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第三章
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それから楓真は、手際よく野菜炒めとポテトサラダを作り上げた。見た目は、初心者の人が作ったと思えないくらい、完成度が高かった。手際もよかったし、いつの間に練習したんだろうかと私は感心するばかり。
お父さんが買ってきてくれたチキンと共に、夕食でいただくことに。
「いただきます」
まず野菜炒めに箸をつける。
シャキッとした野菜はしっかりと味がついていて美味しい。お肉も適度に火を通したのか柔らかくて食べやすかった。
「楓真、すごいよ。料理初心者にしてはレベルが高くない? 私は作れないよ……」
「ほんとね。お母さんも、ここまで上手には作れない」
「駅前の町中華みたいな味だなぁ、すごいよ楓真くん」
家族がべた褒めすると、楓真は照れくさそうに笑った。あまり見たことがない表情で、私はちょっと驚いた。かわいい顔で笑うんだな。
ポテトサラダにも手を伸ばす。楓真が、じゃがいもの芽を丁寧にとっていたシーンを思い浮かべる。ポテサラって、思いのほか作るのが大変そうだった。
ねっとりとしたじゃがいもと、マヨネーズの相性がすごくいい。ハムやきゅうりも、多すぎず少なすぎず。小鉢に入れられたポテトサラダはあっという間になくなってしまった。もっと食べたかったなぁ。
「楓真、おかわりないの?」
「あるよ」
「じゃあ、おかわり!」
私の要望に、楓真はさらに照れくさそうに、でも嬉しそうに立ち上がって、冷蔵庫に入れたボウルからポテトサラダを取り分けてくれた。
「ありがとう」
すごい。いつの間に、こんなにちゃんとした人になったんだろう。
楓真がちょっとだけ遠くに行ってしまった気がして、ポテトサラダの味がしなくなってきた。私はチキンに手を伸ばす。スパイシーな味付けのおかげで、現実に戻れる。
油で汚れた手をティッシュで拭いていると、楓真が口を開いた。
「あの、お話がありまして」
嫌な予感。私は思わずティッシュを握りしめる。
おかしいと思ってた。おかしいって言い方はヘンだけど、いつもの楓真じゃない感じがしていたから。ふざけることも減ったし、真面目だし、最近の楓真は昔の楓真と違う。
自立したいと料理をはじめた理由、なんだろうか。
楓真は、私たちの顔をひとりずつじっと見てから口を開いた。
「実は来週から塾に通うことにしました。これからは、自分で夜のお弁当を作って塾に持って行かなくちゃいけないので、ここで夕飯をごちそうになるのは今日が最後になります」
きっぱりとしたわかりやすい口調なのに、私の頭にはうまく意味が伝わらなかった。
「お弁当を、塾に?」
お母さんが、不思議そうに聞き返した。私は塾に行っていないから、システムがわからないんだろうね。私も、わからない。
楓真は、ていねいな口調で理由を説明する。
「塾の時間が18時から21時で、休み時間にお弁当を食べるのが一般的らしくて。なので、自分で作って持っていくことにしました」
「そうなの……そんな時間まで」
楓真を息子のように可愛がっていた両親は、あからさまにがっかりした顔つきになった。
私はというと……。
「で、でも塾って毎日あるわけでもないし。そうじゃない日は、ウチにきたっていいんだよ?」
ねぇそうだよね、と両親の顔を見る。ふたりとも、うんうんとうなずいてくれた。
「来年は高校生だし、いつまでも甘えているわけにはいかないから」
楓真の決意は固そう。私の隣に座る楓真は、まっすぐに私の両親を見つめている。何の迷いもない。
もしかして、陸上をやめたことと、なにか関係があるのかな?
私には、聞けないんだけど。
楓真の作ってくれたおいしい料理が、私を突き放すような気がして。でも残したくはないから、無心で食べきった。
先に、ひとりで成長しないでよ。
お父さんが買ってきてくれたチキンと共に、夕食でいただくことに。
「いただきます」
まず野菜炒めに箸をつける。
シャキッとした野菜はしっかりと味がついていて美味しい。お肉も適度に火を通したのか柔らかくて食べやすかった。
「楓真、すごいよ。料理初心者にしてはレベルが高くない? 私は作れないよ……」
「ほんとね。お母さんも、ここまで上手には作れない」
「駅前の町中華みたいな味だなぁ、すごいよ楓真くん」
家族がべた褒めすると、楓真は照れくさそうに笑った。あまり見たことがない表情で、私はちょっと驚いた。かわいい顔で笑うんだな。
ポテトサラダにも手を伸ばす。楓真が、じゃがいもの芽を丁寧にとっていたシーンを思い浮かべる。ポテサラって、思いのほか作るのが大変そうだった。
ねっとりとしたじゃがいもと、マヨネーズの相性がすごくいい。ハムやきゅうりも、多すぎず少なすぎず。小鉢に入れられたポテトサラダはあっという間になくなってしまった。もっと食べたかったなぁ。
「楓真、おかわりないの?」
「あるよ」
「じゃあ、おかわり!」
私の要望に、楓真はさらに照れくさそうに、でも嬉しそうに立ち上がって、冷蔵庫に入れたボウルからポテトサラダを取り分けてくれた。
「ありがとう」
すごい。いつの間に、こんなにちゃんとした人になったんだろう。
楓真がちょっとだけ遠くに行ってしまった気がして、ポテトサラダの味がしなくなってきた。私はチキンに手を伸ばす。スパイシーな味付けのおかげで、現実に戻れる。
油で汚れた手をティッシュで拭いていると、楓真が口を開いた。
「あの、お話がありまして」
嫌な予感。私は思わずティッシュを握りしめる。
おかしいと思ってた。おかしいって言い方はヘンだけど、いつもの楓真じゃない感じがしていたから。ふざけることも減ったし、真面目だし、最近の楓真は昔の楓真と違う。
自立したいと料理をはじめた理由、なんだろうか。
楓真は、私たちの顔をひとりずつじっと見てから口を開いた。
「実は来週から塾に通うことにしました。これからは、自分で夜のお弁当を作って塾に持って行かなくちゃいけないので、ここで夕飯をごちそうになるのは今日が最後になります」
きっぱりとしたわかりやすい口調なのに、私の頭にはうまく意味が伝わらなかった。
「お弁当を、塾に?」
お母さんが、不思議そうに聞き返した。私は塾に行っていないから、システムがわからないんだろうね。私も、わからない。
楓真は、ていねいな口調で理由を説明する。
「塾の時間が18時から21時で、休み時間にお弁当を食べるのが一般的らしくて。なので、自分で作って持っていくことにしました」
「そうなの……そんな時間まで」
楓真を息子のように可愛がっていた両親は、あからさまにがっかりした顔つきになった。
私はというと……。
「で、でも塾って毎日あるわけでもないし。そうじゃない日は、ウチにきたっていいんだよ?」
ねぇそうだよね、と両親の顔を見る。ふたりとも、うんうんとうなずいてくれた。
「来年は高校生だし、いつまでも甘えているわけにはいかないから」
楓真の決意は固そう。私の隣に座る楓真は、まっすぐに私の両親を見つめている。何の迷いもない。
もしかして、陸上をやめたことと、なにか関係があるのかな?
私には、聞けないんだけど。
楓真の作ってくれたおいしい料理が、私を突き放すような気がして。でも残したくはないから、無心で食べきった。
先に、ひとりで成長しないでよ。
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