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第二章

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 楓真が私の家に来る以外では、あまり会うことはない。3年生と1年生では教室がある階が違うしね。家が隣同士といっても、家の外にいない限りは顔を合わせることは少ない。
 だから、信用を回復する作戦をゆっくりたてるつもり……だったんだけど。そうもいかない事態になっていた。
 朝学校に着くと、なんだか教室がざわざわしていた。何事かと思って教室の中を眺めると……。
宮越波奈みやこしはなさんって、あなた?」
 教室中央にある私の机に座っていた女の子が、声をかけてきた。
 私の机に座って私を待っているって、どういうこと?
 ちょっと、状況が掴めないんだけど……。
 それにしても、オーラがすごい。それ以上に態度が大きい。先輩、かな? それにしたって、下級生の机に座るだなんて……絶対やばいってこの人。関わりたくないんだけど!
 教室の隅では、まりなちゃんが栞奈ちゃんとメグちゃんを守るように背中の後ろで守っていた。私もまりなちゃんに守ってほしいけど、無理そう。
 まりなちゃんの顔は「ひとりでがんばれ!」と言っているように見えた。待ってよ、突き放さないでよ~!
 どうやら、この状況はひとりで切り抜けるしかなさそう。
「はい、宮越波奈は私です……」
 仕方なしに、机まで近づく。こわいよ。頭から血の気が引いていくのが分かるけど、倒れるわけにもいかないから気をしっかり持つ。
「あたしは、3年の牧野乙輝まきのいつき
 やっぱり上級生だった。
「乙輝先輩……どうも……」
 勝気そうな太めの眉、大きな瞳、黒いロングヘア、短いスカート。細くてかわいくて、圧倒するようなキラキラしたオーラが私を攻撃してくる。
「こんな目立って美人な先輩が、私に何の用ですか?」
「へぇー、美的センスはあるんだ」
 あ、心の声のつもりが、思いっきり言葉に出ていた。でも、乙輝先輩は少し機嫌が良くなったみたいだからよかった。
「ちょっと顔貸してもらっていい?」
 くいくい、と指で私を呼びながら教室を出ていく。
「え、でももう始業のチャイムが」
「一瞬で終わるから!」
「はいっ!」
 ひっ、怖い。3年の先輩を怒らせたらいけない。
 私は、前を歩く乙輝先輩のあとをついていく。人目のないところは怖いからイヤだなと思っていたけど、場所は教室を出てすぐの多目的室だった。よかった。ここは扉が常に開放されているから、人目につく。
 と思ったら、乙輝先輩は力強く前と後ろの横開きのドアをバンッと閉めた。怒ってる人特有のイライラを感じる。あっという間に、外から見られない教室の完成。
 誰の視線も気にならなくなったところで、乙輝先輩はくるりと振り返り私を見る。
「言いたいことはひとつ。あなた、楓真と付き合ってるんだって?」
 単刀直入に言われた。
 えぇ~、この話、3年生にまで広まってるの……。
 教室で大きな声で話していたから、まぁいろんな人に筒抜けだったよね。
「え、あ、付き合ってるっていうか……」
 どう言っても大変なことになりそうで、言葉を濁す。でも、そんな手段を乙輝先輩が許してくれそうな気配はない。
「付き合ってるのか付き合ってないのかハッキリ言ったら? てか付き合ってるんでしょ。知ってるんだから」
「あ、いや……」
「それが許せなくてわざわざ1年の教室まで来たんだけど」
 私の言葉など聞かず、乙輝先輩は高圧的にまくし立ててくる。こんな高圧的な態度をされたことがなくて、どう対処していいかわからず何も言えない。
「あたしはね、楓真に6年間片思いしてるの」
 小4とかからってこと? 長いな。
「それを、あなたみたいなひょろひょろの新入りが、楓真と? そんなわけある?」
 新入生のことを「新入り」って呼ぶ人を初めて見た。
「しかも、家が隣同士って言うじゃない」
 ひっ、そこまでバレてるのか。まさか、月に何日もウチに来ているってところは、どうなんだろうか……。
「ずるいんじゃないの、お隣さんだなんて!」
 大きな目をさらに広げて、私を睨みつける。
 でも、泊まりに来ていたっていう部分は知られていないみたい。セーフ。この様子だと、それを知られていたら最悪の場合この世から消される恐れがありそう。
 キーンコーン……。
 予鈴が鳴った。教室に戻らないと。
 助かった~~~!
 乙輝先輩はまだまだ言い足りない様子だったけれど、3年生の教室は1階だから、急いで戻らなくてはならない。
 私は胸をなでおろす。これ以上乙輝先輩に責め立てられていたら、泣いてしまう。
「これで終わりじゃないからね。あたしはまだ、楓真を諦めたわけじゃないから!」
 美しいまでの捨て台詞を残して、乙輝先輩は帰っていった。
 私は部活に入っていないから、ああいう風に先輩に怒られるという経験は初めて。
 足も手も震えている。ぎゅっと手を握り、呼吸を整える。
 今後も乙輝先輩からイヤなことを言われるのかなぁと思うと、気が重い。けど、「付き合ってないので! どーぞどーぞ」とも言いたくない。
 私だって、楓真を渡したくないんだから!
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