上 下
10 / 29
5.マスコットは売れた?

4

しおりを挟む
 桐ケ谷が今日にじいろに来たがっていたのは、昨日置いていったマスコットの売れ行きを気にしていたから。
 そりゃ、気になっちゃうよね~。でも、昨日はあのあとすぐ閉店したし、今日も営業が始まってまだ間もない。売れているとは思えないんだけど……。
 本音は言わず、いっしょににじいろへ向かった。
 桐ケ谷ががっかりする姿、見たいくないな。また、ぱっと輝く笑顔を見たいのに。せめて明日とか、来週とかにしてくれれば、一個くらい売れてるかもしれない。今日はまだ早いって。
 気が重いなと思いながら、にじいろに到着した。外から様子を見てみても、お客さんがいる気配はない。
「ただいまおばあちゃん。桐ケ谷も来たよ」
 今日は表の出入口からお店に入る。お客さんはいないけど、学校も終わってこれから夕方までが忙しくなる時間になるから、話をするなら早めにしておかないとね。
「おかえり陽乃葉ちゃん。桐ケ谷くんもいらっしゃいませ」
「すみません、マスコットのことが気になって」
 おばあちゃんを前にすると、桐ケ谷はちょっと大人になる。眠そうでも意地悪そうでもなく、ぴしっとした雰囲気。
「マスコットね、ひとつ売れたよ」
「え、もう!?」
 つい驚いてしまった。たしかに桐ケ谷のマスコットはかわいいけど、こんなにすぐだなんて。
 さっきまでのネガティブな気持ちはどこかへ消え、あたしの心はいっきに浮ついた。
 桐ケ谷を見ると、ぼーぜんとした様子でおばあちゃんとレジ横にカゴに入れられているマスコットを交互に見ていた。
「桐ケ谷、よかったじゃん」
 あたしが桐ケ谷をつつくと、我に返ったように「あ、あぁ……」と答えた。
 びっくりするよね。
「おばあちゃん、どれが売れたの?」
「犬の……なんだっけ」
「ポメラニアンの?」
「そうそう、飼っている犬に似ているっていって、三軒となりの前島さんがね。さっき雑談しにきたときに買ってくれたんだよ」
「前島さんっていうのは、おばあちゃんの茶飲み友達のおばあちゃんだよ」
 あたしが補足する。そういえば、前島のおばあちゃんはまっしろなポメラニアンを飼っていたことを思い出す。桐ケ谷は、うれしそうにほほ笑み、何度も頷いた。
 おおげさなリアクションはしないけど、うれしさをかみしめているような桐ケ谷を見ていると、あたしもうれしくなる。
 よかった、桐ケ谷の笑顔を見られた!
「はじめて、俺のマスコットが売れたよ。こんなにうれしいんだな」
 口元がゆるむのか、手でほっぺたを押さえている。
「また、あたらしいマスコットをたくさん作らないとね」
「そうだな。でも……いつまでもクレープ屋さんに置いてもらうわけにはいかないしなぁ」
 桐ケ谷はうーんと悩んで腕を組んだ。
 たしかに、ほかにもマスコットを売る方法はあるはず。
「フリマアプリとか、ハンドメイドアプリは?」
「俺、スマホ持ってなくて」
「そっか。親にアカウントを作ってもらうとかは?」
「……親には、言ってないから。マスコットを作っているって」
 すこしさみしそうに、桐ケ谷は目線を落とした。
 あたしがぬいぐるみをかわいがっていることを誰にも言えないように、桐ケ谷も、マスコットを作っていることを親に言えないんだ。
 親の協力を得られないとなると、アプリを使うのはむずかしい。あーあ。子どもができることって少ない。無力感。
 あたしは、なんだかがっかりしてしまった。
 桐ケ谷のマスコットが売れて気分が良かったのに、すぐに壁にぶちあたってしまった気分……。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

フラワーキャッチャー

東山未怜
児童書・童話
春、中学1年生の恵梨は登校中、車に轢かれそうになったところを転校生・咲也(さくや)に突き飛ばされて助けられる。 実は咲也は花が絶滅した魔法界に花を甦らせるため、人の心に咲く花を集めに人間界にやってきた、「フラワーキャッチャー」だった。 けれど助けられたときに、咲也の力は恵梨に移ってしまった。 これからは恵梨が咲也の代わりに、人の心の花を集めることが使命だと告げられる。   恵梨は魔法のペンダントを預けられ、戸惑いながらもフラワーキャッチャーとしてがんばりはじめる。 お目付け役のハチドリ・ブルーベルと、ケンカしつつも共に行動しながら。 クラスメートの女子・真希は、恵梨の親友だったものの、なぜか小学4年生のあるときから恵梨に冷たくなった。さらには、咲也と親しげな恵梨をライバル視する。 合唱祭のピアノ伴奏に決まった恵梨の友人・奏子(そうこ)は、飼い猫が死んだ悲しみからピアノが弾けなくなってしまって……。 児童向けのドキワクな現代ファンタジーを、お楽しみいただけたら♪

太郎ちゃん

ドスケベニート
児童書・童話
きれいな石ころを拾った太郎ちゃん。 それをお母さんに届けるために帰路を急ぐ。 しかし、立ちはだかる困難に苦戦を強いられる太郎ちゃん。 太郎ちゃんは無事お家へ帰ることはできるのか!? 何気ない日常に潜む危険に奮闘する、涙と愛のドタバタコメディー。

リトル・ヒーローズ

もり ひろし
児童書・童話
かわいいヒーローたち

子猫マムと雲の都

杉 孝子
児童書・童話
 マムが住んでいる世界では、雨が振らなくなったせいで野菜や植物が日照り続きで枯れ始めた。困り果てる人々を見てマムは何とかしたいと思います。  マムがグリムに相談したところ、雨を降らせるには雲の上の世界へ行き、雨の精霊たちにお願いするしかないと聞かされます。雲の都に行くためには空を飛ぶ力が必要だと知り、魔法の羽を持っている鷹のタカコ婆さんを訪ねて一行は冒険の旅に出る。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
⭐︎登録お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐︎登録して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

処理中です...