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それぞれの夜

10.フレデリック•マーティンの夜

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「ああ、エミリアの部屋に行ったよ」

 フレデリックはあっさりと認めた。

「そう、付き合っていた。半年も持たないくらいだけどね」

 それって、付き合ってるって言うのかな。どう思う? フレデリックはよく話す男だった。一を聞いたら十も二十も返してくる。
 
「別れを告げたのはエミリアさんから?」

「ああ、そうだよ。でも最初に誘ったのもエミリアの方からだ。僕がクロエのことを好きだと言うことを知っていたたからね」

「クロエさんを?」

「ああ、子どもの頃の話だけどね。彼女はクロエのものを何でも奪いたいんだよ。だからダンと寝たと聞いても驚かなかった」

 本当だよ、とフレデリックは念を押すように言った。

「子どもの話を聞いたのは、エミリアと別れたずっと後さ。まずはダンから聞いた。真っ青な表情でさ、このまま死んでしまうかと思った。彼女ってば何も考えずにダンに話たんだろうな」

 フレデリックはふっと笑った。

「よくよく聞いてみると、僕が父親だって言う可能性もある。まあ、ダンには黙ってはいたよ。どうして……?明るい家族計画に水を差したくない。それ以外に理由なんてない。ダンはクロエと別れる決心をしていたんだから」

 おそらく、フレデリックはダンと別れて傷心のクロエに言い寄るつもりだったのだ。
 強かな男だと、レックス刑事は呆れたようにため息をついた。

「まあ、エミリアのことだから。全部嘘だと今更言われても驚かないよ。あんまり悪く言いたくないけどね」

「貴方はお腹の子の父親について、エミリアを問い詰めたのではありませんか?」

「そんなことしない。お前の杜撰な家族計画だと、俺の子かもしれないだろうって言っただけさ。それを話しに部屋に行ったようなもんだ」

「それだけ?」

「……ダンが部屋に入っていくのを見た。エミリアに忠告しに行ったのさ。どんなことを企んでてもいいけど、これ以上クロエを傷つけないでほしい、と」

 結局エミリアは彼女を傷付けた。階段の上から死んでいく彼女を見ていたクロエは可哀想なほど震えてた。一生消えない心の傷になってしまった。

「自分が父親になる可能性がないと知って、本当は逆上したのでは? 」

「……まさか。エミリアの狙いはダン一択なのはわかりきってる。僕には関係ないさ。これが付き合っている最中だとかいうなら話は別だけどねぇ」

 フレデリックは左手に輝く指輪をレックスに見せびらかすように差し出した。

「今の僕にはジジがいる」

「彼女とはどこでお知り合いに?」

「彼女とは病院で知り合ったんだ。仕事で取引のある病院でね、そこで看護婦として働いていた。実家は有名な資産家だが、彼女は弱っている人間を放っておけないと言って今も学んでいるそうだ。ゆくゆくは病院を建てたいと言っているよ」

「ジジさんはエミリアさんのことをご存知なのですか?」

「いや、話してない。今日のパーティーも仕事に繋がるかもしれないから参加したんだ。ジジを連れてくるつもりもなかったのに、どうしても僕の友人に会いたいと……」

 フレデリックは諦めたような顔で笑った。ジジがパーティーに参加するまでに一悶着あったのだろう。

「断れないよ。断ったら何かあると認めたようなものだ。女はそういうカンが鋭い」


 

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