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第1章 通信販売、始めました

第6話 次の撮影は?

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『この動画の概要欄に、商品の購入ページリンクを貼っておくシカ!』

先日撮影した販促広告プロモーション動画を、俺たちは冒険者ギルドの大画面モニターで見ていた。
動画配信は、毎回冒険のダイジェストを1時間ほど放送し、その中で15分おきに短い販促コーナーを挟んでいる。
ここは、城塞都市スチールフロントの冒険者ギルド本部。第20回の記念配信を関係者で見ようと、シャイル・セナが無銭飲食うちあげを要求してきたのだ。まあよかろうということで、社長のブレンと技術顧問のアニエスを伴って、ギルド2階の特等席を確保した。
半個室のテラス席からは階下の酒場を見渡すことができ、その向こうの壁に設置されている特大のモニターも鑑賞可能だ。なおこのモニターは、俺たちの冒険配信に合わせて貸与・設置させたものだ。権力者バンザイ。

『今回の万能丸底鍋、気になるお値段は398ゴルド!398ゴルドと大変お買い得になっています!限定1000個にて売り切れ御免!』
『安いっ!これはもうパーティにひとつ買っておくシカ!?』

今の相場で、1ゴルドは概ね地球の100円くらいだ。その100分の1のカパという通貨単位もある。串焼きなら1本70カパ程度。ちょっと豪華な夕食をとると15ゴルドくらい支払うイメージ。

「うんうん、お客さんの反応は上々みたいね」

階下を見渡したシャイルは満足そうに麦酒のジョッキを仰いだ。手足が長くスタイルの良い彼女は、シンプルな半袖のシャツと七分丈のパンツを綺麗に着こなしている。
シャイルにつられて階下に目をやると、ぱっと見でもわかるくらいの冒険者が、実際に自分のカードから鍋の商品紹介ページにアクセスしていた。仲間内で買うかどうかの相談をしている様子も伺える。

「ねープロデューサー、次の冒険さつえいはどうするのでシカ?セナ的には、屋外探索もいいかなって」

ドルイドであるセナは、原野や森林で役に立つ技術や魔法を修めている。一方、今挑んでいるダンジョンは”堕落の逆塔ザ・フォールン”と呼ばれる落とし穴だらけの地下ダンジョンで、出てくる魔物もアンデッドばかりである。ここを踏破できれば中級冒険者の仲間入り、といったレベル感のダンジョンロケ地を選んだ結果ではあるが、セナとしてはもっと特技をアピールしたいのだろう。
撮影中はドルイドの正装をアレンジしたローブ姿であることが多いのだが、今日は水色のワンピースに白いサンダルというお嬢様スタイルだった。

「視聴者に『あのシカ回復しかしてない』とか言われるのが許せないシカ。ドルイドの沽券に関わるシカ」
「いやいやいやいや、せっかく第6層まで辿り着いたんだもの、最後まで行っちゃおうよ。確か、第7層の大聖堂が最深地なのよね?」
「シャイルは簡単に敵を倒しすぎでシカ!二人の成長物語という基本コンセプトを忘れすぎでシカ?」

セナの主張にも、一理はある。
実は、二人の実力は上級冒険者と言っていいレベルにある。デビューが決まって以来、俺やアニエスと一緒に特別訓練パワーレベリングをした成果もあり、”堕落の逆塔”程度のダンジョンならば簡単に踏破できてしまうだろう。

「そうだなあ、確かにシャイルはもっと苦戦してる感を出してほしいかな。初級冒険者から見ると『頑張れば手が届く』くらいでがちょうど良いし、中級以上の冒険者には気持ちよく上から目線のコメントを貰いたい」

冒険者は上に行けば行くほど数が減るが、その分金を稼ぐ。この都市だけでも1万人を優に超える初級びんぼう冒険者には二人を憧れの偶像アイドルとして盛り上げていただき、中上級かねもちには可愛いお嬢さんとして気前よく応援していただけるのが理想だ。「俺が教えてやろう」と勘違いしてもらえるような振る舞いを意識しようと、当初から二人とも話していた。おじさんという生き物は、上から目線で語るのが好きで好きでたまらないのだから。

「えー、私そういうあざといの苦手だよ?もっとこう、かっこいい所を見てほしいな」
「おめーはアイドルとしての自覚を持つシカ!セナなんてこの間ド格下のシャーマンおじさんに『セナちゃん攻撃魔法教えてあげようか』とか声かけられたシカ!その場で暴れなかったセナを褒めてほしいシカ!」

とはいえ、この振る舞いによって溜まるストレスも無視できなさそうだ。この辺りのケアは真面目に考えよう。
シャイルは模擬戦の相手をしてやればだいたいOKとして、セナは個人的に褒めたりご褒美をあげたりするのが良いだろうか……とか考えていると、アニエスが助け舟を出してくれた。
こちらは普段着ている白衣を脱いだだけの、黒い半袖シャツに地球産デニムパンツという飾り気のない出で立ちだ。

「まあまあ。セナはよくやっているわよ。今ちょっとセナに対するコメントを分析してたんだけど、男女比では男性98%だったわ」

各動画に対するコメントは匿名で投稿できるが、裏ではしっかり冒険者IDと紐付き、その向こうにある年齢性別等級などと紐付いている。このシステムを設計・構築したアニエスならば、データ取得から解析までお手の物だ。
ちなみに個人情報保護という概念は、まだこの世界に根付いていない。
とはいえ、後々問題になるのは間違いないため、情報のアクセス権管理と利用ガイドラインは最初期に細かく定めていた。今回のように、個人を特定せずにデータの塊として属性を分析するのは問題ない範囲だ。

「シャイルは半々といったところね。何度もコメントしてくれてる人は、だいたい若い女性かな」
「うーん、ありがたいこととはいえ、数字を聞くと改めて怖いでシカ」
「私はいい感じね。もっともっと可愛いファンに応援してもらいたいわ」
「改めて言うけど、個人的に外出したい時は必ず俺かアニエスに声かけてくれよ。最優先で護衛するからな」

顔出しで配信している以上、安全管理セキュリティは最上位事項として置いている。冒険者はモラル意識も様々だ。よからぬことを考える輩の存在は常に意識しなければならない。アニエスも気まぐれに手伝ってくれるが、基本的に護衛は俺の仕事としている。彼女はシステム屋としての本業に加え、配信業のための魔道具開発も行っているからだ。

「儂も手伝えれば良いんじゃが、すまんのう」
「ブレンは領主と社長を兼務しているからなあ」

もともと領主としてある程度の仕事を持っていたブレンは、現在通信販売企業の主として社長業もこなしている。任せられる仕事はどんどん部下に投げていると聞くが、急成長企業の社長がやらなければならない仕事はいくらでもある。

「あー、私ファンの子から聞きましたよ。領主様が有能な人材をどんどん持って行っちゃうから、商業ギルドが人手不足になってるって」
「頭の痛い所じゃが、背に腹は代えられん。人材は鉱山やまから掘り出せるものではないからのう」

ドワーフらしい言い回しでブレンは顔をしかめた。引き抜いてきた人材には、元の2割から5割増しくらいの給料を支払っているのだ。商業ギルドをはじめ、各ギルドや商会には人材育成を頑張っていただきたい。

「とりあえず、次回の冒険で第7層の聖堂まで行っちゃおうか。記念撮影をしてこのクールの締めとしよう。その次は屋外探索にするから、セナはもうちょっと頑張ってくれ」
「その前に、各工房への営業周りもしないとね。商品紹介依頼は結構来てるから、有力なものを選んでおくわ」
「ファン対応、スポンサーへの営業、冒険と広告の間に自らの鍛錬。すべてやらなきゃならないのがアイドルの辛いとこシカねえ」
「まーたそうやって調子に乗ると、セナがオチ担当の台本シナリオ書かれるわよ?」

眉を八の字にして、シャイルがツッコんだ。いろいろ言い合っているが、この二人は仲が良い。
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