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2.夢のまま

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ーーグラオ王国の第二王子が花嫁探しに来ているそうよ、お忍びで。

 そんな噂を聞きつけたのはローザの方だった。上手くすればお近づきになるかもしれないわ、と二人で夢のようなことを考えていた。実際のところ、噂が本当だとしても親密な関係になれるなんて到底思えない。それでも、代わり映えしない毎日に刺激をもたらしてくれるなら、十分だった。

"貴方は名の知れた令嬢なんだから、王子の目に留まることもあるかもしれない"

 女同士は、大抵細やかな境界線が張り巡らされている。それは複雑に絡み合っていて、一歩超えてしまえば簡単に戦争になる。そこに話し合いの余地なんてない。
 でもローザは違う。自分に誇りは持っているが、下らない自尊心などは持ち合わせていない。人は人、自分は自分。そしてもしも、友人に好機があるのなら、構わず優先しろと快く送り出してくれるような人だ。口は悪いけれど、情に厚い。

 あとでアイスクリームでも持っていこう。

 今日のために用意されたドレスは、自分でも驚くほど美しく、よく似合っていると思う。大きな窓に映る自分はいつもと別人のように見えた。侍女のスザンナが張り切っていただけある。

 月夜の空と同じ色のドレスは、彼女の白い肌を一層引き立てている。シルバーのパンプスは、少しヒールが高くなているので自然と背筋が伸びる。綺麗に編まれて頭の上で纏められた金色の豊かな髪は艶々と健康的だ。ぽってりとした桜色の唇と、あどけなさの残る横顔、母譲りの青い目はハッとするほど美しい。

 この会場にいる誰もが、彼女の美しさに魅了されていた。ある者は二度、三度と振り返り、ある者は彼女に見惚れて前を歩く令嬢のドレスを踏んでしまったり、ある者は手元まで疎かになって飲み物を零してしまったり。

 彼女は健康的な自信に満ちていた。大きく開かれた窓から、山が見える。セレーノ王国はこの向こう側にあるのだ。幼い頃は、この山がとてつもなく大きなものに思えた。

 確か、名前があったはずだ。なんていう名前だったかしら……あれは誰に教えてもらったの?


「私と踊って頂けませんか? レディ」

 穏やかで暖かな声に振り返ると、すらりと背の高い青年が立っていた。目が合うと、彼は優しそうな深い緑色の瞳を細めて微笑み、恭しく頭を下げて見せた。柔らかそうな金色の髪が揺れる。

 差し出された手を取ると、一瞬で引き寄せられてしまう。絡められた指先が熱い。

 これは夢かしら。音楽が遠くに聞こえる、世界が二人だけになってしまったような、そんな気持ちになる。

 
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