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3.未来のこと
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「ウェス、来週のパーティーのことだけど……もちろん、クロエは手伝いに来てくれるのよね?」
ウェスの両親、特に母は恋人のクロエのことを大変気に入っていた。屋敷の手伝いをテキパキとこなし、明るくて朗らかで気遣いが出来る。優れた容姿、そして何より控えめで楚々としているところ……。領民たちから、新たな伯爵夫人は派手で散財好きだと思われて信用を失うようなことがあってはならない。その点、クロエは領民からも好かれていた。いつ正式に嫁に来るのかと何度もせっつかれている。
まだ、日取りもはっきりしていないため、みんなには"友人"だと話しているが、詮索好きの領民たちはクロエがウェスの恋人であることに気付いていた。それを彼女にぶつけると、いつも困ったように笑って誤魔化すのだが、その口の堅さも彼女が好かれる所以だった。
「ああ、いつものことだから大丈夫だろう。会ったとき話しておくよ」
彼女の家から、ジェームズ家の所有するグローリーハウスまでは簡単に行けるような距離ではない。同じ町に住んでいるとはいえ、馬を使って半日掛かってしまう。その為、屋敷を手伝ってもらうときは前日に来てもらう必要があった。
「お願いね、彼女が来てくれたら安心だわ。そうだ、クロエに話しておいて。ドレスは薄い薔薇色にしてちょうだい。私のラッキーカラーなの」
母は最近知り合った占い師に随分と傾倒している。少し前まではざっくりとした運勢を聞いていただけなのに、とうとうとうドレスの色にまで口を出し始めたか、とウェスは内心呆れていた。
「……わかったよ」
クロエは恐らく嫌な顔せずに、母の言う通りにするだろう。だが、薄い薔薇色のドレスなんて持っていただろうか。ウェスは彼女の手持ちのドレスを思い浮かべて溜息を吐いた。いざとなれば、誰かに借りればいいか。
「何度も言うけれど、貴方とクロエの相性はバッチリだそうよ。それから、結婚するのは来年の春、だからね」
「はいはい」
来年の春、それがジェームズ家にとって最高に運の良い時期らしい。ちょうど弟も寄宿学校から戻って来るから、家族揃って結婚式に参加出来る、そう思い描いているようだった。
「その時はこれを渡すのよ」
母は小さな宝石箱を手に取ると、ウェスの前に静かに置いた。大きな宝石のついた指輪は、代々ジェームズ家に受け継がれているものらしい。少し前までは、家に代々伝わる指輪を渡すのが主流だが、近頃は自分たちで指輪を新しく作るのが流行りらしい。クロエとも話し合って時期が来たら職人に作ってもらうつもりだ。
「……ありがとう。でも指輪は、」
指輪は、自分たちで用意する。何度も言っているのだが、母は全く聞き耳を持たない。どうせ今回もそうだ。ウェスはそう思って口を閉じた。
「ああ、春が待ち遠しいわね」
ウェスにとっては、時期などあまり関係がなかった。この先もクロエと一緒にいることは変わらない。これは彼女の方も同じだろう。今更、この事実が揺らぐことはない。
それなら、その占い師や母の言う良い時期にする方がいい。既に結婚の約束はしているのだから、あとはとんとん拍子に進んでいくはず。
約束された未来がウェスにはある。
ーー結婚して爵位を継ぎ、屋敷を任されたら庭にはクロエの好きな花を沢山植えてやろう。今度のパーティーで話してみるか。
本当はエイダンたちのように今すぐ結婚してしまいたい。ウェスはそんなことを思っていた。
来年の春なんてあっという間だ、少しずつ始まる二人の生活を思ってウェスは緩む頬を手で隠した。
ウェスの両親、特に母は恋人のクロエのことを大変気に入っていた。屋敷の手伝いをテキパキとこなし、明るくて朗らかで気遣いが出来る。優れた容姿、そして何より控えめで楚々としているところ……。領民たちから、新たな伯爵夫人は派手で散財好きだと思われて信用を失うようなことがあってはならない。その点、クロエは領民からも好かれていた。いつ正式に嫁に来るのかと何度もせっつかれている。
まだ、日取りもはっきりしていないため、みんなには"友人"だと話しているが、詮索好きの領民たちはクロエがウェスの恋人であることに気付いていた。それを彼女にぶつけると、いつも困ったように笑って誤魔化すのだが、その口の堅さも彼女が好かれる所以だった。
「ああ、いつものことだから大丈夫だろう。会ったとき話しておくよ」
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「お願いね、彼女が来てくれたら安心だわ。そうだ、クロエに話しておいて。ドレスは薄い薔薇色にしてちょうだい。私のラッキーカラーなの」
母は最近知り合った占い師に随分と傾倒している。少し前まではざっくりとした運勢を聞いていただけなのに、とうとうとうドレスの色にまで口を出し始めたか、とウェスは内心呆れていた。
「……わかったよ」
クロエは恐らく嫌な顔せずに、母の言う通りにするだろう。だが、薄い薔薇色のドレスなんて持っていただろうか。ウェスは彼女の手持ちのドレスを思い浮かべて溜息を吐いた。いざとなれば、誰かに借りればいいか。
「何度も言うけれど、貴方とクロエの相性はバッチリだそうよ。それから、結婚するのは来年の春、だからね」
「はいはい」
来年の春、それがジェームズ家にとって最高に運の良い時期らしい。ちょうど弟も寄宿学校から戻って来るから、家族揃って結婚式に参加出来る、そう思い描いているようだった。
「その時はこれを渡すのよ」
母は小さな宝石箱を手に取ると、ウェスの前に静かに置いた。大きな宝石のついた指輪は、代々ジェームズ家に受け継がれているものらしい。少し前までは、家に代々伝わる指輪を渡すのが主流だが、近頃は自分たちで指輪を新しく作るのが流行りらしい。クロエとも話し合って時期が来たら職人に作ってもらうつもりだ。
「……ありがとう。でも指輪は、」
指輪は、自分たちで用意する。何度も言っているのだが、母は全く聞き耳を持たない。どうせ今回もそうだ。ウェスはそう思って口を閉じた。
「ああ、春が待ち遠しいわね」
ウェスにとっては、時期などあまり関係がなかった。この先もクロエと一緒にいることは変わらない。これは彼女の方も同じだろう。今更、この事実が揺らぐことはない。
それなら、その占い師や母の言う良い時期にする方がいい。既に結婚の約束はしているのだから、あとはとんとん拍子に進んでいくはず。
約束された未来がウェスにはある。
ーー結婚して爵位を継ぎ、屋敷を任されたら庭にはクロエの好きな花を沢山植えてやろう。今度のパーティーで話してみるか。
本当はエイダンたちのように今すぐ結婚してしまいたい。ウェスはそんなことを思っていた。
来年の春なんてあっという間だ、少しずつ始まる二人の生活を思ってウェスは緩む頬を手で隠した。
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