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第2章 『真白、凪くんちに進出する』編

第46話 女神はみんな美しい

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「真白ちゃんの大好きなホワイトシチューだよ~」
「お母さん、大好き♡」
「お母さんはいいよな……ご飯作っただけで真白に好きになってもらえるなんて」
「なーくんが嫉妬するような性別をしていないと思うよ? お母さんは」
「お母さんは自分で性別を選べる女神だったんだね!!」
「そんなにお母さんの美貌を褒めなくてもいいのよ?」
「女神は別にみんな美しいと決まったわけじゃないよ……お母さん……」

 お母さんに事前に真白の好物を聞かれたから、今夜の献立は真白の好きなホワイトシチューになっている。
 お母さんが真白のことをすごく大切に思っている(初対面なんだけどね)のはすごく嬉しいけど、お母さんに真白の好物を教えた俺も『大好き』って言われても良くないかな。

「なにを言ってんだ? 凪。お母さんは女神より美しいだろう?」
「お父さんのそれは贔屓目ひいきめだから」
「凪くん、私は綺麗?」
「うん、真白は女神より綺麗だよ?」
「凪……お父さんに何かいうことないか?」
「うん? 特にないよ」

 仕事終わりに帰宅してきたお父さんを加えて、俺らは四人で食卓を囲んでいた。
 お母さんと真白のファーストコンタクトも違和感だらけだが、お父さんと真白のそれももはや宇宙人に出会った地球人みたいだった。



「き、君が凪のか、彼女なのか……!?」

 走って帰ってきたのが分かるような汗ばみ具合。そのどもり方は緊張というより息切れによるものだろう。

「はい、、凪くんの彼女をやらせて頂いてる栗花落真白です」
「やらせはよくないぞ? 真白」
「そうね、私は本当は凪くんのお嫁さんですもの♡」

 先程みたいに、真白の俺の両親への呼び方は違和感、というよりくすぐったさしかなくて、ついついからかってみたら、思わぬ反撃を喰らってしまった。

「凪、結婚おめでとう!! こんなに綺麗で品性高くも謙虚そうな、一見真面目に見えておどけたところもある可愛らしい女の子がお前と結婚してくれたんだよ!!」
「……お父さんは食レポとかやったら絶対ウケると思うよ」

 興奮を抑えきれずに、勢い余った感じで真白を絶賛するお父さんの言葉に、真白は頬に手を添えて、少し赤らめている。
 これも普段俺が素直に真白を褒めなかったツケなのかなと、少し後悔にも似た敗北感を覚えてしまった。

「お父さん、悪いけど、明日役所で戸籍謄本取ってきて貰えない?」
「なんで?」
「それ見たら俺がまだ独身だってことが分かるから……」
「今すぐ婚姻届出しに行きましょう!! 凪くん!!」
「凪、今出さないと、真白さんが他の人に取られるぞ!!」
「二人とも、この時間帯は役所の受付が終わってるの分かってる!?」

 俺が楽々浦に感じてしまう疲労感は、もしかしてお父さんによるものなのかとついつい思ってしまった。



 まあ、そんな感じで、俺が疲れるばかりのお父さんと真白の邂逅かいこうであった……。
 
「みんなで一緒にご飯を食べてると……やはり美味しいですね……」
「あら、真白ちゃん、毎日食べに来てもいいのよ?」
「そうだ。夫婦なのに別居は良くないし、真白さんは遠慮しなくてもいいんだよ」
「その夫婦ってお父さんとお母さんのことだよな!?」
「お母さん……お父さん……ありがとうございます……」

 透明人間になったかのように、俺の言葉は実にこの三人の耳に届かなかったどころか―――

「凪くん、これからは凪くんの部屋で添い寝しましょうね?」
「真白ちゃんならずっとうちに住んでもいいのよ」
「お父さんも真白さんなら大歓迎だよ」
「ありがとうございます……これからはずっと一緒だね、凪くん♡」

 と、添い寝の拠点がしれっと変更となった。
 真白の言葉からは少し恐怖めいたものを感じたが、その感情から目をそらすことにした。

 まあ、俺の部屋に渚紗の花を飾ってることを真白に知られた今なら、もう反対する理由はない。
 むしろ、真白にを味わって欲しい。

 俺はそれを持っていて、最愛の一人を失ったが、多分真白はそれ自体すら持っていなかったのだろう。
 それは真白から聞いたことではない。彼女の過去に土足で踏み込みたくないから、敢えて触れないようにしていた。

 真白と添い寝してしばらくした時に思ったことでもあるけど、やはり俺は彼女から何かを聞き出して王子様のように颯爽さっそうと真白の苦しみを取り払うよりも、こうやって彼女のそばにいて、彼女の発した一言一句を心で感じて、彼女をゆっくり理解して、時に真白の心を救えたらと、そうすることにした。

 ―― だから、俺に栗花落の現実がハッピーエンドになる手伝いをさせてくれないかな……。

 いつぞや俺が真白に言った言葉だが、真白の現実はハッピーエンドになれているのかな。もう辛いことがないアフターストーリーに突入したのかな……。
 そう考えると、何か得体の知れない感情が俺の胸に

「まあ、真白が生活拠点を俺ん家にしてもいい……というか、真白はすでにそのつもりになっただろう?」
「はい。やはり夫婦は一緒に暮らさなくてはいけないと思います!」
「俺が何度もさりげなくそれを否定しているの気づいた?」
「気づいたからこそ、腹が立ってますよ?」
「だからこうやって、俺の足を踏んでいるんだね」
「あら、それは気づきませんでした♡」
「嘘つきは下着泥棒の始まりだよ!?」
「凪くん……変態」
 
 両親に暖かい目で見守られて、余計にいたたまれなくなる。胃もたれがしそうなくらいにはね。

「女神はみんな美しい」
「急にどうしたの? なーくん。お母さんは女神よりも美しいと言いたいのかしら」
「そんなこと言われたら照れます!」

 いや、別にお母さんと真白に言ってるわけじゃないよ。

 やはり日本人というのはどことなく信心深く、さっき俺の言った『女神は別にみんな美しいと決まったわけじゃないよ』という言葉でバチが当たらないかと心配になるもの。
 それが都合よく二人に褒め言葉として受け止められたのは、ますます俺をいたたまれなくさせたのだった。
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