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番外編

ブレイデンの憂鬱

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ーーネイトさんが二週間もいない。

 それは仕方ないことなのだが、ブレイデンにはひとつ憂鬱なことがあった。

 やっぱりいる。

 ブレイデンが喫煙所に行くと、必ずに遭遇してしまうのだ。

「やあ、ブレイデン」

 やけに馴れ馴れしいこの男はバリー・フェルナンデス。最初は"ロイ"なんて小洒落た名前を名乗っていたが、偽名だったらしい。おまけにアルベルト王子の従兄弟ときた。
何から何まで気に入らない。

 チャーリーからは揉め事を起こさないように、と固く釘を刺されている。ブレイデンは口角をきゅっと上げて、小さく頭を下げた。これで面倒ごとの六割は減らせるとマイルズから教わった。

「ここ、城の中煙草禁止だからな。冬は寒い」

 このヘラッとした雰囲気のせいかもしれない。いや、一番の原因は、ネイトの元恋人だということだ。

 ネイトさんはこんな男のどこが良かったのだろう。顔以外で良い所は見つからない。

 あの夜とは違って随分と雰囲気が柔らかい。どちらが彼の本性なのか。多分両方だろう。

「そうだ、ネイトに結局気持ちは伝えられたの?」

 こんな男に話す義理はあるのか、とも思ったがブレイデンは素直に答えた。

「……本気にしてもらえませんでした」

「あぁ……」

 同情めいた視線を向けられ、ネイトは慌てて付け加えた。

「自分が不甲斐ない所為です。これで良かったんだ」

「意外だな、君は近衛兵になんか入ってるくらいだから実は結構いい所の息子だろう」

 ブレイデンは、あまりウォーレス家の名を借りるようなことはしたくなかった。曖昧に笑うと、バリーは妙に感心し始めた。

「……なんか、いい意味でさっぱりしてるんだな」

 だからネイトとも上手くやってたんだな、と一人で納得している。

「貴方は、アルベルト王子の従兄弟だったそうですね」

「ああ、とうとうバレてしまったけど。いや、自分からバラしたのか」

 カラッと笑って見せるその顔には、もう未練はないように思えた。

「……俺にとっては、"ロイ"の方がきっと本当だったんだ」

 僅かに曇った表情で寂しげに放った一言が、彼の最後まで隠してきた本音だろう。ブレイデンには彼の気持ちが痛いほど理解できる。
 彼が"ロイ"と名乗ることはきっともうないだろう。本物の彼はこれから取り戻さないといけない。
 これはブレイデンにも思い当たることがあるのだ。ネイトの前では、本当の自分でいられるような気がしていた。
ウォーレス家の次男ではなく、一人の"ブレイデン"として。

「……分かる気がします」

「だろう、やっぱり。今晩は二人で飲みに行こう」

「いい店知ってます」

 二人は今度こそ、親愛を込めてがっしりと握手を交わした。

 

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