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2.委員長の癒しの時間

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 夜十時前。由愛愛生のふたりはとっくに寝た。お母さんは由愛愛生といっしょに仮眠中。お父さんは毎日残業で夜十時過ぎに帰ってくる。おばあちゃんは自分の部屋で好きな韓国ドラマをみながら、今日のお店の売上管理っていうのをやっている時間。
 あたしは由愛と愛生をお風呂に入れ、自分もお風呂にも入り、宿題も終えた。やーーーっと、深く息ができる気がするよ。
 よし、あとは寝るだけ。
 つまり、自由時間!
 あたしが「委員長」でも「お姉ちゃん」でもなくなる瞬間がやってきた!
 癒しの時間になにをするかというと……。
 あたしはベッドに寝転がり、枕元にいる「あむちゃん」を手に取った。
 ふわふわの毛並みで、やわらかくて、さわっているだけで癒される……あむちゃんは、かわいいクマのぬいぐるみなの!
「かわいい~~~」
 くりっとした瞳、ωの口、丸い手足、なにをとってもかわいいでしかない。
 綿がふわふわで、適度な弾力を感じる。
 見た目や手触りがかわいいのはもちろんだけど、ぬいぐるみのあむちゃんは、私を委員長ともお姉ちゃんとも呼ばない。……ぬいぐるみだから、呼ばないんだけど。
 だからあむちゃんには、あたしの弱いところを見せられる。
「委員長なのに」「お姉ちゃんなんだから」って言わない。頼ってこない。期待しない。
 それだけで、すっごく気が楽!
 生き物を飼っていたらきっと「お姉ちゃんだから、あたしがお世話しないと!」って、がんばっちゃうから……。
 あたしはあむちゃんの頭をなでながら、今日の「お疲れ事項」を伝える。心の中で。
 否定することなく、あむちゃんはぜーんぶ聞いてくれた。……ぬいぐるみだから、言い返してこないだけなんだけど。
 鈴蘭を勝手に推しにして迷惑をかける野澤。提出物を忘れる桐ケ谷。
 まったく、どいつもこいつも!
 でも……あたしはなんで、桐ケ谷のことを「イイ奴」っておもっているんだろう?
 あまりに愛想がないから、陰で「中学の悪い先輩とつるんでよくないことをしている」とまでウワサされているくらいなのに。
 今度、なんか話してみようかな……いや、何を話すの。いっつもぼーっとしてて、人の話を聞かない人と。
「あむちゃんは、どうおもう?」
 聞いても、答えない。かわいい顔をこちらに向けるだけ。
 ……あたし、やっぱりオカシイのかな。ぬいぐるみに話しかけるなんて。
 と、思っていたときもあったけど、今は開き直ってる! だって、だれにも迷惑かけてないじゃんって!
 あむちゃんがいることで息抜きできて、あたしは「委員長」で「お姉ちゃん」の役割をはたせる。
 これからも、あたしはがんばれるんだ。
 あむちゃんを抱きしめて、あたしは横になったまま目を閉じた。
 あたしの鼻を、あむちゃんのにおいが横切る。さいきん洗ったばかりだから、自分の服と同じ洗剤のにおいがして落ち着く。
 あー今日も疲れた。このまま寝ちゃおうかな………………。
 ダメだ!
 仮眠中のお母さんを起こして、明日の授業の準備をして、歯磨きして寝ないと!
 あたしは体をむくりと起こし、あむちゃんを枕元においた。そして足音を忍ばせて由愛愛生が寝ている部屋へ行き、お母さんを起こしにいった。
 もっと、ゆるく生きたら楽なのにっておもうんだけど。でもこうして真面目にきっちり生活する方が、あたしには合ってるんだよね、きっと。
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