上 下
14 / 26
第三章

2

しおりを挟む
 こういう時は、みっちゃんに話を聞いてほしい! 桜と小梅をモフモフしたい!
 でも、今日は楓真が来るから早く家に帰らないと……。
「ただいまー!」
「おかえり、今日楓真くん来るんだって?」
 家族には、朝のうちに連絡済。食料を買っておくとか、いろいろ準備があるからね。
「私、部屋の片づけしてくるね」
「部屋?」
 いつも、楓真が来るからって掃除をしたことはない。だから、お母さんの疑問の声はもっともだけど、説明はしないでおく。
 これまでは、楓真に汚い部屋を見られても平気だったからね。でも今はとんでもない。ゼッタイにきれいな部屋にしておかなくちゃ。ウソつきの私の印象を少しずつでも回復させたい。こんなことで回復するかは……ビミョーだけど。
 制服から部屋着に着替える時間も惜しんで、急いで片付け。
 この前、念入りに掃除をしておいたおかげで片付けはすぐに終わった。よかった、日頃の行い!
 ピンポーン
 インターフォンの音が聞こえた。楓真が来た!
 ……楓真、だよね? 乙輝先輩が襲撃しに来たとか、ないよね?
 階段をかけ降りて、お母さんより先におそるおそる玄関のドアをあける。
「なんだよ、ビビった顔して」
 楓真がいつもどおりの顔で、ひとりで立っていた。よかった。
 私はほっと胸をなでおろし、ドアを大きくあけた。
「いらっしゃーい」
「おじゃまします」
 楓真は、慣れたそぶりで家にあがる。楓真も、制服のままだった。
「すみませんおばさん、急に」
「いいのよー。遠慮しないで」
 気のいいおばちゃんって感じのお母さんは、にこにこと答える。
「あの、今日は僕が料理を作ろうかなって思うんですけど、キッチン貸してもらっていいですか?」
 楓真の申し出に、私とお母さんは顔を見合わせる。
「いいけど、どうして?」
「来年は高校生だし、ひとりでもしっかり生活できるよう準備しようと思って。家で少しずつ練習してきたんで、成果をみてもらっていいすか?」
「もちろん!」
 お母さんは驚いた顔のままだったけれど、楓真の申し出をすんなり受け入れた。私はまだ、ついていけてないんだけど……。
「ありがとうございます。今から、足りない材料を買い出しに行ってきます」
 すごい。楓真って、大人なんだな……。
 楓真は、お母さんといっしょに材料を見ている。
 私があっけにとられている間に、話がどんどん進んでいく。
 乗り遅れてなるものか!
「私も! 買い物付き合う!」
 楓真は驚いたように目を丸くしたけど、すぐに微笑んでくれた。
「ありがとう。助かる」
 ありがとうって言われただけで、心がほわっとあったかくなった。
 というかこれは……制服で放課後デートじゃないですか!
 家を出ると、日中とは違って爽やかで涼しい風が髪をなでた。夏前の、過ごしやすい夕方特有の空気感が好き。
 買い物は、徒歩10分ほどの大型スーパーですることに。買い物はコンビニかドラックストアですることが多いから、ちょっと緊張する。
 ふたりで住宅街を歩いていく。どうしよう、何話そうかな。
 楓真は、長袖のワイシャツの袖をまくっていた。大人の男の人のようにたくましくなった腕を見る。中3って、大人だよね。乙輝先輩も、大人っぽかった。やっぱり中1は子どものようにしか見えないだろうな。
「波奈、背伸びた?」
 唐突な楓真の声に、我に返る。
「えっと、どうだろう……」
 春の身体測定の時は、さほど伸びていなかったような気がする。あれから2ヶ月もたってない。伸びている実感は、あまりない。
「俺の見立てでは、ちょっとだけ伸びた気がする」
 うん、と勝手に納得して頷いている。お父さんみたい。
 そういえば楓真は陸上部だったけど、陸上大会で優勝したらしいのに最近は部活に行っている気配はない。なんでだろう?
 聞かないほうがいいのかも、と思いつつ、無言で歩いているのも気まずいので聞いてみることにした。
「楓真ってさ。陸上部だよね?」
「そうだったけど」
 そうだった、という過去形に、私は目を見開く。まだ3年の春なのに、やめちゃったの? 夏の大会で引退するイメージだったんだけど……。
「え、でも、去年大きな大会で優勝したのに」
 聞いた話なのに、自分が最初から得ていた情報のように話してしまった。いけない、悪い癖だ。
「知っててくれてたんだ」
 ほら、勘違いしちゃった……。
「ま、まぁね」
 嬉しそうな楓真の顔を見ると、訂正できなかった。仕方ない、これは楓真を傷つけないウソということでセーフ。
「ま、いろいろね。いいじゃん、どうせ夏には引退するんだし。俺は高校で陸上続けるつもりがないから、早めにやめたところで問題なし」
 高校という言葉を聞いて、心が寂しくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

スペクターズ・ガーデンにようこそ

一花カナウ
児童書・童話
結衣には【スペクター】と呼ばれる奇妙な隣人たちの姿が見えている。 そんな秘密をきっかけに友だちになった葉子は結衣にとって一番の親友で、とっても大好きで憧れの存在だ。 しかし、中学二年に上がりクラスが分かれてしまったのをきっかけに、二人の関係が変わり始める……。 なお、当作品はhttps://ncode.syosetu.com/n2504t/ を大幅に改稿したものになります。 改稿版はアルファポリスでの公開後にカクヨム、ノベルアップ+でも公開します。

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

キミと踏み出す、最初の一歩。

青花美来
児童書・童話
中学に入学と同時に引っ越してきた千春は、あがり症ですぐ顔が真っ赤になることがコンプレックス。 そのせいで人とうまく話せず、学校では友だちもいない。 友だちの作り方に悩んでいたある日、ひょんなことから悪名高い川上くんに勉強を教えなければいけないことになった。 しかし彼はどうやら噂とは全然違うような気がして──?

山姥(やまんば)

野松 彦秋
児童書・童話
小学校5年生の仲良し3人組の、テッカ(佐上哲也)、カッチ(野田克彦)、ナオケン(犬塚直哉)。 実は3人とも、同じクラスの女委員長の松本いずみに片思いをしている。 小学校の宿泊研修を楽しみにしていた4人。ある日、宿泊研修の目的地が3枚の御札の昔話が生まれた山である事が分かる。 しかも、10年前自分達の学校の先輩がその山で失踪していた事実がわかる。 行方不明者3名のうち、一人だけ帰って来た先輩がいるという事を知り、興味本位でその人に会いに行く事を思いつく3人。 3人の意中の女の子、委員長松本いずみもその計画に興味を持ち、4人はその先輩に会いに行く事にする。 それが、恐怖の夏休みの始まりであった。 山姥が実在し、4人に危険が迫る。 4人は、信頼する大人達に助けを求めるが、その結果大事な人を失う事に、状況はどんどん悪くなる。 山姥の執拗な追跡に、彼らは生き残る事が出来るのか!

釣りガールレッドブルマ(一般作)

ヒロイン小説研究所
児童書・童話
高校2年生の美咲は釣りが好きで、磯釣りでは、大会ユニホームのレーシングブルマをはいていく。ブルーブルマとホワイトブルマーと出会い、釣りを楽しんでいたある日、海の魔を狩る戦士になったのだ。海魔を人知れず退治していくが、弱点は自分の履いているブルマだった。レッドブルマを履いている時だけ、力を発揮出きるのだ!

人食い神社と新聞部

西羽咲 花月
児童書・童話
これは新聞部にいた女子生徒が残した記録をまとめたものである 我々はまだ彼女の行方を探している。

処理中です...