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第七章
朋子流・トラブル解決法
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「お帰りください」
あれから一週間。今日もロング缶を持った男性が現れた。
いきなり朋子に拒絶された男性客は目を丸くしたが、へらへらと笑みを浮かべる。
「どうしたの急に~」
「当店は、お酒の持ち込みは禁止いたしますので」
「えぇ~? この前は良かったじゃない」
男性客はだんだんとイライラを募らせてゆく。
ランチ時が終わって、運よく店内にほかのお客さんがいない時間で良かった。
(この人が暴力をふるう人かもしれないのに、お母さん強気だな……)
由加は、スマホを手にすぐに警察に連絡できるよう体勢を整える。
「お客さん、私のこと好きですよね?」
唐突な質問に、由加も男性客もぽかんとする。
「え、まぁ……」
「でもねお客さん」
朋子が、厨房に手をバンと置いて勢いよく立ち上がる。
結構な音に、由加も男性客も思わず身体が震えた。
しかし朋子は怒っているのではない。そのまま台布巾でそっと目じりをおさえる仕草をした。
「私はなんだかんだ言って、夫を愛しているのよぉ」
唐突な演劇開始に、由加は思わず白けてしまう。が、男性客はあいかわらず目を丸くして驚いているようだ。
はぁ、と朋子は大げさにため息をついた。
「気弱で、寡黙で、そのくせ亭主関白で、妻子に退かぬ媚びぬ省みぬみたいな人だけど」
そして、朋子はよよよと泣き始めた。本当に「よよよ」と発語して。
(あたしの知ってるお父さんは、気弱で寡黙ではあるけど亭主関白ではないし。妻子にも結構媚びてるし……)
いったいどの家庭の話をしているのかと、由加は思わずあたりを見回してしまった。
「だから、ごめんなさいね……お客さんの気持ちに応えられなくて……私はなんて悪い女なんでしょう。夫への愛が薄れない私を許してちょうだい」
そっと、台布巾で目じりの涙を拭う。由加の目からは、朋子の涙は一度も確認できていなかったけれど。
由加が男性客の顔を伺うと、なぜかまんざらでもなさそうに頬を赤くして笑顔を浮かべている。
「そうか、そうだよな。朋子ちゃんの気持ちも考えずにごめんな」
「いいんですのよ」
「また、来てもいいかな……」
「今度はアルコール抜きでいらしてね……」
まるで愛し合う恋人同士の今生の別れかのようだが、実際は客を追い出したい店主と迷惑客だ。
なぜか、平穏無事に男性客は帰った。
とんでもないものを見せられたと、由加はげっそりと疲れる。
「あんな期待させる物言いをして、余計に熱をあげられたらどうするのよ」
「その時は、知り合いの自由業の人に頼んで、物理的に葬り去ればいいかなって」
朋子は、涙を拭くフリに使った台布巾を洗濯カゴに入れた。
知り合いの自由業者。深く聞くと由加の身によくないことが起きそうなので、スルーしておくことにした。たぶん、口から出まかせだと思うけれど。
とりあえず、安心した。いざという時の朋子の肝の座り方は尊敬する。
一難去って安心したのも束の間。
しくしく……しくしく……。
店内には朋子と由加しかいないのに、今度は泣き声が聞こえてくる。とうとう出たか?
あれから一週間。今日もロング缶を持った男性が現れた。
いきなり朋子に拒絶された男性客は目を丸くしたが、へらへらと笑みを浮かべる。
「どうしたの急に~」
「当店は、お酒の持ち込みは禁止いたしますので」
「えぇ~? この前は良かったじゃない」
男性客はだんだんとイライラを募らせてゆく。
ランチ時が終わって、運よく店内にほかのお客さんがいない時間で良かった。
(この人が暴力をふるう人かもしれないのに、お母さん強気だな……)
由加は、スマホを手にすぐに警察に連絡できるよう体勢を整える。
「お客さん、私のこと好きですよね?」
唐突な質問に、由加も男性客もぽかんとする。
「え、まぁ……」
「でもねお客さん」
朋子が、厨房に手をバンと置いて勢いよく立ち上がる。
結構な音に、由加も男性客も思わず身体が震えた。
しかし朋子は怒っているのではない。そのまま台布巾でそっと目じりをおさえる仕草をした。
「私はなんだかんだ言って、夫を愛しているのよぉ」
唐突な演劇開始に、由加は思わず白けてしまう。が、男性客はあいかわらず目を丸くして驚いているようだ。
はぁ、と朋子は大げさにため息をついた。
「気弱で、寡黙で、そのくせ亭主関白で、妻子に退かぬ媚びぬ省みぬみたいな人だけど」
そして、朋子はよよよと泣き始めた。本当に「よよよ」と発語して。
(あたしの知ってるお父さんは、気弱で寡黙ではあるけど亭主関白ではないし。妻子にも結構媚びてるし……)
いったいどの家庭の話をしているのかと、由加は思わずあたりを見回してしまった。
「だから、ごめんなさいね……お客さんの気持ちに応えられなくて……私はなんて悪い女なんでしょう。夫への愛が薄れない私を許してちょうだい」
そっと、台布巾で目じりの涙を拭う。由加の目からは、朋子の涙は一度も確認できていなかったけれど。
由加が男性客の顔を伺うと、なぜかまんざらでもなさそうに頬を赤くして笑顔を浮かべている。
「そうか、そうだよな。朋子ちゃんの気持ちも考えずにごめんな」
「いいんですのよ」
「また、来てもいいかな……」
「今度はアルコール抜きでいらしてね……」
まるで愛し合う恋人同士の今生の別れかのようだが、実際は客を追い出したい店主と迷惑客だ。
なぜか、平穏無事に男性客は帰った。
とんでもないものを見せられたと、由加はげっそりと疲れる。
「あんな期待させる物言いをして、余計に熱をあげられたらどうするのよ」
「その時は、知り合いの自由業の人に頼んで、物理的に葬り去ればいいかなって」
朋子は、涙を拭くフリに使った台布巾を洗濯カゴに入れた。
知り合いの自由業者。深く聞くと由加の身によくないことが起きそうなので、スルーしておくことにした。たぶん、口から出まかせだと思うけれど。
とりあえず、安心した。いざという時の朋子の肝の座り方は尊敬する。
一難去って安心したのも束の間。
しくしく……しくしく……。
店内には朋子と由加しかいないのに、今度は泣き声が聞こえてくる。とうとう出たか?
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