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それぞれの夜
12.ジジ•ウォーカーの夜
しおりを挟む「エミリアさんと面識があったか、ですって?」
ジジは大きな目をさらに大きくさせて、困ったように笑った。
「ないわ。今日が初めてよ」
「彼女にどんな印象をお持ちでした?」
「どんなって……、綺麗な子だと思ったわ。気の強そうなタイプね。クロエとはあんまり仲が良くないみたい。私だってもう少し話してみたかったけれど、彼女体調が悪いみたいですぐに部屋で休んでいたわね」
ジジは酷く落ち着いていた。人が一人亡くなっているというのに、彼女は至って冷静だ。出会ったばかりでよく知らない人物だから、と言われてしまえばそれまでなのかもしれないが、恋人の友人が亡くなっているのだ。普通はもう少し動揺するものだろう。
「エミリアさんとフレデリックさんが以前にお付き合いしていたのはご存知でしたか?」
「さあ、知らないわ。お互いに昔の恋については話をしない主義なのよ。レックス刑事は過去の恋人のことを気にするタイプかしら?」
フレデリックといい、ジジもよく話す女性だった。
「エミリアさんが妊娠していたという話を聞いたことは?」
「ないわよ」
ジジはキッパリと言い切った。
「……それでは、何か気になることはありましたか?」
「私、このパーティーに参加したの初めてだもの。気になることと言われてもねぇ……ないわ。主催者のクロエ•フェリシアって子だって今日はじめて会ったのよ。可愛いくて、とってもいい子よね」
「フレデリックさんとは病院でお知り合いになったのですか?」
「ええ、私の勤めている病院と彼の銀行は昔から取引があるの。……彼、私の夢を応援してくれると言ったわ。いつか自分の病院を立てたいのよ」
ジジは目を閉じて、うっとりとした表情を浮かべている。フレデリックとはじめて会った日のことでも思い出しているのだろうか。無駄な話が長くなるのは避けたい。ジジが話し出す前に、レックス刑事は話を続けた。
「素敵な夢だ。病院で働いている、と言うことは薬の管理もされている?」
「ええ、まあね」
それがどうしたのか、と言わんばかりに眉を顰めた。
「それでは、くすねた毒でエミリアさんを殺すことも出来るわけだ」
ジジは驚いたように目を見開いている。
「エミリアさんは階段から落ちて亡くなったんでしょう? 林檎酒もかなり飲んでいたし、足元がおぼつかなくなっていたんだわ」
「……いいえ、本当の死因は毒によるものです」
「でも、私ではないわ。……でも、レックス刑事は私のことを疑ってるのね」
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