11 / 28
11.贈り物
しおりを挟む
シャーロットは深く溜息を吐いて、広すぎるベッドに突っ伏した。
道理でイザベラ夫人が優しい訳だ。自分の本当の子どもで、継承順位一位のアーチー王子の花嫁候補ではないのだから。適当にあしらっても、無害だと思われているのだろうか。彼女の真意もよく分からない。
今夜の晩餐会では、シャーロットはまだルーク王子の「友人」という立場になっていた。然るべき時機に発表したいからだ、とイザベラ夫人は申し訳なさそうに相談された。
王女の機嫌を損ねるのも恐ろしい。それに、万が一折り合いが悪くなってしまったら今後の作戦に差し支えてしまう。シャーロットは構いません、と慎まやかな返事を心掛けた。
扉を叩く音がして、シャーロットは慌てて顔を上げた。慌てて乱れた髪を整えて、扉を開けると、大きな箱を抱えたルーク王子が立っていた。
「入ってもいいかな、君に贈り物をしたくて」
昨日のことは何もなかったように、相変わらず優しい笑顔で紳士的だった。
「もういないかと思って焦ったよ」
前言撤回だ。嫌味を言うくらいなら、何故贈り物なんて用意したのだろう。
「……貴方が出て行くように、と言うのならすぐにでも出て行きますわ」
「そんなこと言ってないだろう……!」
ルーク王子が珍しく声を荒げて否定する。まるで必死になっているようで、これでは勘違いしてしまいそうだ。彼の思惑がどうであれ、これは恐らく良い傾向である。
私に夢中になって、結婚してほしいと本気で懇願させる。そこで婚約破棄を突きつける。
イザベラ王女の然るべき、というのは恐らく早くても一年後……それまでに夢中にさせてやる。
「それなら、そのときまで私は貴方を"愛して"います」
「……君も本当に、負けず嫌いなんだな」
昨夜と全く同じ台詞だと言うのに、ルーク王子は耳まで赤く染めていた。
最初の印象通り、本当は純粋で初心なのかしら。いえ、それならあんな暗がりに、女性を連れ込んだりしないわね。
「そんなことより、ほら開けてくれ」
ベッドの上に乱雑に広げられた箱の中身は、ドレスや小物がいくつか入っていた。
鼠色に近い水色のドレスはレースがふんだんにあしらわれていて、ベルベッドのリボン、足首が細いリボンになっている黒のヒール、大粒の真珠のネックレスと、それに合わせた真珠とダイヤのイヤリング、どれもうっとりするようなものばかりだった。
「まあ……素敵ね」
シャーロットは頬に手を当てて、うっとりと感嘆の声を挙げた。どれもシャーロットの胸を躍らせるようなものばかりだ。
「シャーロットが好きそうなものを選んだつもりだけど、どうかな? 気に入ってくれたら嬉しいんだけど。良かったら、今夜の晩餐会で着てみてくれ。それじゃあ……」
「嬉しいわ……ありがとうございます」
早口で去ろうとするルーク王子の腕を掴んで、シャーロットは思わず強く引き止めてしまった。
ルーク王子は一瞬驚いたような顔をして、シャーロットの手をとり、その手の甲に優しく唇を落とした。
「夜にまた迎えに来る」
道理でイザベラ夫人が優しい訳だ。自分の本当の子どもで、継承順位一位のアーチー王子の花嫁候補ではないのだから。適当にあしらっても、無害だと思われているのだろうか。彼女の真意もよく分からない。
今夜の晩餐会では、シャーロットはまだルーク王子の「友人」という立場になっていた。然るべき時機に発表したいからだ、とイザベラ夫人は申し訳なさそうに相談された。
王女の機嫌を損ねるのも恐ろしい。それに、万が一折り合いが悪くなってしまったら今後の作戦に差し支えてしまう。シャーロットは構いません、と慎まやかな返事を心掛けた。
扉を叩く音がして、シャーロットは慌てて顔を上げた。慌てて乱れた髪を整えて、扉を開けると、大きな箱を抱えたルーク王子が立っていた。
「入ってもいいかな、君に贈り物をしたくて」
昨日のことは何もなかったように、相変わらず優しい笑顔で紳士的だった。
「もういないかと思って焦ったよ」
前言撤回だ。嫌味を言うくらいなら、何故贈り物なんて用意したのだろう。
「……貴方が出て行くように、と言うのならすぐにでも出て行きますわ」
「そんなこと言ってないだろう……!」
ルーク王子が珍しく声を荒げて否定する。まるで必死になっているようで、これでは勘違いしてしまいそうだ。彼の思惑がどうであれ、これは恐らく良い傾向である。
私に夢中になって、結婚してほしいと本気で懇願させる。そこで婚約破棄を突きつける。
イザベラ王女の然るべき、というのは恐らく早くても一年後……それまでに夢中にさせてやる。
「それなら、そのときまで私は貴方を"愛して"います」
「……君も本当に、負けず嫌いなんだな」
昨夜と全く同じ台詞だと言うのに、ルーク王子は耳まで赤く染めていた。
最初の印象通り、本当は純粋で初心なのかしら。いえ、それならあんな暗がりに、女性を連れ込んだりしないわね。
「そんなことより、ほら開けてくれ」
ベッドの上に乱雑に広げられた箱の中身は、ドレスや小物がいくつか入っていた。
鼠色に近い水色のドレスはレースがふんだんにあしらわれていて、ベルベッドのリボン、足首が細いリボンになっている黒のヒール、大粒の真珠のネックレスと、それに合わせた真珠とダイヤのイヤリング、どれもうっとりするようなものばかりだった。
「まあ……素敵ね」
シャーロットは頬に手を当てて、うっとりと感嘆の声を挙げた。どれもシャーロットの胸を躍らせるようなものばかりだ。
「シャーロットが好きそうなものを選んだつもりだけど、どうかな? 気に入ってくれたら嬉しいんだけど。良かったら、今夜の晩餐会で着てみてくれ。それじゃあ……」
「嬉しいわ……ありがとうございます」
早口で去ろうとするルーク王子の腕を掴んで、シャーロットは思わず強く引き止めてしまった。
ルーク王子は一瞬驚いたような顔をして、シャーロットの手をとり、その手の甲に優しく唇を落とした。
「夜にまた迎えに来る」
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
会うたびに、貴方が嫌いになる
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。
アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
愚か者の話をしよう
鈴宮(すずみや)
恋愛
シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。
そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。
けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
もう一度だけ。
しらす
恋愛
私の一番の願いは、貴方の幸せ。
最期に、うまく笑えたかな。
**タグご注意下さい。
***ギャグが上手く書けなくてシリアスを書きたくなったので書きました。
****ありきたりなお話です。
*****小説家になろう様にても掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる