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第1章 通信販売、始めました

第2話 1年前・再会(1)

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話は1年ほど前に遡る。

「お前さんの会社の通信販売、便利じゃよな。あれ儂の国でもできんかの」

ドワーフが言った。

「あ、それいい!わたしも自宅に引き篭ったまま買い物したい!」

エルフが乗っかった。

「いやいや、いくら何でもそりゃ無理だ。第一、そっちの世界はネット環境ないじゃん」

この時、俺は明らかに酔っていた。無条件に地球の科学技術を過信し、剣と魔法の世界の文明力を侮っていた。

「あら失礼ね。じゃあ、インターネットさえ構築つくれればネット通販の立ち上げに協力してくれる?」
「おお、するする。ネットにさえ繋がるなら、そちらの世界に移住したっていいよ」

調子に乗った発言というものは、時にイベントフラグとなる。


俺が“最初に”異世界へ召喚されたのは15歳の春。高校の入学式前日だった。
地球ではないその世界は、当初イメージしていたよりも科学技術が発達していたものの(なにせ鉱山では蒸気機関が稼働していた)やはり剣と魔法が主役の世界で、エルフやドワーフやエルフ、他にもノームや獣人鬼人などの人型種族が雑多に存在していた。
冒険という名のトラブル生活を必死に生き延びるうちに、結果として英雄と呼ばれる偉業を遂げ――最終的には自分を召喚した人物の死によって、強制的に地球へ送還されることとなったのは、その7年後。不思議なことに、戻ってきたのは召喚された当日の深夜だった。気が付いたら自室のベッドの上にいて、肉体的にも15歳のままだった。翌日から高校へ通うこととなった。

それからもいろいろあったが、26歳になった俺はインターネット通販の大手、アリゾナ・ドットコムで入社3年目の春を迎えていた。肉体的には26歳だが、精神的というか、人生経験としてはプラス7年分のアドバンテージがある。それに加えて異世界で得たスキルも若干残っていたりするので、異世界チートならぬ現実世界チートな人生を過ごしていた。
文字通り死ぬ思いもしたし、未だに癒えないトラウマも抱えてはいるが、今後の人生は高望みさえしなければ穏やかに過ごせるだろう。
アパートの窓から缶ビール片手に五分咲きの桜を眺めつつ、そんな甘えた妄想をしていた矢先。二度目の事件は起きた。

まず、目の前の空間に穴が開いた。
穴の向こうからは、銀髪碧眼の、絵に描いたようなエルフがこちらを覗いていた。
エルフは一瞬驚いた顔をした後に穴からこちらへ身を乗り出し、何か言おうとして――そのまま4メートル下の地面に激突した。俺の部屋は2階である。宙に空いた穴から身を乗り出せば、当然ながら重力に沿って落ちることになる。
悪いことに、閉じかけた穴からは慌てた様子のドワーフも飛び出してきた。そしてエルフと同じように落下した。
4メートル下からは、女性が出してはいけない声が聞こえてきた。

幸いにも、落ちた先は現在空き部屋となっている1階の庭だった。俺も玄関で靴に履き替え、未だに呻いている二人の元に駆け寄る。エルフはともかく、ドワーフには見覚えがあった。
俺を見た二人は何やら話しかけてくるが、言葉が通じない。ちょっと待てと両手で二人を制し、音声翻訳ボイス・トランスレーションの魔法をかけてやった。

「あいたたた……あー、これって翻訳系の魔法よね。わたしの言葉、理解できる?」
「おおお、ご無沙汰じゃったなリュートよ。さすがに大人の顔つきになったか?」
「ブレンはほとんど変わってないな。そちらの女性は……もしかしてアニエスか?」

ブレンもアニエスも、かつて旅を共にした仲間だ。頼れる聖騎士、不壊の盾ことブレンサリオン・バーベンベルクと、都市エルフ国家群においてただ一人”天才”と称された魔導士アニエス・ルルー。アニエスは当時15歳だった俺よりも更に若く幼かったが、目の前にいるのは20歳過ぎの、ちょうど新卒入社を控えた女子大生くらいに見える。

「お久しぶりねリュート。こんな形になっちゃったけど、もう一度会えて嬉しいわ」
花咲く笑顔とは、まさにこれを形容する言葉なのかと思った。
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