとっては幸せだった。中学の頃からずっと王子で居続けた憲秀。人生に苦しみながらも、どこか憲秀を待っていた悠梨。二人の恋が実った夜。綺麗な花が咲いた。
花の名前は桔梗。花言葉は永遠の愛。二人にぴったりな花だった。
~END~
ある一人の男は真っ暗な誰も居ない街を駆けていた。それも何かから逃げるように。そこには刃物をチラつかせながら走り寄ってくる一人の女性が居た。にこやかな笑みで追いかけてくる女性を、男は必死に追い払おうとしていた。
「来るな!」
「なんでぇ……けんちゃぁーん……」
男の名前は憲秀。友人からはけんちゃんと呼ばれ親しまれていた。
「ゆうゆう刃物を仕舞ってくれ!」
女性の名は悠梨と言い、ゆうゆうというあだ名が付けられていた。友人は居なく、憲秀だけが唯一の友人だった。
「ねぇ。けんちゃんしか居ないのおおお」
「来るなあぁぁぁぁ!!」
憲秀は必死に逃げながら思い返していた。何故悠梨がこうなったのかを。
悠梨の実家は昔からもやしを用意し焼肉屋の匂いで、もやしを食べるという貧乏な家庭であった。貧乏だった理由は悠梨の父親が会社を引き継いだはいいものの、経営が上手くいかず気づけば借金地獄になり倒産という形になったからだった。
そんな親元に産まれた悠梨は年齢を重ねる毎に徐々に着れる服が無くなり、中学生に上がった時だった。悠梨の通う中学はかなり珍しく制服がない学校であり、私服登校が当たり前だった。悠梨はそれに困りながら毎日同じ服で登校していた。それを性格の悪い奴が見逃すはずもなく、悠梨はあっという間にいじめられっ子になってしまった。
「痛い……やめてよ!」
「なに。悠梨のくせに口答えする気?」
「やめてよおお!」
学校の三階。女子トイレの個室で毎日虐められ、トイレの水をかけられ、蹴られ、殴られしていた日々に、悠梨はとうとう我慢する気持ちが切れ、気づけば立ち入り禁止の屋上に入り、自殺をしようと一歩踏み出そうとしていた。
すると悠梨の死角に居た、ある一人の男子生徒が、寝転びながら悠梨を手招きしていた。それが憲秀だった。
「……なに」
「君。悠梨ちゃんだっけ?」
「だったらなんなの」
「もしかして自殺するつもりだった?」
「だったらなんなの」
「同じセリフか~」
すると悠梨の前に憲秀は立ち、濡れていた服を何故か持っていたタオルで少し拭き、自分の着ていたパーカーを悠梨に被せた。
「えっなに」
「それ、パーカー貸すから。あと中の服脱ぎなよ。風邪ひくよ~」
そう言うと憲秀は上半身裸で、また寝転び寝始めた。悠梨は何が起きたか分からず、ただボーッとしていると、学校のチャイムが鳴り響く。
「あ、時間か~。まぁいいや~」
「えっ君……行かないの?」
「君じゃなく、僕の名前は憲秀だよ」
「あ、えと……」
「悠梨ちゃん。君は戻りな。あと中の服脱がないと風邪ひくってば」
憲秀は悠梨の中の服を目を瞑りながら脱がそうとしていた。悠梨は顔を真っ赤にしながら、何故か言うことを聞いてしまっていた。
「よし。いいね」
「あ、ありがと……」
「良いんだよ。じゃ行っておいで。次虐められたりしたんなら、僕の名前をその子たちに出してご覧。どうせ、龍也とかだろ?」
「え、いや……」
「え、龍也じゃないの?!」
憲秀は驚きながら立ち上がった。悠梨の肩を掴み揺らす。悠梨はそれに驚きながらも、自分でも知らないうちに虐めグループの名前を上げていた。
「えと、愛子とか……」
「あーなるほどな。あいつら可愛い子にキツく当たるからな~」
「へ?」
「うん?」
「か、可愛い?」
「うん。君がね?」
恥ずかしいセリフをしゃあしゃあと吐く憲秀に悠梨はただ唖然としていた。
そんな二人は学校が終わる時間まで屋上で話し込んでいた。すると二人を慌てて探していた教師に屋上にいる事がバレこっぴどく叱られていた。
「お前らここダメだと言っただろうが。特に憲秀!」
「へーい」
「というかなんでお前は上半身裸なんだよ!」
「屋上から服捨てましたから~」
「なっ?!」
憲秀は嘘を吐いた。悠梨は事実を言おうと教師に何か言おうとしたが、下を俯いてたおかげで顔を上げた時には説教が終わり、教師は居なかった。
「さ。帰ろうか。悠梨ちゃん」
「へ?」
「ほら。早く」
裸にリュックを背負う彼の姿に、悠梨は立ち尽くしてしまった。かなりの変わり者なのだと。
そんな不思議な関係が築かれたあとの翌日。悠梨は再び、虐めグループにトイレに呼び出され震えながら行くと、そこには昨日の倍の人数が居た。何をされるのか分からず、悠梨は黙っていると主犯の愛子は、悠梨を蹴っ飛ばし、髪の毛を掴みあげる。
「あんた、なんで憲秀くんとつるんでんのよ」
「……え?」
「憲秀くんに近づくなよ!」
もう一発愛子が悠梨に蹴りを入れようとした時だった。女子トイレに憲秀が現れ、愛子を殴り飛ばした。
「へ。憲秀くん…?!」
「愛子。お前そんな奴だったんだな」
「いやこれは悠梨と楽しく遊んでて」
「へー。そうなのか。悠梨」
「え、いや」
「悠梨……!」
鋭く悠梨を睨みつける。その愛子の目線で悠梨は何をされるか分からず、ただ従っておこうとした時だった。憲秀は激を飛ばす。
「お前ら、そうやって人を痛めつけて何が楽しい。それで命を落としてる子だって居るんだ。現に君たち、俺の大事な幼馴染を殺してるよな」
「な、なんのこと?」
「小学生の時だよ。覚えてねぇのか」
「え?」
「お前ら三人で、俺の幼馴染の悠梨を殺しただろうが」
「あ、あれは違うでしょ?!」
何を言っているか分からず、悠梨がポカンとしていると憲秀は悠梨の手を引っ張りながら女子トイレを出た。憲秀は鋭く愛子たちを睨みつけた。
「え、あの」
「悠梨ちゃんは俺が守ってやるからな」
その日から憲秀は悠梨にとって王子になった。虐められそうになったら颯爽と駆けつけてくれ、困ってる時は相談に乗ってくれた。
二人が高校に上がる頃。悠梨の見た目は高校生に見えないほど大人っぽくなり、スラッとしたモデル体型になっていた。悠梨は高校に行きたいと両親に嘆いたが、高校に行かせる金がないと頭を下げられ、断念した。
憲秀は無事に高校に合格し、高校生となった。その日おめでとうと言うために悠梨は憲秀と共にある公園へ来ていた。
「悠梨は、何するんだ?」
「……わかんない」
「そうか。暫く別れることになるな。元気にな」
「うん……」
悠梨はキュッと心臓が締め付けられる気持ちになった。その翌日から悠梨は違法風俗店に務めることになっていた。
毎晩のように乱暴な客人に慰みものにされ、辛い日々を送っていた。身体の節々に痛みが走る中でも金の為に勤めていたが、四年経ちそんな生活も慣れてしまった頃、何か店が騒がしくなっていた。悠梨がひょっと顔を扉から出すと、警察官に捕まるオーナーの姿が見える。
すると奥からイケメンの男が、そして見た事のある顔が現れた。憲秀だった。
「えっ憲秀……くん?」
「……ここで働いている方ですか?」
「えっはい」
「ここが違法風俗と知っててですか?」
「違法?!」
「知らなかったようですね」
すると憲秀はオーナーの腕に手錠をかけて、パトカーの車内へと連れて行った。そして憲秀はパトカーに乗る先輩達を見送り、悠梨と思われる女性の元へ向かった。
「……悠梨」
「憲秀くん」
「こんなとこで何やってたんだ」
「……」
「悠梨」
「憲秀くんには関係ないじゃん」
「……明日話がある。あの公園で」
「うん……分かった」
悠梨と憲秀はまた離れ離れになり、明日を待った。
☆☆☆
翌日の夜。綺麗に身を包みながら公園に向かった。するとひと足早くついていた憲秀は、悠梨の姿を見つけた途端、走り寄ってくる。
「悠梨!!」
「憲秀くん……」
「悠梨。良かった。来てくれた……」
大きく息を吐き、憲秀は安堵していた。悠梨はその姿が、あの中学の時の姿と重なっていた。
「は、話って……?」
「悠梨。俺と付き合ってくれ。急すぎてごめん」
「へ……」
突然の告白に悠梨は固まった。そしてフッと我に返ると同時に身体を汚してしまったことに後悔をし始め、悠梨は軽く首を横に振った。
「……悠梨?」
「ダメだよ。私となんか」
「な、なんでだ?」
「知ってるでしょ。私あの違法風俗店で働いてた汚い女だよ」
「……汚くなんかないさ」
「弱い女だよ。希死念慮が消えない、ただの死にたがりで、そして弱い」
「……悠梨。俺の目を見て」
「え?」
悠梨は顔を上げると、すぐ近くに憲秀の顔があった。数センチ動けばキスをしてしまう距離だった。
「憲秀……くん」
「良いから。黙って俺の目を見てくれ」
「……」
悠梨はジッと見つめ、憲秀の瞳に惹き込まれるように気づけば目を瞑っていた。するとフワッといい匂いがしたと思えば、憲秀の唇が悠梨の唇に触れた。
「……」
「……」
二人は黙って、もう一度キスを交わした。
「俺と。付き合ってくれ」
「……弱い女だけどいいの?」
「弱くなんかない。ずっと生きていてくれてありがとう」
「……けんちゃん」
「……悠梨」
その日から二人は真剣に交際を始めた。そして気づけば三年後。ゴールインしていた。
「けんちゃーん!」
悠梨から希死念慮が消え、憲秀と共に過ごす日々に満足していた。ただ、憲秀には一つ悩みがあった。それが今の刃物を持ち追いかけてくる彼女だ。
「喧嘩する度刃物で追いかけるのやめてくれえええ!!」
「けんちゃんなんで私以外の女と会ってたの!!」
「誤解だあああああ!!!」
こんな日々も憲秀と悠梨にとっては幸せだった。中学の頃からずっと王子で居続けた憲秀。人生に苦しみながらも、どこか憲秀を待っていた悠梨。二人の恋が実った夜。綺麗な花が咲いた。
花の名前は桔梗。花言葉は永遠の愛。二人にぴったりな花だった。
~END~
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