35 / 91
35.陸上生活④
しおりを挟む
翌朝、遅めの朝食をとって、船員達と街へ繰り出す。
「すっごーい!」
「活気があっていいだろ。迷子になるなよ」
「レーナあっち行ってみよう! あの海鮮串焼き美味しそう!」
「アランたら。ごはん食べたばかりじゃない」
「じゃあそっちの氷菓子は? あ! 飴細工もあるよ!」
「お前は食い気ばっかだな」
大通りには露店が雑然と並び、色とりどりの土産物や海産物が所狭しと売られている。
一般的に休日に当たる今日は、お祭りかと思うくらいの賑わいを見せていた。
私たちはと言えば例に漏れず浮かれきっていて、昨夜のモヤモヤなんてどこかへ吹き飛んでしまっていた。
「アラン、女性にはアクセサリーか花を贈るのが一番喜ばれるんだぞ」
「でもレーナ、アクセサリーとかいらないって昨日」
したり顔で言うアルフレッドに、アランがあっけらかんと返す。
「そうね。あんまり興味ないかな」
「そうなの⁉ こんなに美しいのにもったいない……でも飾らなくてもレーナは十分輝いてるよ」
「ありがとうアル。ちなみに昨日の美人さんには何を贈るの?」
「……うん?」
にっこり笑いながら聞くと、アルフレッドの極上の笑みが凍り付いた。
「エミリオから聞いたわ。飲み屋で一番の美人と連れだって店を出たって」
さすがアル、と他意なく言ったのだけど、アルフレッドは笑顔のまま「ちょっと失礼」とさわやかに言って、少し離れたところで露店を覗いているエミリオのもとに走って行ってしまった。
なにやら言い争っている様子だ。
あまり触れてほしくない話題だったのだろうか。
「何やってんだあいつら……」
ウィルがそれを見送って呆れたように肩を竦めた。
「レーナは食材の買い出しがメイン?」
「うん。テオが用事終わったら手伝ってくれるの。そのあとで時間があったらワイアットと医療品の買い出しも」
「オレも必要な買い物終わったら手伝うから。あとで一緒に回ろう」
「ありがとう。なんかワクワクしちゃうね」
「ね! 関係ないもんいっぱい買っちゃいそう!」
「ほどほどにしとけよ。俺は別の用があるからあとは任せた。ちゃんと宿に帰ってこいよ」
「わかってるって。レーナはテオとはぐれないようにね」
「はぁい」
ウィル達と別れ、観光客や地元民でひしめく中、露店を冷やかしながらテオを待つ。
アクセサリー類を欲しいと思わないのは本音だったが、それでも貝殻や珊瑚を加工した小物類には目を惹かれた。
「欲しいの?」
「ひゃっ」
「ああごめん、驚かせちゃったかな」
「テオ!」
背後からの声に飛び上がる。
振り返ると申し訳なさそうな顔をしたテオが立っていて、ホッと息をついた。
「待たせて悪かったね。心細くなかった?」
「全然! むしろ見るものが多すぎて時間が足りないわ」
「あはは。レーナって結構肝が据わってるよね」
「そうかしら」
「だって船長の話だと結構なお金持ちのお嬢様なんだろ。こんなガラの悪いところ、怖いんじゃない」
そう言われても、東京の繁華街なんてここ以上に人で溢れていたし、一本道を間違えればここより治安が悪くなるなんてザラだった。
二度目の人生で十八年も経って、だいぶ久しぶりではあっても恐れるような場所ではない。
けれどたしかに侯爵令嬢だけをしていたのなら、敬遠する場所になっていたかもしれないと気付く。
「危機感が足りないのかも。危ないことをしていたら教えてね」
「もちろん。レーナは我が海賊団の大切な宝物だから」
「えぇ? なぁにそれ」
大仰に言われて思わず笑う。
確かに食事は生命線だから、それを担当する私はありがたがられる存在かもしれない。
最初に言われていた花だの潤いだのにはなれていないが、そこだけは結構自信を持って言える。
なにせ他のメンバーの料理の腕は壊滅的なのだから。
「失うわけにはいかないよ」
「じゃあ宿に無事に帰りつかなきゃいけないわね」
「お守りいたします、お姫様」
くすくす笑い合いながら、並んで歩き出す。
私の手に、テオの手が自然と重なった。
「はぐれたら大変だ」
優しく言って、ふわりと笑う。
繋がれた手に、不覚にも胸が少しときめいてしまった。
「すっごーい!」
「活気があっていいだろ。迷子になるなよ」
「レーナあっち行ってみよう! あの海鮮串焼き美味しそう!」
「アランたら。ごはん食べたばかりじゃない」
「じゃあそっちの氷菓子は? あ! 飴細工もあるよ!」
「お前は食い気ばっかだな」
大通りには露店が雑然と並び、色とりどりの土産物や海産物が所狭しと売られている。
一般的に休日に当たる今日は、お祭りかと思うくらいの賑わいを見せていた。
私たちはと言えば例に漏れず浮かれきっていて、昨夜のモヤモヤなんてどこかへ吹き飛んでしまっていた。
「アラン、女性にはアクセサリーか花を贈るのが一番喜ばれるんだぞ」
「でもレーナ、アクセサリーとかいらないって昨日」
したり顔で言うアルフレッドに、アランがあっけらかんと返す。
「そうね。あんまり興味ないかな」
「そうなの⁉ こんなに美しいのにもったいない……でも飾らなくてもレーナは十分輝いてるよ」
「ありがとうアル。ちなみに昨日の美人さんには何を贈るの?」
「……うん?」
にっこり笑いながら聞くと、アルフレッドの極上の笑みが凍り付いた。
「エミリオから聞いたわ。飲み屋で一番の美人と連れだって店を出たって」
さすがアル、と他意なく言ったのだけど、アルフレッドは笑顔のまま「ちょっと失礼」とさわやかに言って、少し離れたところで露店を覗いているエミリオのもとに走って行ってしまった。
なにやら言い争っている様子だ。
あまり触れてほしくない話題だったのだろうか。
「何やってんだあいつら……」
ウィルがそれを見送って呆れたように肩を竦めた。
「レーナは食材の買い出しがメイン?」
「うん。テオが用事終わったら手伝ってくれるの。そのあとで時間があったらワイアットと医療品の買い出しも」
「オレも必要な買い物終わったら手伝うから。あとで一緒に回ろう」
「ありがとう。なんかワクワクしちゃうね」
「ね! 関係ないもんいっぱい買っちゃいそう!」
「ほどほどにしとけよ。俺は別の用があるからあとは任せた。ちゃんと宿に帰ってこいよ」
「わかってるって。レーナはテオとはぐれないようにね」
「はぁい」
ウィル達と別れ、観光客や地元民でひしめく中、露店を冷やかしながらテオを待つ。
アクセサリー類を欲しいと思わないのは本音だったが、それでも貝殻や珊瑚を加工した小物類には目を惹かれた。
「欲しいの?」
「ひゃっ」
「ああごめん、驚かせちゃったかな」
「テオ!」
背後からの声に飛び上がる。
振り返ると申し訳なさそうな顔をしたテオが立っていて、ホッと息をついた。
「待たせて悪かったね。心細くなかった?」
「全然! むしろ見るものが多すぎて時間が足りないわ」
「あはは。レーナって結構肝が据わってるよね」
「そうかしら」
「だって船長の話だと結構なお金持ちのお嬢様なんだろ。こんなガラの悪いところ、怖いんじゃない」
そう言われても、東京の繁華街なんてここ以上に人で溢れていたし、一本道を間違えればここより治安が悪くなるなんてザラだった。
二度目の人生で十八年も経って、だいぶ久しぶりではあっても恐れるような場所ではない。
けれどたしかに侯爵令嬢だけをしていたのなら、敬遠する場所になっていたかもしれないと気付く。
「危機感が足りないのかも。危ないことをしていたら教えてね」
「もちろん。レーナは我が海賊団の大切な宝物だから」
「えぇ? なぁにそれ」
大仰に言われて思わず笑う。
確かに食事は生命線だから、それを担当する私はありがたがられる存在かもしれない。
最初に言われていた花だの潤いだのにはなれていないが、そこだけは結構自信を持って言える。
なにせ他のメンバーの料理の腕は壊滅的なのだから。
「失うわけにはいかないよ」
「じゃあ宿に無事に帰りつかなきゃいけないわね」
「お守りいたします、お姫様」
くすくす笑い合いながら、並んで歩き出す。
私の手に、テオの手が自然と重なった。
「はぐれたら大変だ」
優しく言って、ふわりと笑う。
繋がれた手に、不覚にも胸が少しときめいてしまった。
15
お気に入りに追加
1,206
あなたにおすすめの小説
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】
高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。
全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。
断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜
茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。
☆他サイトにも投稿しています
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる