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第三章
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こういう時は、みっちゃんに話を聞いてほしい! 桜と小梅をモフモフしたい!
でも、今日は楓真が来るから早く家に帰らないと……。
「ただいまー!」
「おかえり、今日楓真くん来るんだって?」
家族には、朝のうちに連絡済。食料を買っておくとか、いろいろ準備があるからね。
「私、部屋の片づけしてくるね」
「部屋?」
いつも、楓真が来るからって掃除をしたことはない。だから、お母さんの疑問の声はもっともだけど、説明はしないでおく。
これまでは、楓真に汚い部屋を見られても平気だったからね。でも今はとんでもない。ゼッタイにきれいな部屋にしておかなくちゃ。ウソつきの私の印象を少しずつでも回復させたい。こんなことで回復するかは……ビミョーだけど。
制服から部屋着に着替える時間も惜しんで、急いで片付け。
この前、念入りに掃除をしておいたおかげで片付けはすぐに終わった。よかった、日頃の行い!
ピンポーン
インターフォンの音が聞こえた。楓真が来た!
……楓真、だよね? 乙輝先輩が襲撃しに来たとか、ないよね?
階段をかけ降りて、お母さんより先におそるおそる玄関のドアをあける。
「なんだよ、ビビった顔して」
楓真がいつもどおりの顔で、ひとりで立っていた。よかった。
私はほっと胸をなでおろし、ドアを大きくあけた。
「いらっしゃーい」
「おじゃまします」
楓真は、慣れたそぶりで家にあがる。楓真も、制服のままだった。
「すみませんおばさん、急に」
「いいのよー。遠慮しないで」
気のいいおばちゃんって感じのお母さんは、にこにこと答える。
「あの、今日は僕が料理を作ろうかなって思うんですけど、キッチン貸してもらっていいですか?」
楓真の申し出に、私とお母さんは顔を見合わせる。
「いいけど、どうして?」
「来年は高校生だし、ひとりでもしっかり生活できるよう準備しようと思って。家で少しずつ練習してきたんで、成果をみてもらっていいすか?」
「もちろん!」
お母さんは驚いた顔のままだったけれど、楓真の申し出をすんなり受け入れた。私はまだ、ついていけてないんだけど……。
「ありがとうございます。今から、足りない材料を買い出しに行ってきます」
すごい。楓真って、大人なんだな……。
楓真は、お母さんといっしょに材料を見ている。
私があっけにとられている間に、話がどんどん進んでいく。
乗り遅れてなるものか!
「私も! 買い物付き合う!」
楓真は驚いたように目を丸くしたけど、すぐに微笑んでくれた。
「ありがとう。助かる」
ありがとうって言われただけで、心がほわっとあったかくなった。
というかこれは……制服で放課後デートじゃないですか!
家を出ると、日中とは違って爽やかで涼しい風が髪をなでた。夏前の、過ごしやすい夕方特有の空気感が好き。
買い物は、徒歩10分ほどの大型スーパーですることに。買い物はコンビニかドラックストアですることが多いから、ちょっと緊張する。
ふたりで住宅街を歩いていく。どうしよう、何話そうかな。
楓真は、長袖のワイシャツの袖をまくっていた。大人の男の人のようにたくましくなった腕を見る。中3って、大人だよね。乙輝先輩も、大人っぽかった。やっぱり中1は子どものようにしか見えないだろうな。
「波奈、背伸びた?」
唐突な楓真の声に、我に返る。
「えっと、どうだろう……」
春の身体測定の時は、さほど伸びていなかったような気がする。あれから2ヶ月もたってない。伸びている実感は、あまりない。
「俺の見立てでは、ちょっとだけ伸びた気がする」
うん、と勝手に納得して頷いている。お父さんみたい。
そういえば楓真は陸上部だったけど、陸上大会で優勝したらしいのに最近は部活に行っている気配はない。なんでだろう?
聞かないほうがいいのかも、と思いつつ、無言で歩いているのも気まずいので聞いてみることにした。
「楓真ってさ。陸上部だよね?」
「そうだったけど」
そうだった、という過去形に、私は目を見開く。まだ3年の春なのに、やめちゃったの? 夏の大会で引退するイメージだったんだけど……。
「え、でも、去年大きな大会で優勝したのに」
聞いた話なのに、自分が最初から得ていた情報のように話してしまった。いけない、悪い癖だ。
「知っててくれてたんだ」
ほら、勘違いしちゃった……。
「ま、まぁね」
嬉しそうな楓真の顔を見ると、訂正できなかった。仕方ない、これは楓真を傷つけないウソということでセーフ。
「ま、いろいろね。いいじゃん、どうせ夏には引退するんだし。俺は高校で陸上続けるつもりがないから、早めにやめたところで問題なし」
高校という言葉を聞いて、心が寂しくなった。
でも、今日は楓真が来るから早く家に帰らないと……。
「ただいまー!」
「おかえり、今日楓真くん来るんだって?」
家族には、朝のうちに連絡済。食料を買っておくとか、いろいろ準備があるからね。
「私、部屋の片づけしてくるね」
「部屋?」
いつも、楓真が来るからって掃除をしたことはない。だから、お母さんの疑問の声はもっともだけど、説明はしないでおく。
これまでは、楓真に汚い部屋を見られても平気だったからね。でも今はとんでもない。ゼッタイにきれいな部屋にしておかなくちゃ。ウソつきの私の印象を少しずつでも回復させたい。こんなことで回復するかは……ビミョーだけど。
制服から部屋着に着替える時間も惜しんで、急いで片付け。
この前、念入りに掃除をしておいたおかげで片付けはすぐに終わった。よかった、日頃の行い!
ピンポーン
インターフォンの音が聞こえた。楓真が来た!
……楓真、だよね? 乙輝先輩が襲撃しに来たとか、ないよね?
階段をかけ降りて、お母さんより先におそるおそる玄関のドアをあける。
「なんだよ、ビビった顔して」
楓真がいつもどおりの顔で、ひとりで立っていた。よかった。
私はほっと胸をなでおろし、ドアを大きくあけた。
「いらっしゃーい」
「おじゃまします」
楓真は、慣れたそぶりで家にあがる。楓真も、制服のままだった。
「すみませんおばさん、急に」
「いいのよー。遠慮しないで」
気のいいおばちゃんって感じのお母さんは、にこにこと答える。
「あの、今日は僕が料理を作ろうかなって思うんですけど、キッチン貸してもらっていいですか?」
楓真の申し出に、私とお母さんは顔を見合わせる。
「いいけど、どうして?」
「来年は高校生だし、ひとりでもしっかり生活できるよう準備しようと思って。家で少しずつ練習してきたんで、成果をみてもらっていいすか?」
「もちろん!」
お母さんは驚いた顔のままだったけれど、楓真の申し出をすんなり受け入れた。私はまだ、ついていけてないんだけど……。
「ありがとうございます。今から、足りない材料を買い出しに行ってきます」
すごい。楓真って、大人なんだな……。
楓真は、お母さんといっしょに材料を見ている。
私があっけにとられている間に、話がどんどん進んでいく。
乗り遅れてなるものか!
「私も! 買い物付き合う!」
楓真は驚いたように目を丸くしたけど、すぐに微笑んでくれた。
「ありがとう。助かる」
ありがとうって言われただけで、心がほわっとあったかくなった。
というかこれは……制服で放課後デートじゃないですか!
家を出ると、日中とは違って爽やかで涼しい風が髪をなでた。夏前の、過ごしやすい夕方特有の空気感が好き。
買い物は、徒歩10分ほどの大型スーパーですることに。買い物はコンビニかドラックストアですることが多いから、ちょっと緊張する。
ふたりで住宅街を歩いていく。どうしよう、何話そうかな。
楓真は、長袖のワイシャツの袖をまくっていた。大人の男の人のようにたくましくなった腕を見る。中3って、大人だよね。乙輝先輩も、大人っぽかった。やっぱり中1は子どものようにしか見えないだろうな。
「波奈、背伸びた?」
唐突な楓真の声に、我に返る。
「えっと、どうだろう……」
春の身体測定の時は、さほど伸びていなかったような気がする。あれから2ヶ月もたってない。伸びている実感は、あまりない。
「俺の見立てでは、ちょっとだけ伸びた気がする」
うん、と勝手に納得して頷いている。お父さんみたい。
そういえば楓真は陸上部だったけど、陸上大会で優勝したらしいのに最近は部活に行っている気配はない。なんでだろう?
聞かないほうがいいのかも、と思いつつ、無言で歩いているのも気まずいので聞いてみることにした。
「楓真ってさ。陸上部だよね?」
「そうだったけど」
そうだった、という過去形に、私は目を見開く。まだ3年の春なのに、やめちゃったの? 夏の大会で引退するイメージだったんだけど……。
「え、でも、去年大きな大会で優勝したのに」
聞いた話なのに、自分が最初から得ていた情報のように話してしまった。いけない、悪い癖だ。
「知っててくれてたんだ」
ほら、勘違いしちゃった……。
「ま、まぁね」
嬉しそうな楓真の顔を見ると、訂正できなかった。仕方ない、これは楓真を傷つけないウソということでセーフ。
「ま、いろいろね。いいじゃん、どうせ夏には引退するんだし。俺は高校で陸上続けるつもりがないから、早めにやめたところで問題なし」
高校という言葉を聞いて、心が寂しくなった。
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