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第1章 通信販売、始めました
第5話 やれるだけやってみよう
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ギルドカードを一通り見渡した俺は二人に確認を取る。
「つまり、こちらの世界にもインターネットに似たインフラは整備されていると」
「わたしたちは魔導ネットワークと呼んでいるわ。地球と一番違うのは、有線という概念がないことかしら。こちらの世界では、自然魔力を利用して情報のやり取りを行う仕組みよ」
「いや、マナ便利すぎだろ」
「地球側の方が不便すぎるのよ。わざわざ物理的に機材を接続しないと通信できない世界で、よくあれだけ発展できたわね」
そんなこと言われても困る。
必要は発明の母とも言うし、適度な制約が技術を向上させたとか、そんな話じゃなかろうか。
「あー、ともあれネットワーク環境については問題ない、と」
「そう考えてくれて構わないわ」
俺自身、インフラ方面は上辺だけの知識しかない。アニエスがそう言うなら信じよう。
「ネット通販を立ち上げるとして、そのトップページや各商品ページにはどうアクセスするんだ?」
「地球にいる間に、ネット通販についてある程度の概要は勉強したつもりじゃ。まず、商品購入ページはギルドカードの下半分に専用チャンネルを設ける。現行バージョンでも、プルダウンメニューからパーティーメンバー募集や行政案内のページにアクセスできるからの」
「なるほど、そのプルダウンに通販サイトのトップページへのリンクを追加するのか」
察するところ、各街の冒険者ギルドに中継基地が設置され、それをハブとして個人間を結ぶネットワークが構築されているらしい。
しかし、公式のギルドカードからリンクを貼れるのは強いな。
「品物の配達は、とりあえずこの街の郵便ギルドに話をつける。できれば早期にドワーフ王国全土までは配達範囲としてカバーしたいと考えておる」
「それも簡単な話じゃないと思うぞ。目処は立っているのか?」
「儂、この街で30年も領主をやっとるからの。大抵の無理は通せるぞ」
そりゃエグい。
俺の気持ちが顔に出ていたのだろう。ニヤリと笑いながらブレンは付け足した。
「と、いうのは半分冗談じゃ。最近の情報ネットワーク技術の発展で、こっちの世界でも郵便ギルドの仕事が減っておっての。配達員が余り気味じゃから、彼らにとっても良い話になるはずなんじゃよ。規模縮小に向かうくらいなら、新事業に飛びつくじゃろうて」
半分冗談ということは、半分本当か。郵便ギルドは半公務員的立場だったはずだから、その仕事に変化を与えるとなると権力のゴリ押しも必要になるに違いない。ブレンは悪いことをする奴じゃない、というかその真逆で不正を嫌う性格だったが、長期間政治家をやっているとなると、人には言えない闇の一つや二つも抱えていそうだ。
「支払いはどうするんだ?こっちの世界って、クレジットカード的なものは存在するのか?」
俺が質問すると、二人はきょとんとした目でこちらを見返した。
「何を言っとるんじゃ。それは昔からあったじゃろ」
「冒険者ギルドって、依頼達成に応じた報酬をギルドカードに直接支払っていたでしょ?あなたのカードにも残高残ってると思うけど」
言われて、俺はカードの内容を見返す。確かに、右上に20万ゴルドほどの残高と、その他に借金可能額なんて項目もあった。
「そうか、言われてみればギルドカードって本人証明と支払い管理を目的に作られた魔法だっけ」
「カード内のお金の流れは、昔から都市エルフ同盟の魔術ギルドが管理しているわ。今では与信管理なんかも手掛けていて、金融部門が大きくなりすぎちゃってるくらいね」
魔術ギルド内の金融部門とは、何とも感慨深い言葉だ。
「というわけで、じゃ。ネット通販ビジネスのうち、販売・決済・配達の各機能は何とかできそうなんじゃよ」
ブレンの言葉には熱が入る。
確かに、詳細検討は必要なれど、現時点で不可能と言い切る材料はない。だが。
「ここまではわかった。ただ、俺の意見を聞きたいだけならわざわざ攫ってくる必要はないよな」
「そうさな」
咳払い一つ。その後、その瞳に意思を込めてまっすぐに伝えてきた。
「ズバリじゃ。リュートよ、お主に全面協力してもらいたい。儂もそれなりに考えているが、実務に携わる者には到底敵わんじゃろう。専門家として、儂の事業を支えてくれんかの?」
……まあ、そういう話だよな。
俺自身、異世界に新しくネット通販ビジネスを立ち上げるという構想には魅力を感じている。まだ足りないことだらけだが、それらを考え、また自分自身の手で仕組みを作っていくのは楽しそうだ。
とはいえ――
「さすがに二つ返事では頷けないな。俺にも地球側の生活はあるし」
「報酬はしっかり出すぞ。おそらくそちらの世界で会社役員相当か、それ以上の報酬は支払えると思う」
「気持ちはありがたいが、俺は今も将来もそんなに金に困らないと思う」
なにせチート持ちだからな。罪悪感が先に立つので、目立ったり大金を稼ぐことには躊躇がある。
地球に戻って以来あれこれ悩んだが、結局“そこそこ慎ましやかに生きよう”ということで自分の心に整理をつけたのは、社会人になってからだった。
「それに報酬だけじゃなくて、俺にも向こうの仕事とか人間関係とか……」
「一応、あなたがこちらに来た直後くらいのタイミングで同じ部屋に次元扉を開くことは可能よ。跳んだ時間よりも前に戻ることはできないけれど、1秒後の世界には帰れるわ」
「それやると、地球では1日しか経過してないのに、俺だけ3年分老けましたみたいな状況が発生しないか?」
「そこはほれ、ノームの錬金術師に若返りの秘薬でも作らせるわい」
ファンタジー世界×国家権力って何でもアリか。しかし、そうなると今思いつかない問題が出てきたとしても、だいたい解決できてしまいそうだな。
漠然とした不安はあるが、まあ7年も生死を共にした仲間だ。また一緒に無茶をするのも悪くない。
「うーん、とりあえず事業を立ち上げるところまでは手伝うよ。せっかくまた会えたんだからな」
俺を名指しして必要としてくれているのならば、応えるのが男気というものだろう。
「つまり、こちらの世界にもインターネットに似たインフラは整備されていると」
「わたしたちは魔導ネットワークと呼んでいるわ。地球と一番違うのは、有線という概念がないことかしら。こちらの世界では、自然魔力を利用して情報のやり取りを行う仕組みよ」
「いや、マナ便利すぎだろ」
「地球側の方が不便すぎるのよ。わざわざ物理的に機材を接続しないと通信できない世界で、よくあれだけ発展できたわね」
そんなこと言われても困る。
必要は発明の母とも言うし、適度な制約が技術を向上させたとか、そんな話じゃなかろうか。
「あー、ともあれネットワーク環境については問題ない、と」
「そう考えてくれて構わないわ」
俺自身、インフラ方面は上辺だけの知識しかない。アニエスがそう言うなら信じよう。
「ネット通販を立ち上げるとして、そのトップページや各商品ページにはどうアクセスするんだ?」
「地球にいる間に、ネット通販についてある程度の概要は勉強したつもりじゃ。まず、商品購入ページはギルドカードの下半分に専用チャンネルを設ける。現行バージョンでも、プルダウンメニューからパーティーメンバー募集や行政案内のページにアクセスできるからの」
「なるほど、そのプルダウンに通販サイトのトップページへのリンクを追加するのか」
察するところ、各街の冒険者ギルドに中継基地が設置され、それをハブとして個人間を結ぶネットワークが構築されているらしい。
しかし、公式のギルドカードからリンクを貼れるのは強いな。
「品物の配達は、とりあえずこの街の郵便ギルドに話をつける。できれば早期にドワーフ王国全土までは配達範囲としてカバーしたいと考えておる」
「それも簡単な話じゃないと思うぞ。目処は立っているのか?」
「儂、この街で30年も領主をやっとるからの。大抵の無理は通せるぞ」
そりゃエグい。
俺の気持ちが顔に出ていたのだろう。ニヤリと笑いながらブレンは付け足した。
「と、いうのは半分冗談じゃ。最近の情報ネットワーク技術の発展で、こっちの世界でも郵便ギルドの仕事が減っておっての。配達員が余り気味じゃから、彼らにとっても良い話になるはずなんじゃよ。規模縮小に向かうくらいなら、新事業に飛びつくじゃろうて」
半分冗談ということは、半分本当か。郵便ギルドは半公務員的立場だったはずだから、その仕事に変化を与えるとなると権力のゴリ押しも必要になるに違いない。ブレンは悪いことをする奴じゃない、というかその真逆で不正を嫌う性格だったが、長期間政治家をやっているとなると、人には言えない闇の一つや二つも抱えていそうだ。
「支払いはどうするんだ?こっちの世界って、クレジットカード的なものは存在するのか?」
俺が質問すると、二人はきょとんとした目でこちらを見返した。
「何を言っとるんじゃ。それは昔からあったじゃろ」
「冒険者ギルドって、依頼達成に応じた報酬をギルドカードに直接支払っていたでしょ?あなたのカードにも残高残ってると思うけど」
言われて、俺はカードの内容を見返す。確かに、右上に20万ゴルドほどの残高と、その他に借金可能額なんて項目もあった。
「そうか、言われてみればギルドカードって本人証明と支払い管理を目的に作られた魔法だっけ」
「カード内のお金の流れは、昔から都市エルフ同盟の魔術ギルドが管理しているわ。今では与信管理なんかも手掛けていて、金融部門が大きくなりすぎちゃってるくらいね」
魔術ギルド内の金融部門とは、何とも感慨深い言葉だ。
「というわけで、じゃ。ネット通販ビジネスのうち、販売・決済・配達の各機能は何とかできそうなんじゃよ」
ブレンの言葉には熱が入る。
確かに、詳細検討は必要なれど、現時点で不可能と言い切る材料はない。だが。
「ここまではわかった。ただ、俺の意見を聞きたいだけならわざわざ攫ってくる必要はないよな」
「そうさな」
咳払い一つ。その後、その瞳に意思を込めてまっすぐに伝えてきた。
「ズバリじゃ。リュートよ、お主に全面協力してもらいたい。儂もそれなりに考えているが、実務に携わる者には到底敵わんじゃろう。専門家として、儂の事業を支えてくれんかの?」
……まあ、そういう話だよな。
俺自身、異世界に新しくネット通販ビジネスを立ち上げるという構想には魅力を感じている。まだ足りないことだらけだが、それらを考え、また自分自身の手で仕組みを作っていくのは楽しそうだ。
とはいえ――
「さすがに二つ返事では頷けないな。俺にも地球側の生活はあるし」
「報酬はしっかり出すぞ。おそらくそちらの世界で会社役員相当か、それ以上の報酬は支払えると思う」
「気持ちはありがたいが、俺は今も将来もそんなに金に困らないと思う」
なにせチート持ちだからな。罪悪感が先に立つので、目立ったり大金を稼ぐことには躊躇がある。
地球に戻って以来あれこれ悩んだが、結局“そこそこ慎ましやかに生きよう”ということで自分の心に整理をつけたのは、社会人になってからだった。
「それに報酬だけじゃなくて、俺にも向こうの仕事とか人間関係とか……」
「一応、あなたがこちらに来た直後くらいのタイミングで同じ部屋に次元扉を開くことは可能よ。跳んだ時間よりも前に戻ることはできないけれど、1秒後の世界には帰れるわ」
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漠然とした不安はあるが、まあ7年も生死を共にした仲間だ。また一緒に無茶をするのも悪くない。
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