7 / 57
第1章 通信販売、始めました
第7話 営業もアイドルのお仕事です
しおりを挟む
翌日、商品紹介依頼を受けていた中から3社を選び、俺はシャイルとセナを伴って挨拶に出向いた。
営業活動では、紹介する商品の実物を見てこれから行う冒険でどのように紹介するかを話し合い、気持ちが盛り上がったところで広告料の交渉をする。更に、どれくらいの在庫を確保できるか、売り切れた場合の補充にどれだけの時間がかかるかといった確認も行う。相手の反応次第では、欠品時の逸失利益やお客様の反応なんかも解説したりする。
シャイル・セナの知名度が上がってきたことで、営業先での相手の反応はおおむね良好……なのだが、逆に二人に会いたいがために商品紹介を依頼してくる社長さんもいないわけではない。二人が紹介する以上、商品の品質と供給体制を確保するのは俺の仕事だ。
午前中に探索用鞄のデザイン会社、昼食後はガラス瓶工房と会談を終え、3社目となる太陽神教会のドアをノックしたのは夕方よりも少し手前くらいの時間だった。
「まさか、教会からお仕事の依頼を貰えるなんてね」
周辺の建物の中でも一際巨大な教会の待合室。シャイルは柄にもなく委縮した様子で呟いた。
こちらの世界では、何柱かのメジャーな神様が信仰を集めている。太陽神の教会はかつて最大の信徒を集めていたが、現在は商業神などに押され気味だ。今いる建物も、元の作りは華美で立派なものだったと思われるが、壁の一部には染みなども見えることから、運営に苦慮している様が伺える。
「対象商品がちょうど良さそうなんだよ。対アンデッド用の不可視ポーションの開発に、ついに成功したとか」
俺の知る限り、この世界には完全な不可視の魔法は存在しない。人族や動物を相手とする認識阻害の魔法は俺も使えるのだが、アンデッドは視覚に頼らず生物を知覚しているため、この魔法は通用しないのだ。
「え、それが本当なら世界が変わるじゃないでシカ?アンデッド系ダンジョンの攻略、バカみたいに楽になっちゃうんじゃないでシカ?」
「どこまでできるかは、まだわからないけどな。まあその辺りも確認しよう。実際にサンプルを貰って実験したい」
アンデッドから“見えなく”なるということは、音は聞こえるのか。一方的に攻撃し続けたりできるのか。持続時間や解除条件はどんなものなのか。
そんなことを考えていると、待合室のドアがノックされた。温和な表情の老ドワーフと、従者と思しき若手のノームが入室してくる。共に男性で、身に着けているローブの意匠から格の違いが見て取れる。
「初めまして。太陽神様にお仕えしております、フルーゴと申します。本教会では司祭の役割をいただいております」
「わ、わたくしはトボコグと申します。じょ、助祭をやらせていただいています」
典型的な上司と部下といったところかな。
さて、俺の仕事を始めよう。
◇◇◇
教会との会談は順調だった。フルーゴ司祭は技術革新に肯定的で、俺たちがやっているネット配信業にも好意的な立場を示してくれた。太陽神教は最古の宗教ということで保守的なんじゃないかとう先入観があったのだが、それは良い意味で裏切られたと言える。
もっとも、深読みするならば、それだけ教会の経営が厳しいという予想もできる。なりふりは構いつつ――特に彼らは体裁を重んじる――一定以上の収入源を確保する必要性に駆られているのだろう。
また、終始おどおどしていたトボコグ氏だが、彼が今回の対アンデッドポーションの発明者らしい。その功績をもって助祭に昇進したとのことで、今回のビジネスでもキーパーソンとなる。彼とはもう1、2回会って関係を深めた方が良いかもしれない。
「次の撮影のメイン、これで決まりね」
教会からの帰り道、シャイルは上機嫌に歩いている。例のポーションをいたく気に入ったようだ。
「確かに良いモノだとは思うでシカ、動画のシナリオは考え直せないでシカ?ああいう役周りはシャイルの担当でシカ」
「あら、ファンに『あのシカ回復しかしてない』って言われるのが嫌だったんでしょう?いい機会じゃない?」
「いやでも、これは思ってたのとは違うシカ」
会談の中で、今回の商品紹介はセナがメインを張ることになった。本人には伝えていないが、現在コメント欄のキーワードランキングで“セナ虐”が急上昇中だったりするのだ。イキりとビビり間で反復横跳びする芸風は、実に配信映えする。
「シャイルの言う通りだ。今回はファンのみなさんにセナの頑張りを知ってもらう回にしよう」
「うう、セナの頑張りは、たった一人のプロデューサーに理解してもらえればそれで良いのでシカよ?」
わざとらしく瞳を震わせてこちらを見上げてくる。こういうところが芸人ポジを確立しているんだけど、本人は気付いているんだろうか。
「あっ、プロデューサーさん、あのお店の焼き串美味しそう」
「良いね、2本貰おうか」
「ちょっと待つシカ!いまセナが大事な話してたシカ!あと買うなら3本買えシカ!」
結局、アニエスと開発チームの分も山ほどお土産を買うことになった。ブレンは今日もどこかのお偉いさんと会食しているはずだ。王族兼領主兼社長は、夜も忙しい。あいつにはいつか地球産のプレミアムビールでも買っていってやろう。
営業活動では、紹介する商品の実物を見てこれから行う冒険でどのように紹介するかを話し合い、気持ちが盛り上がったところで広告料の交渉をする。更に、どれくらいの在庫を確保できるか、売り切れた場合の補充にどれだけの時間がかかるかといった確認も行う。相手の反応次第では、欠品時の逸失利益やお客様の反応なんかも解説したりする。
シャイル・セナの知名度が上がってきたことで、営業先での相手の反応はおおむね良好……なのだが、逆に二人に会いたいがために商品紹介を依頼してくる社長さんもいないわけではない。二人が紹介する以上、商品の品質と供給体制を確保するのは俺の仕事だ。
午前中に探索用鞄のデザイン会社、昼食後はガラス瓶工房と会談を終え、3社目となる太陽神教会のドアをノックしたのは夕方よりも少し手前くらいの時間だった。
「まさか、教会からお仕事の依頼を貰えるなんてね」
周辺の建物の中でも一際巨大な教会の待合室。シャイルは柄にもなく委縮した様子で呟いた。
こちらの世界では、何柱かのメジャーな神様が信仰を集めている。太陽神の教会はかつて最大の信徒を集めていたが、現在は商業神などに押され気味だ。今いる建物も、元の作りは華美で立派なものだったと思われるが、壁の一部には染みなども見えることから、運営に苦慮している様が伺える。
「対象商品がちょうど良さそうなんだよ。対アンデッド用の不可視ポーションの開発に、ついに成功したとか」
俺の知る限り、この世界には完全な不可視の魔法は存在しない。人族や動物を相手とする認識阻害の魔法は俺も使えるのだが、アンデッドは視覚に頼らず生物を知覚しているため、この魔法は通用しないのだ。
「え、それが本当なら世界が変わるじゃないでシカ?アンデッド系ダンジョンの攻略、バカみたいに楽になっちゃうんじゃないでシカ?」
「どこまでできるかは、まだわからないけどな。まあその辺りも確認しよう。実際にサンプルを貰って実験したい」
アンデッドから“見えなく”なるということは、音は聞こえるのか。一方的に攻撃し続けたりできるのか。持続時間や解除条件はどんなものなのか。
そんなことを考えていると、待合室のドアがノックされた。温和な表情の老ドワーフと、従者と思しき若手のノームが入室してくる。共に男性で、身に着けているローブの意匠から格の違いが見て取れる。
「初めまして。太陽神様にお仕えしております、フルーゴと申します。本教会では司祭の役割をいただいております」
「わ、わたくしはトボコグと申します。じょ、助祭をやらせていただいています」
典型的な上司と部下といったところかな。
さて、俺の仕事を始めよう。
◇◇◇
教会との会談は順調だった。フルーゴ司祭は技術革新に肯定的で、俺たちがやっているネット配信業にも好意的な立場を示してくれた。太陽神教は最古の宗教ということで保守的なんじゃないかとう先入観があったのだが、それは良い意味で裏切られたと言える。
もっとも、深読みするならば、それだけ教会の経営が厳しいという予想もできる。なりふりは構いつつ――特に彼らは体裁を重んじる――一定以上の収入源を確保する必要性に駆られているのだろう。
また、終始おどおどしていたトボコグ氏だが、彼が今回の対アンデッドポーションの発明者らしい。その功績をもって助祭に昇進したとのことで、今回のビジネスでもキーパーソンとなる。彼とはもう1、2回会って関係を深めた方が良いかもしれない。
「次の撮影のメイン、これで決まりね」
教会からの帰り道、シャイルは上機嫌に歩いている。例のポーションをいたく気に入ったようだ。
「確かに良いモノだとは思うでシカ、動画のシナリオは考え直せないでシカ?ああいう役周りはシャイルの担当でシカ」
「あら、ファンに『あのシカ回復しかしてない』って言われるのが嫌だったんでしょう?いい機会じゃない?」
「いやでも、これは思ってたのとは違うシカ」
会談の中で、今回の商品紹介はセナがメインを張ることになった。本人には伝えていないが、現在コメント欄のキーワードランキングで“セナ虐”が急上昇中だったりするのだ。イキりとビビり間で反復横跳びする芸風は、実に配信映えする。
「シャイルの言う通りだ。今回はファンのみなさんにセナの頑張りを知ってもらう回にしよう」
「うう、セナの頑張りは、たった一人のプロデューサーに理解してもらえればそれで良いのでシカよ?」
わざとらしく瞳を震わせてこちらを見上げてくる。こういうところが芸人ポジを確立しているんだけど、本人は気付いているんだろうか。
「あっ、プロデューサーさん、あのお店の焼き串美味しそう」
「良いね、2本貰おうか」
「ちょっと待つシカ!いまセナが大事な話してたシカ!あと買うなら3本買えシカ!」
結局、アニエスと開発チームの分も山ほどお土産を買うことになった。ブレンは今日もどこかのお偉いさんと会食しているはずだ。王族兼領主兼社長は、夜も忙しい。あいつにはいつか地球産のプレミアムビールでも買っていってやろう。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
超文明日本
点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。
そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。
異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
物欲センサー発動中?いや、これは当たりかも!
SHO
ファンタジー
地球の表層の裏側に存在するという地下世界《レト・ローラ》
ある日通学途中に起こった地震によって発生した地割れに通勤通学途中の人々が飲み込まれた。飲み込まれた人々はレト・ローラの世界に存在する遺跡へと転移させられてしまう。
状況を飲み込めないまま異形の怪物に襲われる主人公たち。
混乱と恐怖の中で高校生の杏子はクラスメイトのコンタと奇跡的に合流を果たした。
そして2人は宝箱がずらりと並んだ部屋へと迷い込む。その宝箱を開いた時、手にするの希望か絶望か、はたまた安全かトラブルの種か。
凸凹コンビが織りなす恋と魔法とチートアイテムが地底世界を揺るがす一大スペクタクルSFファンタジー!(?)
「俺(あたし)達の明日はどっちですか!?」
王道SFファンタジー突き進みます。テンプレ有り。主人公無双予定。ご都合主義?言わずもがな。
R15は一応保険。
小説家になろうでも公開中
*表紙イラストのコンタとパイナポは巴月のん様より頂きました!
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる