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第四章
第三十六話 芽依の気持ちⅡ
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私の中に芽生えた気持ちの正体がやっと分かった。
それははるとが好きっていう気持ちではなく、はるとのせいで自分の日常が壊れた喪失感だった。
もう、いっき、はると、れん、葵に姫宮さんとの学校生活が私の日常になっているのに、それを失ったのではないかという絶望が私を襲っていた。
だから、はるとがいなくなったと聞いたときはパニックっていた。
その時はこれはどういう気持ちなのかよく分からなかった。もしかして、私ってはるとが好きだったのかもしれないと考えてもいた。
どうしても答えが出ないとき、いっきははるとに会いに行きたいかと聞いてきた。
会いに行きたい。自分の気持ちを確かめに行きたい。それだけで頭がいっぱいになった。
いっきと新幹線に乗って少し気分が晴れた。なんかいっきと二人きりで旅行しているような気分。ふと思ってしまった。いっきと結婚して新婚旅行とかに行ったら、きっとこんな気持ちになるのだろうな。いや、もっと幸せな気持ちになっているかもしれない。
そのときはいっきのことをなんと呼べばいいのかな? パパ? いや、いくら何でも早いし、できちゃった婚はしたくない。なら無難にあなたとか?
そう考えると、顔がにやけてきたのが自分でも分かる。いっきは少しうたた寝しているから、見られてなくてよかったってほっとした。
電車に乗り換えて、私はお弁当をいっきに渡した。そして、自分の分の包みを開いて、ゆっくりとお箸をつけた。
いっきはお腹が空いてるのか、ものすごい勢いで私のお弁当を頬張った。それを見ているとどうしても聞きたくなった。
「おいしい?」
「うまい」
いっきの言葉で、私はすごくうれしくなった。これが新婚旅行だったら、いきなりいっきにちゅーしたのかもしれない。
電車に揺られて、外の景色を眺めていると、いっきとの思いでがよみがえる。
今まで家族ぐるみで山に登ったり、川でバーベキューしてたな……
私の嫌いなピーマンを、いっきが代わりに食べてくれた。自分も苦手なのに、かっこつけちゃって……ほんとバカなんだから。
電車を降りて、歩いてたら、なぜか見覚えのある風景だと思った。
あっ、二年前に遊びに来たことがあったんだ。はるとのおばあちゃんちに、私、いっき、れんとはるとが一週間泊まりに来たんだ。
私は花火大会に行きたいって言ったら、はるとはそれなら、田舎のおばあちゃんのとこの夏祭りはいいよって勧められて、四人で来た。
もしかして、いっきのいうはるとがいるかもしれない場所っておばあちゃんちかな。
そう思うと、私はいっきに聞いた。
いっきはそうだよって言いながら、道をあんまり覚えていないみたいで、それならこの先を左に曲がったら着くよって教えた。
私も記憶がよくないほうだけど、花火大会が終わって、はるととれんがはしゃいで走ってたら、私も思わず、下駄のままで走ってしまった。
案の定、躓いて転がって、きれいな浴衣が汚れた。はるととれんはとっくにおばあちゃんちまで走ったから、ここにいるのは私といっきしかいなかった。
私は無意識に泣いてしまった。足も痛いし、浴衣も台無しになったから。
「足、挫いたの?」
「たぶん……うっ」
いっきはなにをするのかと思いきや、私の足を開いて、私を背中に乗せた。
浴衣だから、下にはパンツしか履いてなくて、足を開かれた瞬間は恥ずかしさのあまりに涙が止まり、声にもならない声を発してしまった。
「あとおばあちゃんちまで少しだから、俺のおんぶで我慢してね?」
「……」
恥ずかしさと嬉しさが混じりあって、私は何も言えなかった。今自分の太ももが直にいっきの腕に当たってると思うと、もう頭に熱気が上がって、何も考えられなくなった。
横から見たいっきの顔も少し赤くなっていて、それがますます私の羞恥心を刺激する。
まさかいっきが私の太ももかパンツの感触を感じているのではないだろうか……もしそうなら、私はもう……いや、いっきのお嫁さんになればいいか……
そんなことを考えながら、私はいっきの背中に体を預け、そっと頭をいっきの肩の上に載せた。三分もしない道のりが永遠のように感じて、幸せだった……
おばあちゃんに家まで案内されて、はるとの姿がいた。
なぜか心が高ぶる。ほんとに私ははるとのことが好きだったのかなって一瞬思っちゃった。
だが、はるとから事情を聞いて、私は呆れた。そして、自分の気持ちがなんなのかやっと分かった。
もし、私がはるとのことが好きなら、ここまでしてくれたのはなによりうれしかったのだろう。でも、それよりも、私は怒っていた。
だから、私は全身の力で拳をはるとのお腹に叩き込んだ。
心配させてくれたのもあるけど、なによりはるとは自覚が足りないんだ。はるとはもう私の日常の一部なのに、こんな勝手な理由で私の日常を壊していたのかもしれないと思うと、どうしても怒りが込みあがってくる。
自分の気持ちがはっきり分かった。私はいっきも大好きだけど、みんなとの日常も大好き。だからはるとの勝手な行動を許せなかったの。
私への気持ちは知っているけど、やはり、私はいっきしか見れないよ……
「こら、はると帰るよ!」
「はい……」
私が催促すると、はるとは怯えた子犬みたいになった。
「いつき、俺の計画失敗したのかな……」
「これだけは分からないね」
いっきもまさかグルってことはないよね……もしそうなら……グーパンの代わりに夜襲いに行っても文句を言われる筋合いはないよね。
私がはるとの手を引っ張って立たせて、行くよって声を荒げた。はるとも目立たずにおばあちゃんちに来たから、荷物はリュックサック一つしかない。
私は左手でいっきの手を、右手ではるとの手をつないで、おばあちゃんにご迷惑をおかけしましたって言ったら、おばあちゃんはまた遊びに来てねって言ってくれた。
そのまま、私は二人の手をつないだまま、駅まで歩いた。もう誰一人、いなくなってほしくない。
それははるとが好きっていう気持ちではなく、はるとのせいで自分の日常が壊れた喪失感だった。
もう、いっき、はると、れん、葵に姫宮さんとの学校生活が私の日常になっているのに、それを失ったのではないかという絶望が私を襲っていた。
だから、はるとがいなくなったと聞いたときはパニックっていた。
その時はこれはどういう気持ちなのかよく分からなかった。もしかして、私ってはるとが好きだったのかもしれないと考えてもいた。
どうしても答えが出ないとき、いっきははるとに会いに行きたいかと聞いてきた。
会いに行きたい。自分の気持ちを確かめに行きたい。それだけで頭がいっぱいになった。
いっきと新幹線に乗って少し気分が晴れた。なんかいっきと二人きりで旅行しているような気分。ふと思ってしまった。いっきと結婚して新婚旅行とかに行ったら、きっとこんな気持ちになるのだろうな。いや、もっと幸せな気持ちになっているかもしれない。
そのときはいっきのことをなんと呼べばいいのかな? パパ? いや、いくら何でも早いし、できちゃった婚はしたくない。なら無難にあなたとか?
そう考えると、顔がにやけてきたのが自分でも分かる。いっきは少しうたた寝しているから、見られてなくてよかったってほっとした。
電車に乗り換えて、私はお弁当をいっきに渡した。そして、自分の分の包みを開いて、ゆっくりとお箸をつけた。
いっきはお腹が空いてるのか、ものすごい勢いで私のお弁当を頬張った。それを見ているとどうしても聞きたくなった。
「おいしい?」
「うまい」
いっきの言葉で、私はすごくうれしくなった。これが新婚旅行だったら、いきなりいっきにちゅーしたのかもしれない。
電車に揺られて、外の景色を眺めていると、いっきとの思いでがよみがえる。
今まで家族ぐるみで山に登ったり、川でバーベキューしてたな……
私の嫌いなピーマンを、いっきが代わりに食べてくれた。自分も苦手なのに、かっこつけちゃって……ほんとバカなんだから。
電車を降りて、歩いてたら、なぜか見覚えのある風景だと思った。
あっ、二年前に遊びに来たことがあったんだ。はるとのおばあちゃんちに、私、いっき、れんとはるとが一週間泊まりに来たんだ。
私は花火大会に行きたいって言ったら、はるとはそれなら、田舎のおばあちゃんのとこの夏祭りはいいよって勧められて、四人で来た。
もしかして、いっきのいうはるとがいるかもしれない場所っておばあちゃんちかな。
そう思うと、私はいっきに聞いた。
いっきはそうだよって言いながら、道をあんまり覚えていないみたいで、それならこの先を左に曲がったら着くよって教えた。
私も記憶がよくないほうだけど、花火大会が終わって、はるととれんがはしゃいで走ってたら、私も思わず、下駄のままで走ってしまった。
案の定、躓いて転がって、きれいな浴衣が汚れた。はるととれんはとっくにおばあちゃんちまで走ったから、ここにいるのは私といっきしかいなかった。
私は無意識に泣いてしまった。足も痛いし、浴衣も台無しになったから。
「足、挫いたの?」
「たぶん……うっ」
いっきはなにをするのかと思いきや、私の足を開いて、私を背中に乗せた。
浴衣だから、下にはパンツしか履いてなくて、足を開かれた瞬間は恥ずかしさのあまりに涙が止まり、声にもならない声を発してしまった。
「あとおばあちゃんちまで少しだから、俺のおんぶで我慢してね?」
「……」
恥ずかしさと嬉しさが混じりあって、私は何も言えなかった。今自分の太ももが直にいっきの腕に当たってると思うと、もう頭に熱気が上がって、何も考えられなくなった。
横から見たいっきの顔も少し赤くなっていて、それがますます私の羞恥心を刺激する。
まさかいっきが私の太ももかパンツの感触を感じているのではないだろうか……もしそうなら、私はもう……いや、いっきのお嫁さんになればいいか……
そんなことを考えながら、私はいっきの背中に体を預け、そっと頭をいっきの肩の上に載せた。三分もしない道のりが永遠のように感じて、幸せだった……
おばあちゃんに家まで案内されて、はるとの姿がいた。
なぜか心が高ぶる。ほんとに私ははるとのことが好きだったのかなって一瞬思っちゃった。
だが、はるとから事情を聞いて、私は呆れた。そして、自分の気持ちがなんなのかやっと分かった。
もし、私がはるとのことが好きなら、ここまでしてくれたのはなによりうれしかったのだろう。でも、それよりも、私は怒っていた。
だから、私は全身の力で拳をはるとのお腹に叩き込んだ。
心配させてくれたのもあるけど、なによりはるとは自覚が足りないんだ。はるとはもう私の日常の一部なのに、こんな勝手な理由で私の日常を壊していたのかもしれないと思うと、どうしても怒りが込みあがってくる。
自分の気持ちがはっきり分かった。私はいっきも大好きだけど、みんなとの日常も大好き。だからはるとの勝手な行動を許せなかったの。
私への気持ちは知っているけど、やはり、私はいっきしか見れないよ……
「こら、はると帰るよ!」
「はい……」
私が催促すると、はるとは怯えた子犬みたいになった。
「いつき、俺の計画失敗したのかな……」
「これだけは分からないね」
いっきもまさかグルってことはないよね……もしそうなら……グーパンの代わりに夜襲いに行っても文句を言われる筋合いはないよね。
私がはるとの手を引っ張って立たせて、行くよって声を荒げた。はるとも目立たずにおばあちゃんちに来たから、荷物はリュックサック一つしかない。
私は左手でいっきの手を、右手ではるとの手をつないで、おばあちゃんにご迷惑をおかけしましたって言ったら、おばあちゃんはまた遊びに来てねって言ってくれた。
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