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9.真実

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「は? 」

 事の成り行きを全て話した上で、親友から返ってきた言葉は本当に短いものだった。

「は? って何よ、他に言うことあるでしょう」

 フローレアは珍しく焦っているようだった。
 
「いや、言葉がすぐに出てこなかった……。本気に決まっているだろう」

「そんなの分からないわ、マルセルも知っていたなら先に教えてよ」

 マルセルは今朝早くに、フローレアを訪ねてきたかと思うと、にやにやと含みのある笑顔でしきりにスペンスとのことを聞いてきた。胸のうちにしまっておくつもりだったのに、思わず白状してしまったのだ。

ーー冗談でも幸せだった、と。

 そして返された言葉がこうだ。"冗談な訳があるか"

「そんな夢みたいな話、ある訳ないと思ったのよ」

「だからって、"解釈違いだ"なんていう奴がいるか。一国の王子だぞ」

「それは、少なからずそうだもの。貴方とスペンスが世界一、永遠の最強コンビよ」

「……」

 呆れて物も言えなかった。

「ちょうど、表日記を書いていたの。だから余計にそっちの世界に浸っていたのよね。スペンス王子にあれが見つかった時は私……本気で死を覚悟したわ」

「まさか中を見せたり、見られたりなんてしていないだろうな?」

 マルセルの顔が途端に険しくなる。

「スペンスは紳士よ、他人の手帳を勝手に見たりしないわ」

 自分だって鬼のような剣幕で迫ったことを、フローレアはすっかり忘れてしまっていた。

「……あれを見られたら、俺だって死を覚悟する」

 フローレアは悩ましげに頭を抱えている。

 こんなに悩んでいる彼女を見たのは久しぶりだ。大抵の不安は、笑って吹き飛ばしてしまう。彼女の笑顔は周りの人も明るくさせる。そんな彼女をこんなに悩ませるのは、この先もやはり、スペンスしかいないのだろう。

 世話の焼ける親友たちの恋路を、最後まで応援しなくてはいけない。

「まあ、俺の方にも"さりげなく"伝えろ、と助言してしまった責任があるからな……」

 その通りよ、とフローレアは恨めしそうに顔を上げた。

「まさか、あんな天使様のような尊いお方が私に……なんて、天地がひっくり返っても思う訳ないでしょう」

「一緒にいて楽しいと言っていた。くだらない話も楽しそうに笑ってくれるって……それにフローレアは可愛い」

「マルセル……」

「だから自信を持て。スペンス王子はフローレアのことを本気で愛してる。幸せにしてくれる」

「そうね、幸せよ」

 スペンス王子はいつだって優しい。広い心で暖かく包んでくれる。一緒にいて楽しいのは、フローレアだって同じだ。

「それにフローレアならきっと、俺の大切な親友を幸せにしてくれると信じている」

 マルセルは、子犬でも撫でるような手荒さでフローレアの頭を撫でた。こんな時だからこそ、多少荒っぽい励まし方が嬉しかった。

「フローレアの気持ちが決まったら、スペンス王子と話してみて」 

 きっと、落ち込んでいるんだろうな。

 フローレアに笑顔が戻ったのを見て、マルセルは今頃うなだれているであろう親友を思った。


 
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