想い出キャンディの作り方

花梨

文字の大きさ
上 下
27 / 46
第三章

11

しおりを挟む
「自分はもう死ぬのだ、やり残したことがたくさんある人生だったと嘆いて、夢の中を彷徨っているとね、瑠々が目の前に現れて言うの。『おばあちゃま。自分には夏休みに遊ぶ友達もいない。両親はホテル経営で忙しい。中身が変わっても誰も気がつかないよ。私の体を使って』って。悲しいことを言うの。孫にそんなことを言わせるなんてさ、私はおばあちゃん失格よ。だからこそ、瑠々の体を借りることにしたの」
 瑠々から、おばあちゃま、って呼ばれているんだ、と関係ないことをぼんやり思った。
「だから、友達が作りたい、って淳悟さんが勧誘してきたんですか」
 瑠々はそれ以上口を開かなかった。その時は「拾ってきた」と酷い言われようで、私も怒ってしまった。
「それが、今の状況よ。ま、理解はできないでしょうけどね。私もよくわかってないもの」
 試すように、私を見てくる。
 そう簡単に理解など出来るわけない。
 思いつつも、ここでそう言ってしまえば頭の固い、つまらない人間だと思われてしまう気がした。瑠々には、自分の意見を押し通す力があるから、反対するにはそれなりに私にも力がないと何も言い返せない。
 それに、こんなにもよくしてもらっておいて「信用しません」じゃ気まずい。
「これから、あなたのことは瑠々ではなく、妙さんと呼べばいいの?」
 しぶしぶ話に乗る、という私の様子を見て、少し意外そうに瑠々は眉をあげた。
「いいえ。瑠々の想い出の一ページになる為にも、瑠々として接して欲しい。これからも、細かいことは気にせずに瑠々の友人になってほしいから」
「飲み込んでくださって、よかったです。ねぇ」
 私にも瑠々にも言うように、淳悟さんはほっとした口調で安堵した。
 全然飲み込んでないけど、ここは乗らないことにはいけない雰囲気になってしまった。でも、嘘だとも思えなかった。
 不思議な状況だけど、言うとおりであればしっくりきてしまう。
「ごめん、まだ信じてないんだけど……でも瑠々と淳悟さんのことは信じてるから」
「信じてないけど信じてる、って何よ」
 愉快そうに、瑠々は口を手で押さえて笑った。
 それは妙としての笑顔なのか、瑠々の笑顔なのか。
 違和感に体がむずむずするけれど、深く考えずに今後も同じように付き合えばいい、か。
 いいのかそれで、と自分に問いかける。いいも悪いも、乗りかかった船という奴で、降りたらそこでおぼれてしまう。
「でも、さ。妙さんは、今……」
 聞いておかないといけない。私はもぞもそ、体を揺らしながら尋ねた。
「今際の際にいるわ。まだ生きているけれどね。お見舞いにかけつけた淳悟をつかまえて、今回は共犯者として巻き込んだの」
 いまわのきわ、ってなんだろう。まだ生きていることは確かなようだけど。
 淳悟さんがその時の事を思い出したように、懐かしむ目になった。
「びっくりしました。病院に行ったら、いとこの瑠々ちゃんが僕に言うんですよ。あんた、ふらふらしてやることないなら協力しなさいよって。そんな口のきき方をする子じゃなかったはずだし、僕は夢でも見ているのかと思いました」
 愉快そうに笑うけれど、今まさに、私がその状態なんだけどな。
「その、妙さんが、もし……もし……」
 亡くなったらどうなるの、と聞きたかったけれど、本人を前にして言葉に出来なかった。「死んじゃうんだから、まぁそういうことよ」
 声のトーンを落とさないように気を遣ったのか、瑠々はからっとした口ぶりで言った。
「そっか」
 聞かなくてもわかってる。
 せっかく友達になっても辛い別れが待っているのだと思うと、この先どういう風に接するべきか。
 ダイニングには重苦しい空気が流れた。
「いいのよ。気なんかつかわなくて。本当なら、意識もなくベッドの上で死を待つだけ。こうして、孫が二人も協力してくれて、人生のロスタイムというのを経験できているわけだからありがたいものよ。現世で頑張って生きたご褒美かしらね。徳は積んでおくものだわ」
「今はアディショナルタイムって言うの」
 指摘すると、瑠々は苦々しい顔で麦茶を飲んだ。
 上を向いた時のフェイスラインが、とても美しかった。中身が大人だから醸し出される色気、というものであろうか。首筋からいい匂いがしそう。甘い匂いではなく、スパイシーでセクシーな匂い。
「アデ……何、その長ったらしい名前。いちいち名称変えるのやめて欲しいわ。ばーちゃんはついていけない」
 憎まれ口を叩くけれど、瑠々はきっと、サッカー用語使って私に合わせてくれたんだ、と勝手に思う。瑠々のさまざまな気遣いは、ホテルの女将だった経験からなんだな、と感心した。これまでのもてなしも、そう考えればおかしくはない。部屋の改装をするにはやりすぎだけど。
「事情はわかったところで、目的は『雨傘』を探すことでしょう? 今までどう探してきたの?」
「今まで、って言ってもね。梨緒子が来る前の日に私も瑠々になったもんだから、何も」
 口を尖らせ、瑠々は肩をすくめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

アマツバメ

明野空
青春
「もし叶うなら、私は夜になりたいな」 お天道様とケンカし、日傘で陽をさえぎりながら歩き、 雨粒を降らせながら生きる少女の秘密――。 雨が降る日のみ登校する小山内乙鳥(おさないつばめ)、 謎の多い彼女の秘密に迫る物語。 縦読みオススメです。 ※本小説は2014年に制作したものの改訂版となります。 イラスト:雨季朋美様

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

窓を開くと

とさか
青春
17才の車椅子少女ー 『生と死の狭間で、彼女は何を思うのか。』 人間1度は訪れる道。 海辺の家から、 今の想いを手紙に書きます。 ※小説家になろう、カクヨムと同時投稿しています。 ☆イラスト(大空めとろ様) ○ブログ→ https://ozorametoronoblog.com/ ○YouTube→ https://www.youtube.com/channel/UC6-9Cjmsy3wv04Iha0VkSWg

彼女に思いを伝えるまで

猫茶漬け
青春
主人公の登藤 清(とうどう きよし)が阿部 直人(あべ なおと)に振り回されながら、一目惚れした山城 清美(やましろ きよみ)に告白するまでの高校青春恋愛ストーリー 人物紹介 イラスト/三つ木雛 様 内容更新 2024.11.14

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

青空ベンチ ~万年ベンチのサッカー少年が本気で努力した結果こうなりました~

aozora
青春
少年サッカーでいつも試合に出れずずっとベンチからみんなを応援している小学6年生の青井空。 仲間と一緒にフィールドに立つ事を夢見て努力を続けるがなかなか上手くいかずバカにされる日々。 それでも努力は必ず報われると信じ全力で夢を追い続けた結果…。 ベンチで輝く君に

処理中です...