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第2章 空飛ぶ物流改革

第19話 小休憩

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石壁の向こうからは、スケルトンがごんごんと殴りつける音がする。
壁にひびが入るとセナは次の壁を作成し、じりじりと下がりながら状況を維持しているようだ。しかし、度重なる魔法の資料によりセナの顔にも消耗の色が見える。

「セナ、よく頑張った!」
「シャイルお姉さまの次にかっこいいわ!」
「だからなんでいつも誰かの次なんでシカ!」

シャイルが前に出ると、セナは壁の維持を止めた。程なくして、壁を崩したスケルトンが土埃の向こうから姿を現す。

「無駄に格好良いわね」
「セナちゃんごめんなさい、今セナちゃんのかっこよさランキングは3位に下がりました」
「むきー!審査員はどこでシカ!異議を申し立ててやるでシカ!」

軽口を交わす間にシャイルが接敵する。こちらのスケルトンは、直剣ブロードソードの二刀流だ。

「あっ!そいつ剣先が土で汚れてる!わざわざ剣で壁を殴ってたんだわ!」

マリーが目ざとく剣の汚れを見つけるが、その情報は誰かの役に立つのだろうか。いや、壁を殴る骨という絵面は面白いけれども。

「報告ありがとう!“魔力縄ロープ”の準備はいい?」
「あっ!はいお姉さま、いつでも!」

案の定、シャイルにそれとなく怒られている。

「左手振りかぶったら行くよ……今!」
「“魔力縄”!」

前回と同様、一瞬の隙が生まれたところでシャイルの棍棒がスケルトンの左肩を粉砕した。
これで楽勝ムードになったかと思いきや、骨には骨なりのプライドがあるのか、しばらくの間右手一本でシャイルの猛攻を凌ぎ切る。
最終的にはマリーの“魔衝撃マナ・インパクト”とセナの“火弾ファイヤーブリッド”が炸裂し、強敵は崩れ落ちた。

「セナちゃん、休んでて良かったのに」
「セナにも見せ場欲しいでシカ。かっこよさポイント稼ぎたいでシカよ」
「え、ごめん、気にしてたんだ……」
「それじゃ、いったん休憩しようか。この奥に敵はいないのよね?」
「情報では、普通に植物が植えてあるだけという話でシカ。役に立つハーブがあれば持って行ってもいいでシカ」
「さっきのスケルトンが、事実上のボスだったというわけね」

おっ、そう言えばあいつら剣持ってたわね~とか言いながら、シャイルがスケルトンの残骸から長剣1本と直剣2本を拾ってきた。
ここから詳細はわからないが、魔力を帯びていたりはしなかったと思う。

「んー、強さの割に、使ってる武器は大したことないみたい」

やはり、武器を調べていたシャイルはがっかりしたように肩をすくめる。

「それはそうでシカね。簡単に良い品を拾えるようなら、マジェナ城館ももっと冒険者に人気の探索場所になっているでシカ」
「そういえば、今までもこのパーティーは他の冒険者と合わない場所を舞台にすることが多かったわよね。何か理由があるの?」

マリーは無邪気に質問をするが、この問いには答えにくい。
不人気スポットを選ぶ理由は、俺という男性の存在をできるだけ他の冒険者に知られたくないからだ。
このパーティはアイドル志向ということで、可能な限り配信画面に男性を映さないよう配慮をしている。番組スタッフが映り込む場合は、必ず女性とすることを徹底しているくらいだ。
熱心なファンの中には、男の存在がちらついただけでも熱烈なをコメントしてくれる方がいる。その意見自体は極端すぎると理解しているものの、それによってコメント欄が荒れたりアイドル達のモチベーションが下がるのはできるだけ避けたい。
最近はやっていないが、初期の頃は敢えてアニエスの銀髪をカメラに映り込ませたりして、謎のカメラさん(美女)の存在を匂わせたりもした。
なかなかに気苦労の多い業界なのである。

カメラの中では、シャイルが「他の冒険者さんが画面に映ると、迷惑を掛けちゃうかもしれないからね」などとそれっぽい理由をでっち上げている。ナイスだ。

「ただ、アンデッドや魔法生物は、倒しても美味しくないんでシカよねえ」
「たまに武器持ちがいると、『おっ?』てなるわね。大抵は錆びてたり曲がってたりするんだけど」
「逆に、他の冒険者はどんなところに行ってるの?」
「初級のうちは、市内探索系シティ・クエストを勧められるわね」

市内探索とは、主に街の中の活動で解決しそうな依頼を指す。聞き込み・張り込み・ネズミなどの害獣駆除や、ゴミ屋敷の掃除なども該当する。

「街の外に出られるようになると、魔獣・害獣を倒す系が人気かな。素材を持ち帰って換金できるから、当たりを引いた時の収入が魅力ね」
「薬草とか鉱石の採取依頼があればセナたちも受けたいんでシカ、その手の話はあまり多くないでシカね」
「薬草は栽培した方が安いし、鉱石探索の依頼はお金持ちしか出せないもの」
「商隊の護衛ってどうなの?たまに聞くけど」
「ああ、それも人気ね。討伐系とは逆に収入が安定するから、初級から上級まで受ける人は多いわ」
「いろんな地域を見て回れるのも魅力でシカね。一度受けてみたいでシカ」

人族地域は長らく大きな戦乱などが起きておらず、治安は安定している。とはいえ、人里を離れるとまだまだ魔獣が出る地域もあるし、国への帰属意識がない村落の住民が山賊行為を働くこともある。
大きな商隊は必ず護衛を付けるのがこの世界の常識だ。

「へぇ~、何だか、すごく冒険者っぽい話をしたわ!」
「いやセナたちは冒険者でシカ。ていうかマリーもその自覚を持つでシカ」
「だってあたし、冒険者カード持ってないもの」
「え?」
「は?」

ん?そうだったっけ?
そう言えば勢いでマリーのデビューを決めてしまったこともあり、冒険者ギルド関連の話は全くしていなかった。
ギルド登録していない者が探索活動などをしても違法ではないが、正規の依頼を受けられないだけでなく、トラブル発生時の支援にも期待できない。マリーの場合はシャイルとセナがいるからどうにかなるだろうか、遠からず登録はしておいた方が良いだろう。

「あ、でも商業ギルドのカードは持ってるわ!通販を利用することはできるわよ?」
「そういう問題じゃないでシカ!」
「うーん、この城の攻略が終わったら、次はマリーの特訓回かしらねえ」
「え、冒険者ギルドってそんなに入るの厳しいの?」
「もちろん、心技体が全て揃った強者でないと登録できないでシカ」

嘘である。簡単な読み書きと体力審査があるだけだ。

「大丈夫よマリー。10日も血反吐に塗れれば立派な戦士になれるわ」
「いやあ、あたしは魔術師だから、そういうのはちょっといいかなって」
「セナたちも冒険者ギルド登録前はプロデューサーのしごきに耐えたでシカ。今思うと、あれも良い経験だったでシカ……」

人聞きの悪い言い方をされているが、二人の場合は撮影に当たって危険がないよう、探索エリアに対して十分以上の実力をつけたいという意図があった。
人道に反するようなことは行っていないはずだ。たぶん。

「私は活動期の大羆ジャイアント・ベアー相手に単騎突撃させられたわ」
「セナは状態異常をかけられた時の対処法訓練とかで、巨大目玉ランニング・アイの麻痺やら恐慌やら魅了やらを延々と受け続けたでシカ……」
「へ、へぇ~。マリー、街に戻ったらちょっと師匠とお話してみようかな」

いかん、マリーがどん引いている。
確かに当時はやりすぎた感もちょっとだけあった。今回は三人でパーティーを組めるということもあるから、あんなに鍛える必要はないだろう。二人とのレベル差は埋めなくてはならないが、多少はマイルドに経験を積ませることができると思う。きっと。

「まあそうね。街に戻るためにも、とっととこのお城を攻略しちゃいましょうか」

話に区切りをつけて、シャイルは勢い良く立ち上がった。
休憩時間としては、ちょうど良い塩梅あんばいだ。奥の部屋で適当に採取をしたら、ようやく城の正面玄関をノックできる。

シャイルに続いて、セナとマリーも伸びをしながら立ち上がる。
次のシーンに行ってみようか。
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