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第2章 空飛ぶ物流改革
第12話 相互理解とは
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新戦力として加入したマリーは、研究所ではアニエスの出す課題を順調にこなす一方で、実戦においては毎回何かしらやらかす日々が続いた。
「師匠!一昨日の課題、できました!」
「さすが、早いわね。どれどれ……うん、風魔法の発動と、強度調整に、加熱、冷却の魔法陣も問題なさそうね」
「師匠の設計が綺麗なので、作っていて楽しかったです!」
こんな調子で、研究所には異世界で初めてのエアコンが導入された。
他にも洗濯機やマッサージ器など、研究所員の生活にわかりやすく貢献する魔道具が開発され、所内での評価はうなぎ登りだ。
その反対に、冒険者としては苦労の日々が続いている。
「ねぇえええええええ!どうしていつもこうなるのぉおおおおおお!?」
今日も今日とて、マリーは元気にゾンビ数体と追いかけっこをしていた。
マジェナ周辺ではランクが高すぎるということで、今回は初級者向けのエリアに来てみたのだが、ここでもやはりヘイト管理に失敗している。
「アニエス、どう思う?」
「自信とやる気の空回りね。まずは立ち回りを覚えないと」
「だよなあ」
今回は、師匠たるアニエスにも同行してもらっている。師匠の前ならマリーも慎重になるかという期待があったのだが、結果はいつも通りだった。
追いかけるゾンビが5体を越え、そろそろマリーも疲れてきたかなというタイミングでセナが“石壁”を発現する。勢いづいたゾンビ達はまとめて壁に激突し、何体かがそのまま崩れ落ちる。
むしろ、ここ数日はセナの支援力の方が向上している気がするな。
「あとは、魔力量はあるのに制御ができていないから、打撃力に変換する際のロスが大きすぎるわ」
「そこは、これから修行を積んでいけば良いんだけどな」
「細工師として早くから認められてしまったことで、地道に訓練するという感覚が身についていない気がするわね」
なるほどな。
向こうでは、いつものようにセナが説教し、マリーもいつものように「もうちょっとだったんですけどー」などと言い訳とも反論ともつかないことを言っている。
立ち回りを覚えるにしても、その前に意識改革が必要になるのかな。
いつものように仲裁に入るシャイルを見ながら、俺はそんなことを考える。
「個人的には、もう少し気長に見守ってあげてほしいわね。まだ14歳なんだもの」
「判断能力としては、年相応ということか」
「わたしがマリーの代わりにパーティに入って、基本的な動きを見せましょうか?」
冒険者のパーティは信頼関係が非常に重要だ。前衛は振り返らずとも後衛の動きや立ち位置を把握できるようにならなければならないし、後衛は前衛に期待される立ち位置や支援を理解し、タイムリーに魔法を発動できなければならない。
この観点に立つと、根本的な所でマリーは二人との距離を空けてしまっているように感じる。
お手本通りの動きをすれば表面的な部分では息が合うにしても、イレギュラーな事態に直面すると動けなくなってしまうだろう。そして、冒険者にとってイレギュラーな事態とは日常茶飯事なのだ。
「もう少し試してダメだったら、頼むよ。その前にもう少しだけ試したいことがある」
「わかったわ。必要になったら言ってちょうだい」
この点、アニエスは俺の言葉の端から全体像を理解し、今でも先回りして助けてくれることが多い。ブランクはあったとはいえ、伊達に7年も一緒に死線を潜り抜けたわけではない。
ちょっとした感慨を持ってアニエスの横顔を見ていると、彼女も俺の視線に気づいたらしい。
「何?わたし変なこと言った?」
「いや、昔のことを思い出してさ」
「そういえばあなたは、最初から人の支援をするのが上手だったわね」
「空気読みは日本人の必須科目だからな」
他の職業として召喚されていたら、あんなに早くは馴染めなかっただろう。
「あれは空気を読むってレベルじゃなかったと思うわ。エリンもブレンも、ラーティールもデルシクスもハッブも。みんなあなたの支援に頼ってた」
もちろんわたしもね、と付け足すアニエスも、当時を懐かしむような目をしている。
「俺だけじゃないさ。みんなが互いのことを理解してた。期待した場所に期待した人がいて、必要な行動が必要な時に行われるチームだった」
だからこそ成し遂げられた偉業と、叶わなかった願いがあった。
「良いチームだったよな」
なんとなく気分が盛り上がってしまい、アニエスの頭を撫でようとしたところで、その手はぱしんと払い除けられる。
「でもねリュート、思い出に耽っているところ悪いけれど、あなた自分で思ってるほどわたしのこと理解できていないからね」
じろりと睨みつけられて、やり場のなくなった左手で頭を掻いてみたりする。
相互理解というものは、思ったよりも難しいようだ。
「師匠!一昨日の課題、できました!」
「さすが、早いわね。どれどれ……うん、風魔法の発動と、強度調整に、加熱、冷却の魔法陣も問題なさそうね」
「師匠の設計が綺麗なので、作っていて楽しかったです!」
こんな調子で、研究所には異世界で初めてのエアコンが導入された。
他にも洗濯機やマッサージ器など、研究所員の生活にわかりやすく貢献する魔道具が開発され、所内での評価はうなぎ登りだ。
その反対に、冒険者としては苦労の日々が続いている。
「ねぇえええええええ!どうしていつもこうなるのぉおおおおおお!?」
今日も今日とて、マリーは元気にゾンビ数体と追いかけっこをしていた。
マジェナ周辺ではランクが高すぎるということで、今回は初級者向けのエリアに来てみたのだが、ここでもやはりヘイト管理に失敗している。
「アニエス、どう思う?」
「自信とやる気の空回りね。まずは立ち回りを覚えないと」
「だよなあ」
今回は、師匠たるアニエスにも同行してもらっている。師匠の前ならマリーも慎重になるかという期待があったのだが、結果はいつも通りだった。
追いかけるゾンビが5体を越え、そろそろマリーも疲れてきたかなというタイミングでセナが“石壁”を発現する。勢いづいたゾンビ達はまとめて壁に激突し、何体かがそのまま崩れ落ちる。
むしろ、ここ数日はセナの支援力の方が向上している気がするな。
「あとは、魔力量はあるのに制御ができていないから、打撃力に変換する際のロスが大きすぎるわ」
「そこは、これから修行を積んでいけば良いんだけどな」
「細工師として早くから認められてしまったことで、地道に訓練するという感覚が身についていない気がするわね」
なるほどな。
向こうでは、いつものようにセナが説教し、マリーもいつものように「もうちょっとだったんですけどー」などと言い訳とも反論ともつかないことを言っている。
立ち回りを覚えるにしても、その前に意識改革が必要になるのかな。
いつものように仲裁に入るシャイルを見ながら、俺はそんなことを考える。
「個人的には、もう少し気長に見守ってあげてほしいわね。まだ14歳なんだもの」
「判断能力としては、年相応ということか」
「わたしがマリーの代わりにパーティに入って、基本的な動きを見せましょうか?」
冒険者のパーティは信頼関係が非常に重要だ。前衛は振り返らずとも後衛の動きや立ち位置を把握できるようにならなければならないし、後衛は前衛に期待される立ち位置や支援を理解し、タイムリーに魔法を発動できなければならない。
この観点に立つと、根本的な所でマリーは二人との距離を空けてしまっているように感じる。
お手本通りの動きをすれば表面的な部分では息が合うにしても、イレギュラーな事態に直面すると動けなくなってしまうだろう。そして、冒険者にとってイレギュラーな事態とは日常茶飯事なのだ。
「もう少し試してダメだったら、頼むよ。その前にもう少しだけ試したいことがある」
「わかったわ。必要になったら言ってちょうだい」
この点、アニエスは俺の言葉の端から全体像を理解し、今でも先回りして助けてくれることが多い。ブランクはあったとはいえ、伊達に7年も一緒に死線を潜り抜けたわけではない。
ちょっとした感慨を持ってアニエスの横顔を見ていると、彼女も俺の視線に気づいたらしい。
「何?わたし変なこと言った?」
「いや、昔のことを思い出してさ」
「そういえばあなたは、最初から人の支援をするのが上手だったわね」
「空気読みは日本人の必須科目だからな」
他の職業として召喚されていたら、あんなに早くは馴染めなかっただろう。
「あれは空気を読むってレベルじゃなかったと思うわ。エリンもブレンも、ラーティールもデルシクスもハッブも。みんなあなたの支援に頼ってた」
もちろんわたしもね、と付け足すアニエスも、当時を懐かしむような目をしている。
「俺だけじゃないさ。みんなが互いのことを理解してた。期待した場所に期待した人がいて、必要な行動が必要な時に行われるチームだった」
だからこそ成し遂げられた偉業と、叶わなかった願いがあった。
「良いチームだったよな」
なんとなく気分が盛り上がってしまい、アニエスの頭を撫でようとしたところで、その手はぱしんと払い除けられる。
「でもねリュート、思い出に耽っているところ悪いけれど、あなた自分で思ってるほどわたしのこと理解できていないからね」
じろりと睨みつけられて、やり場のなくなった左手で頭を掻いてみたりする。
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