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5.マスコットは売れた?
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桐ケ谷が今日にじいろに来たがっていたのは、昨日置いていったマスコットの売れ行きを気にしていたから。
そりゃ、気になっちゃうよね~。でも、昨日はあのあとすぐ閉店したし、今日も営業が始まってまだ間もない。売れているとは思えないんだけど……。
本音は言わず、いっしょににじいろへ向かった。
桐ケ谷ががっかりする姿、見たいくないな。また、ぱっと輝く笑顔を見たいのに。せめて明日とか、来週とかにしてくれれば、一個くらい売れてるかもしれない。今日はまだ早いって。
気が重いなと思いながら、にじいろに到着した。外から様子を見てみても、お客さんがいる気配はない。
「ただいまおばあちゃん。桐ケ谷も来たよ」
今日は表の出入口からお店に入る。お客さんはいないけど、学校も終わってこれから夕方までが忙しくなる時間になるから、話をするなら早めにしておかないとね。
「おかえり陽乃葉ちゃん。桐ケ谷くんもいらっしゃいませ」
「すみません、マスコットのことが気になって」
おばあちゃんを前にすると、桐ケ谷はちょっと大人になる。眠そうでも意地悪そうでもなく、ぴしっとした雰囲気。
「マスコットね、ひとつ売れたよ」
「え、もう!?」
つい驚いてしまった。たしかに桐ケ谷のマスコットはかわいいけど、こんなにすぐだなんて。
さっきまでのネガティブな気持ちはどこかへ消え、あたしの心はいっきに浮ついた。
桐ケ谷を見ると、ぼーぜんとした様子でおばあちゃんとレジ横にカゴに入れられているマスコットを交互に見ていた。
「桐ケ谷、よかったじゃん」
あたしが桐ケ谷をつつくと、我に返ったように「あ、あぁ……」と答えた。
びっくりするよね。
「おばあちゃん、どれが売れたの?」
「犬の……なんだっけ」
「ポメラニアンの?」
「そうそう、飼っている犬に似ているっていって、三軒となりの前島さんがね。さっき雑談しにきたときに買ってくれたんだよ」
「前島さんっていうのは、おばあちゃんの茶飲み友達のおばあちゃんだよ」
あたしが補足する。そういえば、前島のおばあちゃんはまっしろなポメラニアンを飼っていたことを思い出す。桐ケ谷は、うれしそうにほほ笑み、何度も頷いた。
おおげさなリアクションはしないけど、うれしさをかみしめているような桐ケ谷を見ていると、あたしもうれしくなる。
よかった、桐ケ谷の笑顔を見られた!
「はじめて、俺のマスコットが売れたよ。こんなにうれしいんだな」
口元がゆるむのか、手でほっぺたを押さえている。
「また、あたらしいマスコットをたくさん作らないとね」
「そうだな。でも……いつまでもクレープ屋さんに置いてもらうわけにはいかないしなぁ」
桐ケ谷はうーんと悩んで腕を組んだ。
たしかに、ほかにもマスコットを売る方法はあるはず。
「フリマアプリとか、ハンドメイドアプリは?」
「俺、スマホ持ってなくて」
「そっか。親にアカウントを作ってもらうとかは?」
「……親には、言ってないから。マスコットを作っているって」
すこしさみしそうに、桐ケ谷は目線を落とした。
あたしがぬいぐるみをかわいがっていることを誰にも言えないように、桐ケ谷も、マスコットを作っていることを親に言えないんだ。
親の協力を得られないとなると、アプリを使うのはむずかしい。あーあ。子どもができることって少ない。無力感。
あたしは、なんだかがっかりしてしまった。
桐ケ谷のマスコットが売れて気分が良かったのに、すぐに壁にぶちあたってしまった気分……。
そりゃ、気になっちゃうよね~。でも、昨日はあのあとすぐ閉店したし、今日も営業が始まってまだ間もない。売れているとは思えないんだけど……。
本音は言わず、いっしょににじいろへ向かった。
桐ケ谷ががっかりする姿、見たいくないな。また、ぱっと輝く笑顔を見たいのに。せめて明日とか、来週とかにしてくれれば、一個くらい売れてるかもしれない。今日はまだ早いって。
気が重いなと思いながら、にじいろに到着した。外から様子を見てみても、お客さんがいる気配はない。
「ただいまおばあちゃん。桐ケ谷も来たよ」
今日は表の出入口からお店に入る。お客さんはいないけど、学校も終わってこれから夕方までが忙しくなる時間になるから、話をするなら早めにしておかないとね。
「おかえり陽乃葉ちゃん。桐ケ谷くんもいらっしゃいませ」
「すみません、マスコットのことが気になって」
おばあちゃんを前にすると、桐ケ谷はちょっと大人になる。眠そうでも意地悪そうでもなく、ぴしっとした雰囲気。
「マスコットね、ひとつ売れたよ」
「え、もう!?」
つい驚いてしまった。たしかに桐ケ谷のマスコットはかわいいけど、こんなにすぐだなんて。
さっきまでのネガティブな気持ちはどこかへ消え、あたしの心はいっきに浮ついた。
桐ケ谷を見ると、ぼーぜんとした様子でおばあちゃんとレジ横にカゴに入れられているマスコットを交互に見ていた。
「桐ケ谷、よかったじゃん」
あたしが桐ケ谷をつつくと、我に返ったように「あ、あぁ……」と答えた。
びっくりするよね。
「おばあちゃん、どれが売れたの?」
「犬の……なんだっけ」
「ポメラニアンの?」
「そうそう、飼っている犬に似ているっていって、三軒となりの前島さんがね。さっき雑談しにきたときに買ってくれたんだよ」
「前島さんっていうのは、おばあちゃんの茶飲み友達のおばあちゃんだよ」
あたしが補足する。そういえば、前島のおばあちゃんはまっしろなポメラニアンを飼っていたことを思い出す。桐ケ谷は、うれしそうにほほ笑み、何度も頷いた。
おおげさなリアクションはしないけど、うれしさをかみしめているような桐ケ谷を見ていると、あたしもうれしくなる。
よかった、桐ケ谷の笑顔を見られた!
「はじめて、俺のマスコットが売れたよ。こんなにうれしいんだな」
口元がゆるむのか、手でほっぺたを押さえている。
「また、あたらしいマスコットをたくさん作らないとね」
「そうだな。でも……いつまでもクレープ屋さんに置いてもらうわけにはいかないしなぁ」
桐ケ谷はうーんと悩んで腕を組んだ。
たしかに、ほかにもマスコットを売る方法はあるはず。
「フリマアプリとか、ハンドメイドアプリは?」
「俺、スマホ持ってなくて」
「そっか。親にアカウントを作ってもらうとかは?」
「……親には、言ってないから。マスコットを作っているって」
すこしさみしそうに、桐ケ谷は目線を落とした。
あたしがぬいぐるみをかわいがっていることを誰にも言えないように、桐ケ谷も、マスコットを作っていることを親に言えないんだ。
親の協力を得られないとなると、アプリを使うのはむずかしい。あーあ。子どもができることって少ない。無力感。
あたしは、なんだかがっかりしてしまった。
桐ケ谷のマスコットが売れて気分が良かったのに、すぐに壁にぶちあたってしまった気分……。
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