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1.はじまり

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「良い天気ね」

 友人のローザは嫌みったらしく、窓の外を流れ落ちていく大きな雨粒を指で追いかけながら呟いた。

 グラオ王国は毎日雨が降っている、その噂は本当らしい。この地に踏み入れた時から、雨は止むということを知らないようだ。大きな山を一つ越えただけで、こうも違うものかと感心する。

「いいじゃない、雨は好きよ」

 そういうと、ローザはため息をついた。

「私だって好きよ、でもこうも収穫が無いと文句の一つも言いたくなるわ。シャーロット、向こうの紳士が貴方を見てる」

 彼女の指差す方を見ると、体格の良い紳士がこちらを見て微笑み掛けた。

 ローザは顔立ちの整った男性にしか興味がない。地位や名誉、性格よりも顔。舞踏会には、目の保養に来ているのだという。そして彼女はいつも、『結婚は別よ』と強く注釈をつける。結婚するなら、財力の有無は非常に重要である。それはシャーロットも分かっている。

 ローザは黙っていれば、華やかで淑やかな令嬢に見える。淡いピンク色のドレスは、可憐な少女のようにも、色香あふれる大人の女性のようにも見えて、彼女にとてもよく似合っている。胸元にあしらわれた薔薇のレースがあしらわれている。しっかりと纏めたはずの髪は緩く後毛が出てしまっているが、その危うさも含めて美しい。
 ただ、シャーロットもローザも太陽の国セレーノ王国出身だ。国民性だろうか、セレーノ王国の女性はおおよそ、明るく活発、気性が荒く、負けず嫌い。二人も例外ではない。ただ、上品に座っているのなんて性に合わない。ローザは扇で口元を隠しながら、慎重に品定めを続けている。

「シャーロット、私のことはいいから楽しんできなさい。貴方はこんな隅で"壁の花"になっちゃだめよ。もっと光のあるところに行きなさい」

 ローザは人がたくさん集まる方を指差した。

「そうする、ローザも選り好みはいけないわよ」

 はいはい、と生返事をしてひらひらと手を振る。本当に分かっているのだろうか。彼女はさっと柄付きの眼鏡を取ると、遠くの方まで物色を始めている。さっきから何人かの男性に声を掛けられているが、足が痛いとか、疲れたからと言って体よく断っているのだ。彼女のさも申し訳ない、という演技に男性陣は簡単に騙されてしまう。

 また一人、彼女に挑戦する若者を横目に、シャーロットは光の溢れる方へ歩き出していた。
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