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11.贈り物

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 シャーロットは深く溜息を吐いて、広すぎるベッドに突っ伏した。

 道理でイザベラ夫人が優しい訳だ。自分の本当の子どもで、継承順位一位のアーチー王子の花嫁候補ではないのだから。適当にあしらっても、無害だと思われているのだろうか。彼女の真意もよく分からない。


 今夜の晩餐会では、シャーロットはまだルーク王子の「友人」という立場になっていた。然るべき時機に発表したいからだ、とイザベラ夫人は申し訳なさそうに相談された。
 王女の機嫌を損ねるのも恐ろしい。それに、万が一折り合いが悪くなってしまったら今後の作戦に差し支えてしまう。シャーロットは構いません、と慎まやかな返事を心掛けた。

 扉を叩く音がして、シャーロットは慌てて顔を上げた。慌てて乱れた髪を整えて、扉を開けると、大きな箱を抱えたルーク王子が立っていた。

「入ってもいいかな、君に贈り物をしたくて」

 昨日のことは何もなかったように、相変わらず優しい笑顔で紳士的だった。

「もういないかと思って焦ったよ」

 前言撤回だ。嫌味を言うくらいなら、何故贈り物なんて用意したのだろう。

「……貴方が出て行くように、と言うのならすぐにでも出て行きますわ」

「そんなこと言ってないだろう……!」

 ルーク王子が珍しく声を荒げて否定する。まるで必死になっているようで、これでは勘違いしてしまいそうだ。彼の思惑がどうであれ、これは恐らく良い傾向である。
 私に夢中になって、結婚してほしいと本気で懇願させる。そこで婚約破棄を突きつける。
 イザベラ王女の然るべき、というのは恐らく早くても一年後……それまでに夢中にさせてやる。

「それなら、そのときまで私は貴方を"愛して"います」

「……君も本当に、負けず嫌いなんだな」

 昨夜と全く同じ台詞だと言うのに、ルーク王子は耳まで赤く染めていた。

 最初の印象通り、本当は純粋で初心なのかしら。いえ、それならあんな暗がりに、女性サバンナを連れ込んだりしないわね。

「そんなことより、ほら開けてくれ」

 ベッドの上に乱雑に広げられた箱の中身は、ドレスや小物がいくつか入っていた。
 鼠色に近い水色のドレスはレースがふんだんにあしらわれていて、ベルベッドのリボン、足首が細いリボンになっている黒のヒール、大粒の真珠のネックレスと、それに合わせた真珠とダイヤのイヤリング、どれもうっとりするようなものばかりだった。

「まあ……素敵ね」

 シャーロットは頬に手を当てて、うっとりと感嘆の声を挙げた。どれもシャーロットの胸を躍らせるようなものばかりだ。

「シャーロットが好きそうなものを選んだつもりだけど、どうかな? 気に入ってくれたら嬉しいんだけど。良かったら、今夜の晩餐会で着てみてくれ。それじゃあ……」

「嬉しいわ……ありがとうございます」

 早口で去ろうとするルーク王子の腕を掴んで、シャーロットは思わず強く引き止めてしまった。
 ルーク王子は一瞬驚いたような顔をして、シャーロットの手をとり、その手の甲に優しく唇を落とした。

「夜にまた迎えに来る」
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