40 / 57
第2章 空飛ぶ物流改革
第13話 アイドルの仕事
しおりを挟む
それからも数日間、マリーの試行錯誤は続いた。
相変わらず、細工師としては抜群の仕事をしてくれている。
「師匠!エンシン君の機能のうち、飛行、自律動作、自律平衡、障害物回避までは実装できました!」
「やるわね。ではここまでで一つのモジュールとして完成させちゃって、思考系と言語系は別モジュールにしましょう。接続部含めて、新しい魔法陣を作っておくわ」
既に、試作機2号は空を飛ぶところまで来ている。1号と同じ機能を木製のガーゴイルで実現できる日も遠くはなさそうだ。
これに合わせて、俺は何件かの工房を当たり、マリーが作った金物細工を量産するための設備にも目星もつけていた。現在は有力な2件にエアコンのモジュールを量産できないか試してもらっている。完成したら、生産が追い付かないほどの大ヒット商品になるだろう。
「いやぁあああああああ!こっちくんなぁあああああああ!」
そして、魔術師としても相変わらずへっぽこな失敗が繰り返されている。
さすがに頻度は3回に1回くらいと減ったものの、どうにも自分の魔法で止めを刺したいらしく、ヘイトを見誤ってはゾンビに追いかけられる日々だ。
「マリー、体力だけはぐんぐん成長しているな」
「ある意味、基礎の訓練にはなっているでシカね」
「しゃべってないでたすけてぇええええええええ!!」
しかし、いつまでもマリーの修行ばかりに時間を使うわけにはいかない。
もともと予定していた総集編で時間稼ぎはしたものの、そろそろ配信用の映像素材が乏しくなってきた。次回の冒険ではマジェナの攻略をある程度のところまで進めておきたい。
「セナ、明日のマジェナはいつもより頑張ってもらうかもしれん」
「望むところでシカよ。最近はラクしすぎてたから、体が鈍るところだったでシカ」
「とりあえず、自分用の盾は一つ買っておいてくれるか。それから……」
シャイルに切り刻まれるゾンビを遠くに眺めながら、俺とセナは打ち合わせ始めるのだった。
◇◇◇
翌日。
俺たちはマジェナ城館の門扉前まで進撃していた。ここまでは以前の取れ高を使えるため、今日は俺自身も手伝いながら復活したゴーレムたちを一気に蹴散らしている。
「さて、今日の撮影はここからだ」
門扉からやや離れた安全地帯で、三人を集めて簡単に作戦のおさらいをする。
「門の上のガーゴイルは2匹。基本的には他の敵を呼んだりしないから、この2匹に集中していい」
「この辺りの敵としては、1段階上の強さなのよね?」
「ああ、若干硬くて、攻撃も重いな。だが一番厄介なのは空中から襲ってくることだ。恐らく、前衛を飛び越して後衛に奇襲をかけてくる」
空を飛ぶ知能の高い敵というのは、普通に冒険をしていてほぼ出会わない。
ここに来た大抵のパーティが、一度は苦杯を嘗めさせられている。
「準備はしてきたでシカ。セナが囮になるのでシカね?」
セナはこのために木の円盾を用意してきた。要所に金属で補強が入っており、軽さの割には丈夫な品だ。
「ああ、上からだけでなく、後ろに回り込む動きにも注意してくれ」
「プロデューサー、棍棒は投げちゃダメ?」
「できる限り投げないでくれ。さすがに広告主に怒られてしまう」
シャイルは、前回に続き棍棒を両手に装備している。確かに、普通の戦闘ならば投擲も立派な攻撃手段だが、アイドルとして広告中の商品を投げるのはNGだろう。
「りょうかーい。投げるなら短剣にするわ」
「プロデューサー、あたしは?」
「マリーはとりあえず撮影助手に徹してくれ。まだ画面に映るわけにはいかないからな。俺の傍を離れないこと。あと音や声を出さないこと」
「ぶーぶー、何もするなってことじゃん」
「視聴者はマリーの存在を知らないんだ。そこは理解してくれ」
実は、今回の撮影でマリーがやることは全くない。
それでも連れてきたのは、シャイルとセナの仕事っぷりを見せるためだ。
考えてみると、マリーは二人の撮影姿を見たことがない。一緒に冒険するに当たって、期待される動きの程度を理解してもらうには、一度じっくり見学させるのが良いだろうという判断だ。
なので、カメラを持たせることもなく、便宜上汗拭き係という役を与えて、ただ二人の動きを観察してもらうように仕向けている。
「他に質問がなければ、身だしなみを整えるぞ。シャイル、座ってくれ」
俺はシャイルの髪を一旦ほどき、ブラシで梳かした後にポニーテールをセットし直した。セナも同じようにブラシを入れた後、両サイドから編み込みを入れて後ろでまとめる。
片方を整えている間、もう一人はメイク直し―――と言っても眉を整え、薄く口紅を引く程度だが―――と、衣装の乱れチェックだ。
冒険者とはいってもアイドルはアイドル。基本的には美しくありたい。
全ての準備が終わると、毎回のルーチンとなっている掛け声をかける。
「髪よし、メイクよし、衣装よし。発声はいけるか?」
「ええ、いつでも!」
「バッチリでシカ!」
「よーし、じゃあオープニングトークいってみよう。カメラ回します、3、2、1」
「はいっ!皆さんこんばんは!武芸百般、目指すは最強!赤毛の美人剣士シャイルと」
「輝く髪は乳白色、嫌いな言葉は非常食!?お肉ではありません一人の女の子として愛してください、ドルイドのセナでシカ!」
定番となった挨拶から撮影が始まった。
相変わらず、細工師としては抜群の仕事をしてくれている。
「師匠!エンシン君の機能のうち、飛行、自律動作、自律平衡、障害物回避までは実装できました!」
「やるわね。ではここまでで一つのモジュールとして完成させちゃって、思考系と言語系は別モジュールにしましょう。接続部含めて、新しい魔法陣を作っておくわ」
既に、試作機2号は空を飛ぶところまで来ている。1号と同じ機能を木製のガーゴイルで実現できる日も遠くはなさそうだ。
これに合わせて、俺は何件かの工房を当たり、マリーが作った金物細工を量産するための設備にも目星もつけていた。現在は有力な2件にエアコンのモジュールを量産できないか試してもらっている。完成したら、生産が追い付かないほどの大ヒット商品になるだろう。
「いやぁあああああああ!こっちくんなぁあああああああ!」
そして、魔術師としても相変わらずへっぽこな失敗が繰り返されている。
さすがに頻度は3回に1回くらいと減ったものの、どうにも自分の魔法で止めを刺したいらしく、ヘイトを見誤ってはゾンビに追いかけられる日々だ。
「マリー、体力だけはぐんぐん成長しているな」
「ある意味、基礎の訓練にはなっているでシカね」
「しゃべってないでたすけてぇええええええええ!!」
しかし、いつまでもマリーの修行ばかりに時間を使うわけにはいかない。
もともと予定していた総集編で時間稼ぎはしたものの、そろそろ配信用の映像素材が乏しくなってきた。次回の冒険ではマジェナの攻略をある程度のところまで進めておきたい。
「セナ、明日のマジェナはいつもより頑張ってもらうかもしれん」
「望むところでシカよ。最近はラクしすぎてたから、体が鈍るところだったでシカ」
「とりあえず、自分用の盾は一つ買っておいてくれるか。それから……」
シャイルに切り刻まれるゾンビを遠くに眺めながら、俺とセナは打ち合わせ始めるのだった。
◇◇◇
翌日。
俺たちはマジェナ城館の門扉前まで進撃していた。ここまでは以前の取れ高を使えるため、今日は俺自身も手伝いながら復活したゴーレムたちを一気に蹴散らしている。
「さて、今日の撮影はここからだ」
門扉からやや離れた安全地帯で、三人を集めて簡単に作戦のおさらいをする。
「門の上のガーゴイルは2匹。基本的には他の敵を呼んだりしないから、この2匹に集中していい」
「この辺りの敵としては、1段階上の強さなのよね?」
「ああ、若干硬くて、攻撃も重いな。だが一番厄介なのは空中から襲ってくることだ。恐らく、前衛を飛び越して後衛に奇襲をかけてくる」
空を飛ぶ知能の高い敵というのは、普通に冒険をしていてほぼ出会わない。
ここに来た大抵のパーティが、一度は苦杯を嘗めさせられている。
「準備はしてきたでシカ。セナが囮になるのでシカね?」
セナはこのために木の円盾を用意してきた。要所に金属で補強が入っており、軽さの割には丈夫な品だ。
「ああ、上からだけでなく、後ろに回り込む動きにも注意してくれ」
「プロデューサー、棍棒は投げちゃダメ?」
「できる限り投げないでくれ。さすがに広告主に怒られてしまう」
シャイルは、前回に続き棍棒を両手に装備している。確かに、普通の戦闘ならば投擲も立派な攻撃手段だが、アイドルとして広告中の商品を投げるのはNGだろう。
「りょうかーい。投げるなら短剣にするわ」
「プロデューサー、あたしは?」
「マリーはとりあえず撮影助手に徹してくれ。まだ画面に映るわけにはいかないからな。俺の傍を離れないこと。あと音や声を出さないこと」
「ぶーぶー、何もするなってことじゃん」
「視聴者はマリーの存在を知らないんだ。そこは理解してくれ」
実は、今回の撮影でマリーがやることは全くない。
それでも連れてきたのは、シャイルとセナの仕事っぷりを見せるためだ。
考えてみると、マリーは二人の撮影姿を見たことがない。一緒に冒険するに当たって、期待される動きの程度を理解してもらうには、一度じっくり見学させるのが良いだろうという判断だ。
なので、カメラを持たせることもなく、便宜上汗拭き係という役を与えて、ただ二人の動きを観察してもらうように仕向けている。
「他に質問がなければ、身だしなみを整えるぞ。シャイル、座ってくれ」
俺はシャイルの髪を一旦ほどき、ブラシで梳かした後にポニーテールをセットし直した。セナも同じようにブラシを入れた後、両サイドから編み込みを入れて後ろでまとめる。
片方を整えている間、もう一人はメイク直し―――と言っても眉を整え、薄く口紅を引く程度だが―――と、衣装の乱れチェックだ。
冒険者とはいってもアイドルはアイドル。基本的には美しくありたい。
全ての準備が終わると、毎回のルーチンとなっている掛け声をかける。
「髪よし、メイクよし、衣装よし。発声はいけるか?」
「ええ、いつでも!」
「バッチリでシカ!」
「よーし、じゃあオープニングトークいってみよう。カメラ回します、3、2、1」
「はいっ!皆さんこんばんは!武芸百般、目指すは最強!赤毛の美人剣士シャイルと」
「輝く髪は乳白色、嫌いな言葉は非常食!?お肉ではありません一人の女の子として愛してください、ドルイドのセナでシカ!」
定番となった挨拶から撮影が始まった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
わがまま妃はもう止まらない
みやちゃん
ファンタジー
アンロック王国第一王女のミルアージュは自国でワガママ王女として有名だった。
ミルアージュのことが大好きなルーマン王国の王太子クリストファーのところに嫁入りをした。
もともとワガママ王女と知れ渡っているミルアージュはうまくルーマンで生きていけるのか?
人に何と思われても自分を貫く。
それがミルアージュ。
そんなミルアージュに刺激されルーマン王国、そして世界も変わっていく
「悪役王女は裏で動くことがお好き」の続編ですが、読まなくても話はわかるようにしています。ミルアージュの過去を見たい方はそちらもどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる