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第四章
第四十話 戸惑い
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放課後、結月はいつも早々に教室を出る。前からバイトを始めてから、ほぼ毎日シフトを入れている。
少し、結月の体調が心配になる。梅雨が終わって、そろそろ夏本番になるというのに、熱中症とか体力不足とかで倒れないかなって。
姫宮と芽依がやってきた。
「いっき、今日アイス食べたい!」
「そうね、暑いし、アイスくらいちょうどいいわ」
確かに、もう七月に入って、衣替えしたとはいえ、外にもクーラーがついてるわけじゃないし、学校も節約とか環境への配慮とか言って冷房の温度を28度にしてる。
正直暑さでくたばりそうだ。
でも、そのおかげか、姫宮と芽依の服は少し汗で透けて見える。下着の色がぼんやりと分かるくらい。姫宮は薄いピンク色で、芽依は水色寄りの白……って俺は何を考えているんだ。
「いいよ、最近、ここら辺にオープンしたフォーティワンにでも行ってみようか?」
「やった!」
「私クーポン持ってるわ~」
姫宮ってほんとにお嬢様なの? なんか庶民感が駄々洩れしてる。
「金があっても、節約できるところはきちんとしたいわ~」
俺の心でも読んだのか、姫宮は言葉をつづけた。
もしほんとそうなら、俺が姫宮の胸が芽依より小さいと思ったのもばれたのかな……
「なんか失礼なことを考えてるのかしら?」
「いや、なんでも?」
「そう?」
「うん!」
やっぱり怪しい。気を付けよう……
芽依と姫宮がアイス食べたくなる気持ちが分かった気がする。
日差しは無情に頭上に注いでいて、俺らの体の塩分を搾り取ろうとしている。ミイラになる……これが今の俺の切実の気持ちだ。
「有栖さん、熱いならいつきくんの腕にくっついてないで、離れたほうがいいよ?」
「姫宮さんこそ、汗を流しているんだもん。いっきにくっつきすぎだよ!」
「幼馴染はそういうことをすると誤解されるわよ? 無差別に男をたぶらかす節操のない女だと思われてもいいのかしら? それともさんざん言われてきたから、今さらどうということはないのかな?」
姫宮は相変わらず芽依に対して辛辣なんだよね。
「もう幼馴染だけじゃないもん!」
「えっ!」
姫宮はらしくない声をあげた。
「昨日いっきに告白したんだもん!」
「いつきくん? なんで私にこのことを言ってなかったのかしら。もう倦怠期? それともきちんと話し合うのは夫婦になってからすべきことだと考えているのかしら? そういう考え方は古いし、私の倫理観に沿わないわ」
なんで俺に振るんだよ……
「いや、切り出すタイミングがないだけで……」
「今から言い訳をするようじゃとても信用にならないわね~ もし今いつきくんと結婚していたら、私は迷いなく離婚届を取りに行ったのでしょう」
「そんな……」
「まあ、チャンスがないわけじゃないわ~ 今ならその幼馴染を振りほどいたら許してあげなくもないわ」
「いっきはそんなことしないよね」
芽依は目をキラキラ潤わせて、俺を見つめてきた。
もう、黙るしかないか……
フォーティワンに着いて、姫宮はすっかり機嫌がよくなった。女の子はやはり甘いものに目がないな。姫宮も例外じゃない。
さすが夏、並んでる人がいっぱいだ。俺らは最後尾に並ぶと、芽依はドヤ顔をした。
「いっき、最近また男の子に告られたよ!」
「そういうのは俺に言わないようにしているんじゃなかったの?」
「作戦変更よ! 私がモテるって分かって、いつか芽依がどっかに行っちゃうんじゃないかなって不安にさせるの!」
「どう返事したの?」
「好きな人がいるって断ったよ! いっき、まだ手が届くうちに私と付き合ってよ! ほんとに遅くなったら別の人のものになっちゃうよ~」
「そう言ってるうちはまだ大丈夫だよ」
「ちっ」
「女の子は舌打ちしちゃだめ」
「はーい」
芽依は不服そうにうなずいた。
「いつきくん、そういえば、私も最近告白されたわ」
「「えっ」」
俺だけじゃなくて、芽依も驚いてる。また勇者が現れたのか……
「なんて返事したの……?」
想像はつくが、一応聞いてみた。
「私に彼氏がいるのは知ってるのよね? それを知った上で私に告白してきたのかしら? 略奪愛ってやつかな? それほど私の心を奪えると思ったの? どういう生き方をしたらそんなに自信がつくものかしら? 自信のない人と比べたらマシかもしれないけど、あなたの場合って自信過剰じゃないかな? こんな好きの一言ですべてが手に入ると思ったら、よほど、周りが見えてないのね。その目は飾りかしら? それとも私に彼氏がいるの知らなかったの? それでよく私のことが好きって言えたわね。好きな人のことを知ろうともせずによく告白できたものね。私が親ならもう恥ずかしくてあなたを転校させたわって言ってあげたわよ~」
「「うわー」」
思っていたより、かなり心をえぐるような断り方だったな。それに比べたら芽依の断り方は可愛げすらある。よく暗記したみたいにぺらぺらと再現できたな。やはり姫宮の頭はいいというべきなのかな……
俺はいつか姫宮にほんとの告白をするときにこんな目に遭わないように努力しなきゃ……
「だから、いつきくんがぶらぶらしてたら、私も遠くに行っちゃうかもよ?」
いや、お前が「魔王」である限り、多分、どこにも行かないだろう……
そのあとのアイスの味はよくわからなかった。アイスのせいなのか、俺の背中に冷や汗が流れて止まらなかった。
結月の作った晩飯を食べて、風呂入って、ベッドで横になると、ふと結月のことについて考えてしまった。
前は結月がバイトしてなかったから、晩飯とか家事とか手伝ってたけど、今毎日のように働いてる上に、朝食も夕食も作って、ほんとに体大丈夫なのだろうか……
それを気遣って、俺は結月の晩飯を嫌がらずにちゃんと食べるようにしてる。
俺に出来るのは結月を家族として受け入れることくらいだから。そう、結月はもう家族だ。過去のことは忘れよう。
ドンドンとドアがノックされた。
「どうぞ」
ドアが開かれて、そこに結月が立っていた。そして、彼女の手に、何万円かのお金が握りしめられていた……
俺の決意が戸惑いを見せ始めた。
少し、結月の体調が心配になる。梅雨が終わって、そろそろ夏本番になるというのに、熱中症とか体力不足とかで倒れないかなって。
姫宮と芽依がやってきた。
「いっき、今日アイス食べたい!」
「そうね、暑いし、アイスくらいちょうどいいわ」
確かに、もう七月に入って、衣替えしたとはいえ、外にもクーラーがついてるわけじゃないし、学校も節約とか環境への配慮とか言って冷房の温度を28度にしてる。
正直暑さでくたばりそうだ。
でも、そのおかげか、姫宮と芽依の服は少し汗で透けて見える。下着の色がぼんやりと分かるくらい。姫宮は薄いピンク色で、芽依は水色寄りの白……って俺は何を考えているんだ。
「いいよ、最近、ここら辺にオープンしたフォーティワンにでも行ってみようか?」
「やった!」
「私クーポン持ってるわ~」
姫宮ってほんとにお嬢様なの? なんか庶民感が駄々洩れしてる。
「金があっても、節約できるところはきちんとしたいわ~」
俺の心でも読んだのか、姫宮は言葉をつづけた。
もしほんとそうなら、俺が姫宮の胸が芽依より小さいと思ったのもばれたのかな……
「なんか失礼なことを考えてるのかしら?」
「いや、なんでも?」
「そう?」
「うん!」
やっぱり怪しい。気を付けよう……
芽依と姫宮がアイス食べたくなる気持ちが分かった気がする。
日差しは無情に頭上に注いでいて、俺らの体の塩分を搾り取ろうとしている。ミイラになる……これが今の俺の切実の気持ちだ。
「有栖さん、熱いならいつきくんの腕にくっついてないで、離れたほうがいいよ?」
「姫宮さんこそ、汗を流しているんだもん。いっきにくっつきすぎだよ!」
「幼馴染はそういうことをすると誤解されるわよ? 無差別に男をたぶらかす節操のない女だと思われてもいいのかしら? それともさんざん言われてきたから、今さらどうということはないのかな?」
姫宮は相変わらず芽依に対して辛辣なんだよね。
「もう幼馴染だけじゃないもん!」
「えっ!」
姫宮はらしくない声をあげた。
「昨日いっきに告白したんだもん!」
「いつきくん? なんで私にこのことを言ってなかったのかしら。もう倦怠期? それともきちんと話し合うのは夫婦になってからすべきことだと考えているのかしら? そういう考え方は古いし、私の倫理観に沿わないわ」
なんで俺に振るんだよ……
「いや、切り出すタイミングがないだけで……」
「今から言い訳をするようじゃとても信用にならないわね~ もし今いつきくんと結婚していたら、私は迷いなく離婚届を取りに行ったのでしょう」
「そんな……」
「まあ、チャンスがないわけじゃないわ~ 今ならその幼馴染を振りほどいたら許してあげなくもないわ」
「いっきはそんなことしないよね」
芽依は目をキラキラ潤わせて、俺を見つめてきた。
もう、黙るしかないか……
フォーティワンに着いて、姫宮はすっかり機嫌がよくなった。女の子はやはり甘いものに目がないな。姫宮も例外じゃない。
さすが夏、並んでる人がいっぱいだ。俺らは最後尾に並ぶと、芽依はドヤ顔をした。
「いっき、最近また男の子に告られたよ!」
「そういうのは俺に言わないようにしているんじゃなかったの?」
「作戦変更よ! 私がモテるって分かって、いつか芽依がどっかに行っちゃうんじゃないかなって不安にさせるの!」
「どう返事したの?」
「好きな人がいるって断ったよ! いっき、まだ手が届くうちに私と付き合ってよ! ほんとに遅くなったら別の人のものになっちゃうよ~」
「そう言ってるうちはまだ大丈夫だよ」
「ちっ」
「女の子は舌打ちしちゃだめ」
「はーい」
芽依は不服そうにうなずいた。
「いつきくん、そういえば、私も最近告白されたわ」
「「えっ」」
俺だけじゃなくて、芽依も驚いてる。また勇者が現れたのか……
「なんて返事したの……?」
想像はつくが、一応聞いてみた。
「私に彼氏がいるのは知ってるのよね? それを知った上で私に告白してきたのかしら? 略奪愛ってやつかな? それほど私の心を奪えると思ったの? どういう生き方をしたらそんなに自信がつくものかしら? 自信のない人と比べたらマシかもしれないけど、あなたの場合って自信過剰じゃないかな? こんな好きの一言ですべてが手に入ると思ったら、よほど、周りが見えてないのね。その目は飾りかしら? それとも私に彼氏がいるの知らなかったの? それでよく私のことが好きって言えたわね。好きな人のことを知ろうともせずによく告白できたものね。私が親ならもう恥ずかしくてあなたを転校させたわって言ってあげたわよ~」
「「うわー」」
思っていたより、かなり心をえぐるような断り方だったな。それに比べたら芽依の断り方は可愛げすらある。よく暗記したみたいにぺらぺらと再現できたな。やはり姫宮の頭はいいというべきなのかな……
俺はいつか姫宮にほんとの告白をするときにこんな目に遭わないように努力しなきゃ……
「だから、いつきくんがぶらぶらしてたら、私も遠くに行っちゃうかもよ?」
いや、お前が「魔王」である限り、多分、どこにも行かないだろう……
そのあとのアイスの味はよくわからなかった。アイスのせいなのか、俺の背中に冷や汗が流れて止まらなかった。
結月の作った晩飯を食べて、風呂入って、ベッドで横になると、ふと結月のことについて考えてしまった。
前は結月がバイトしてなかったから、晩飯とか家事とか手伝ってたけど、今毎日のように働いてる上に、朝食も夕食も作って、ほんとに体大丈夫なのだろうか……
それを気遣って、俺は結月の晩飯を嫌がらずにちゃんと食べるようにしてる。
俺に出来るのは結月を家族として受け入れることくらいだから。そう、結月はもう家族だ。過去のことは忘れよう。
ドンドンとドアがノックされた。
「どうぞ」
ドアが開かれて、そこに結月が立っていた。そして、彼女の手に、何万円かのお金が握りしめられていた……
俺の決意が戸惑いを見せ始めた。
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