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3.相棒

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「ロイドと組むと本当に碌なことがないのよね……」

 あれは、スプリング家で働き出す少し前のことだ。
 ロイドにそそのかされて手伝った仕事は、幻の花を森の中で探すというもの。見つけるまで帰れないというので、適当な花を持ち帰ったのを覚えている。
 依頼主は大変満足していたけれど、私はいつバレるかヒヤヒヤしていた。

「まあ、そう言うなよ。これまでだって楽しかっただろう?」

「確かにね、楽しかったわ」

 思い出すと、確かに楽しい思い出ばかりではある。それに、お金が大好きなジゼルにとって、ロイドの持ってくる仕事の報酬はかなり魅力的だった。

「実はさ、ガーランド家絡みの仕事なんだ」

 ロイドは声を落として囁くように言った。

「ガーランド家って……あの王家のこと?」

「そうだ。次期国王の結婚相手の決め方、知ってるか?」

 あまり考えたことはなかった。ジゼルは少し考えてから答えた。

「いいえ……お見合いとか、そういうこと?」

「まあ、そういうこと。ガーランド家は毎回多くの候補の中から、四人の女性を選ぶんだ……そうしたら、しばらくの間、その四人が城で過ごす。日々様々な試練が与えられ、勝ち残った優秀なものが王妃となる」

「なんだか、恐ろしい世界ね」

 華やかな世界は憧れだが、王妃候補の女性が集められて、血が流れないはすがない。

「"毎回"ってことは、もう何回か花嫁選びしたことがあるの?」

「ああ、今年になって何回だったかな……。年に四回は確実にあるから」

「私たちの知らない所でそんなものが開催されているのね」

 まあ、私には無縁の世界の話だものね。久しぶりに食べる脂っこい肉を頬張りながら、私は一生懸命頷いた。美味しいのでガツガツ食べ進めていたが、あまり食べるのに夢中になっていると、今にロイドに怒られる。

「すでに四人の候補まで絞られていたんだが、一人欠員が出てしまったらしい……って、お前、食ってばっかりで俺の話聞いてる?」

 ほら、やっぱり怒られた。

 スプリング家で働いていたときは、彼女たちの食事に合わせなくてはいけなくて大変だった。毎食野菜中心で、あとは味のしないスープ。これは料理人のせいではなく、アシュレイ夫人のこだわり。野菜も嫌いではないけれど、アシュレイ夫人は自分のこだわりのソース以外を使うことを許してくれなかった。他所の家の使用人の子たちと話すと、『奥様がこだわっていらっしゃるものと同じものを食べられるなんて光栄なことです』なんて驚かれたこともあったけど、そういう問題じゃないのよね。

 あんなに野菜ばかり食べて、私はいつかうさぎにでもなってしまうと思ったわ。そういえば、あんなに野菜好きなのに、芽キャベツだけはお嫌いなのよね。料理に入っていると、途端に不機嫌になってしまう。

「私は今ね、とても人間らしい食事をしているのよ」

「そーかよ」

「欠員が出たのなら、繰り上げればいんじゃないの?」

「一度は審査に落ちた者を入れることはできない。優秀な者を求めてるんだからな。でも、再び募集をかけている余裕もない……ここで俺たちの出番」

 ロイドは何故か誇らしげだった。

「まさか……私にその候補になれっていうの?」

「ああ、そうだ。何も本気で王妃になってこいって言うんじゃない。候補として参加してもらうだけ、ついでにこちら側の目として審査員もしてほしいそうだ」

「……なるほど、スパイってことね」

「まあ、そうだ。それから、適当に引っ掻き回して参加者を焚き付けろってお達し」

 ロイドはポケットから、またもう一枚の紙を取り出した。

「俺は女の子を用意した分、ジゼルは参加することでこれだけ貰える……どうだ? お前の借金を返してもお釣りが来るだろう」

 ロイドがガーランド家から提示された金額は、まさに彼の言葉通りで十分過ぎるほどだった。

「適当に"悪役令嬢"でも演じて参加者を引っ掻き回せばいい。もし、王子の目に留まったりして王妃になれたら総資産は何倍にもなる……悪い話じゃないよな」

 どうせ、行くあてもないんだろう?

 ロイドの悪魔の囁きを、今は聞くしかない。

 ロイドはグラスを傾けて一気に飲み干した。そうだ、どうせ私に行くあてなんてない。

「その話、乗るわ」

 王妃になるのも悪くないかもね。

「そうこなくちゃ」

 久しぶりにロイドと熱い握手を交わすと、なんだかツキが回ってきたような気がする。
 ちゃちゃっと借金を返したら、少し贅沢をして美味しいものを食べよう。


「ああ、それからもう一つ。ジゼルの役割は、今回死んで退場になったアリシア・サマーの遠い親戚だ」

「……なんですって?」
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