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第七章

第六十八話 ボイスメッセージ

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 放課後、愛が俺の席にやってきた。

「いつきくん、帰ろう?」

「ちょっと待って、今日は少し愛に付き合って欲しいことがあるんだ」

「え?」

 俺は愛の後ろを指差すと、愛はゆっくりと振り向いた。

 そこには芽依、結月、はると、れん、葵の姿があった。

「みんな揃ってどうしたのしら?」

「姫宮さんからついにいっきを奪還する時にが来たのだ! わっはっはっは」

「違うでしょう? 、今日はあれを姫宮さんに聞かせるためにみんなで集まったでしょう」

 芽依がボケると、結月は間髪入れずに訂正する。

「愛ちゃん、少し私たちに付き合って?」

 葵がそういうと、愛は頷いた。今更思うんだけど、なんで葵と愛はこんなに仲がいいんだろう。

 7人で席を囲んで、みんなが帰宅するのを待った。

 そして、最後の一人が教室から出るのを見て、愛を除いた俺ら6人は2つのボイスレコーダーを取り出した。

 ほんとはカメラを買ってビデオメッセージにしようと思ってたけど、さすがに高校生6人が集まってもカメラ2つは買えなかった。それでボイスレコーダーだ。

「流すね」

 俺がそういうと、芽依はボイスレコーダーの再生ボタンを押した。

「え、もう始まったの? あ、あの、藤宮って言います。姫宮さんの小学校の同級生です。同じクラスになったことはないけど、噂はいつも聞いています。実際会ってみたらとても綺麗な人で、そうなりたいなと思いました。でも姫宮さんはいつも虐められてるので、話しかけるのは怖かったです……でも、今になって思うんです! やはり私は姫宮さんみたいな人になりたいと思います! 姫宮さんは綺麗なだけじゃなくて、お淑やかというか、とても優しい感じがします! 先生たちからも姫宮さんのことは聞いています。姫宮さんが飼育係になってから、動物たちは前より元気になったって。それはきっと姫宮さんが優しいからだと思います! 今の姫宮さんはきっともっと綺麗になってると思いますが、いじめはまだ続いてるか心配ですけど、こういうふうに、助けてくれる友達が出来たみたいで安心しました。姫宮さん、私はあなたみたいな優しくて綺麗な人になりたいって今でも思っています!」

「あの、ごめんなさい! 姫宮さん、私のこと覚えてる? 小学校の同級生の堀田なんだけど、陰口叩いてすみませんでした! こんなの言い訳にしか聞こえないかもしれないけど、私はとても姫宮さんのこと嫉妬してたの。綺麗で優しくて、おまけに男子にちやほやされてて……今ならそれがいじめだって分かったけど、そのときは分からなくて……てっきり姫宮さんは男子たちを誘惑してると思ってたの。勘違いした自分が恥ずかしい! もう、そのときの私ってば、恥ずかしい! 今思えば、姫宮さんはいつも真面目に勉強してて、頑張り屋さんだなって。陰口叩いといてこういうのもなんだけど、今は姫宮さんのこと尊敬してる! だって私たちいじめっ子にも、あんまりいじめっ子って言い方はしたくないけど、仕返しとかもせずに遠足のときに靴擦れした私にも絆創膏くれたじゃん。あんどきほんとに天使に見えた。でもいじめた手前、なかなかありがとうとか言えないじゃん。だから、今言わせて、ありがとう!」

「ちょっと待ってよ! 『待たない! 早く言って!』 わかったよ! ごめんね、姫宮さん。中学校のときに殴っちゃって。俺って、すごく姫宮さんのことが好きだったんだ。姫宮さんって綺麗で、優しくて、時々授業中でうたた寝して、まるで眠り姫と思ったよ。でも、勇気を絞り出して、告白したら、思いっきり振られてさ、それでちょっと……分かってる、分かってる。暴力振るった俺がなにを言っても言い訳だって思われるだろう。だから、言い訳はもう言わない。ごめんなさい、姫宮さん。こいつ、いや、ここにいる彼は姫宮さんの彼氏か。おめでとう、俺よりよほどいい男だね。今なら言える。やはり姫宮さんには幸せになってほしい」

 ……

 ボイスメッセージは1時間以上続いた。愛はなにも言わずにただそれを聞いていた。そして、途中から目が少し潤んだように見える。

「もう、なんなのかなー 私は優しくないよ。飼育係もみんながやらないからやっただけで、動物たちにも普通に接してるだけだし……なんで絆創膏くらいで感謝するのかなー 余ったからあげただけだし、感謝してるならそのときに言ってよ……ほんと最低、殴っといて、なんで幸せになってほしいなんて言えるのかなー いつきくんはあんたよりいい男だって私が1番知ってるよ。眠り姫って、私が不眠症で授業中に居眠りしちゃうのはだれのせいだと思ってるのかなー もうみんななんなのかなー」

 愛は次第に泣き出した。今まで喉につっかえていたなにかが溶けてなくなったみたいな感じで、愛の言葉は止まらなかった。

 1時間以上聞いたボイスメッセージにしながら、ときにぎこちない笑顔を浮かべて、俺らの顔を見比べた。

「愛?」

「こんなことで私のトラウマが治るとでも思ってるのかなー」

「ごめん、でも、みんながちゃんと愛の中身も、顔以外の部分もちゃんと見てたって伝えたかったし、なにより……」

 愛はこれ以上はもう言わないでとでも言うように指を俺の唇に当てた。

「もう知ってる、ちゃんと私のことを見ててくれた人がここに6人もいるだもの」

「愛」

「いつきくんに堂々としろって言われて、高校生になってからずっと周りにきつい態度をして自分を武装していたけど、やはりそれは堂々としてるとは言えないね。ずっと、小学校の同級生も、中学校の同級生も未だに私の陰口を叩いてるんじゃないかなって思ってた。そう思うとどうしても、周りの人に心を許せなかった。こんなに私を思ってくれてる有栖さん、結月ちゃん、はるとくん、れんくんにも心を完全に開けなかった。ごめんね」

「私はライバルだから、心を許すほうがおかしいよ!」

「ううん、姫宮さん、私も同じだったから分かるよ」

「謝ることないってば」

「そうだ! 謝るならおっ……痛っ」

 相変わらず葵のれんへの平手打ちは容赦がない。

「なんでみんなこんなに優しいのかなー……うっ……なんで私なんかのために、ここまでしてくれるのかなー……ぐす……私はなにもしてあげてないのに」

 私にだけ向けていたはずのフラットな口調は今度、みんなに向けられた。

「俺はただ愛を救いたいだけだよ」

「友達だから!」

「ええ、友達だもの」

「姫宮さんは俺らが見返りがほしい人間に見えるかな」

「見返りじゃないけど、おっ……痛っ」

「私はずっと愛ちゃんの味方だよ!」

「ありがとう……うぐっ……みんな……」

 愛が泣き止むまで、俺らはずっと愛のそばにいた。
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