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9.私は海賊のモノになったらしい
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驚いて硬直していると、男が先に動いた。
「ほれ」
「ひゃっ」
軽い掛け声とともに何かが私に向けて放られ、そのままばさりと落ちた。
「やる」
「え、なに、なんですのこれ」
「着替え。ちょっと探したがサイズ合いそうなのそれしかねーわ」
「きがえ……?」
言われて足元に落ちたものを見れば、シンプルなワンピースが三着ほどと、庶民向けのシンプルな下着が数セット。
「安モンだがな。まぁお嬢様の趣味じゃねぇだろが我慢してくれ」
「いえ、あの、はぁ……」
「襲った船の戦利品の中に紛れてた。ちゃんと洗濯もしてあるやつだと思う」
「これに着替えろと……?
「ああ。今着てたのは悪いが売っ払うぜ。相当高く売れそうだ」
そう言って、脱ぎっぱなしにしていた私のドレスを拾い上げ笑う。
「これも」
言葉と共に大きな手がこちらにのびて、思わずビクッと身体に力が入る。
その反応に構わず、筋肉質な腕が耳を掠めていく。
ぱちん、と小さな音がして、髪の毛がするりとほどけ落ちた。
髪飾りが外されたのだと、気付くのと同時に彼の腕が再び耳を掠める。
「このネックレスも」
首筋に硬い指先が触れた。
留め具を外すつもりなのだと解かったが、身体は固まったままだった。
「上等な宝石ばっかだ。嬢ちゃん、どこの豪商の娘だ?」
「……もう、勘当されたから関係ありませんわ」
「お、それマジだったの? てことは婚約破棄も?」
「大マジですわ」
喋っている間にも、あちこちにつけられたアクセサリーが外されていく。
その度に指先が皮膚に触れて、慣れない感覚にいちいち小さく身体が跳ねてしまうのが悔しかった。
「んじゃヤリまくりの病気持ちってのも」
続けて問われて目が泳ぐ。口から出まかせにしてもひどい嘘だ。
それでも興味を無くしてくれるのならば肯定するしかない。
「……ええ、もちろん」
「ぶっは」
盛大に噴き出した男が、追い剥ぎを中断して耐えられないとばかりに笑いだす。
「はっ、はは、無理すんなって、……っぶふ」
完全に馬鹿にした笑いで、剥き出しの肩をポンと叩かれる。
ビキッとこめかみに青筋が浮いたのは不可抗力だ。
「……ふ。嘘が下手すぎるわおまえ」
ようやく笑いを収めた男が私を正面に見据えて言う。
「ほら、」
大きな手の平が私の頬を覆う。
ぴくっ、と肩が揺れた。
するりと頬を撫でた手が、首筋へと這っていく。
「ぃ、やっ、」
ぴりっと弱い電流が走り抜ける感覚があって、思わず目を瞑りそうになるのをこらえた。
「……こんっな純情な反応するアバズレがいるかよ」
至極楽しそうに目を細めながら、私の反応を楽しむようにうなじに触れ、耳元で囁く。
からかわれている屈辱よりも、男の手が、声が、不快でないことへの戸惑いが大きかった。
触れられているところに熱が集まっていくのがわかる。馬鹿みたいに顔が熱い。
男性への免疫がなさ過ぎて、どんな反応を返すのが正常なのかわからない。
「くくっ」
笑いの余韻を残し、男の手が長く伸びた髪を梳くように動いて、離れていく。
「頭のてっぺんから足の先までよく手入れされてるってのに、わざわざ捨てる理由はわからねぇが」
硬直したままの私の手を取って、瞼を伏せる。
「俺が拾ったんだ。もう返さねぇ」
ちゅ、と小さな音を立てて指先に口づけが落ちる。
キザな仕草だが、やけにサマになっていた。
海賊流の占有の印かなにかだろうか。
わからないが、妙に胸が騒いだ。
宮廷でどこぞの貴族のボンボンが、社交辞令で似たようなことをしてもなんとも思わなかったのに。
「……攫った、の間違いではなくて?」
やられっぱなしなのが悔しくて、ほんの少しだけ反抗してみる。
挑発的なセリフに、男は気分を害すでもなく、笑みを深くしただけだった。
「ほれ」
「ひゃっ」
軽い掛け声とともに何かが私に向けて放られ、そのままばさりと落ちた。
「やる」
「え、なに、なんですのこれ」
「着替え。ちょっと探したがサイズ合いそうなのそれしかねーわ」
「きがえ……?」
言われて足元に落ちたものを見れば、シンプルなワンピースが三着ほどと、庶民向けのシンプルな下着が数セット。
「安モンだがな。まぁお嬢様の趣味じゃねぇだろが我慢してくれ」
「いえ、あの、はぁ……」
「襲った船の戦利品の中に紛れてた。ちゃんと洗濯もしてあるやつだと思う」
「これに着替えろと……?
「ああ。今着てたのは悪いが売っ払うぜ。相当高く売れそうだ」
そう言って、脱ぎっぱなしにしていた私のドレスを拾い上げ笑う。
「これも」
言葉と共に大きな手がこちらにのびて、思わずビクッと身体に力が入る。
その反応に構わず、筋肉質な腕が耳を掠めていく。
ぱちん、と小さな音がして、髪の毛がするりとほどけ落ちた。
髪飾りが外されたのだと、気付くのと同時に彼の腕が再び耳を掠める。
「このネックレスも」
首筋に硬い指先が触れた。
留め具を外すつもりなのだと解かったが、身体は固まったままだった。
「上等な宝石ばっかだ。嬢ちゃん、どこの豪商の娘だ?」
「……もう、勘当されたから関係ありませんわ」
「お、それマジだったの? てことは婚約破棄も?」
「大マジですわ」
喋っている間にも、あちこちにつけられたアクセサリーが外されていく。
その度に指先が皮膚に触れて、慣れない感覚にいちいち小さく身体が跳ねてしまうのが悔しかった。
「んじゃヤリまくりの病気持ちってのも」
続けて問われて目が泳ぐ。口から出まかせにしてもひどい嘘だ。
それでも興味を無くしてくれるのならば肯定するしかない。
「……ええ、もちろん」
「ぶっは」
盛大に噴き出した男が、追い剥ぎを中断して耐えられないとばかりに笑いだす。
「はっ、はは、無理すんなって、……っぶふ」
完全に馬鹿にした笑いで、剥き出しの肩をポンと叩かれる。
ビキッとこめかみに青筋が浮いたのは不可抗力だ。
「……ふ。嘘が下手すぎるわおまえ」
ようやく笑いを収めた男が私を正面に見据えて言う。
「ほら、」
大きな手の平が私の頬を覆う。
ぴくっ、と肩が揺れた。
するりと頬を撫でた手が、首筋へと這っていく。
「ぃ、やっ、」
ぴりっと弱い電流が走り抜ける感覚があって、思わず目を瞑りそうになるのをこらえた。
「……こんっな純情な反応するアバズレがいるかよ」
至極楽しそうに目を細めながら、私の反応を楽しむようにうなじに触れ、耳元で囁く。
からかわれている屈辱よりも、男の手が、声が、不快でないことへの戸惑いが大きかった。
触れられているところに熱が集まっていくのがわかる。馬鹿みたいに顔が熱い。
男性への免疫がなさ過ぎて、どんな反応を返すのが正常なのかわからない。
「くくっ」
笑いの余韻を残し、男の手が長く伸びた髪を梳くように動いて、離れていく。
「頭のてっぺんから足の先までよく手入れされてるってのに、わざわざ捨てる理由はわからねぇが」
硬直したままの私の手を取って、瞼を伏せる。
「俺が拾ったんだ。もう返さねぇ」
ちゅ、と小さな音を立てて指先に口づけが落ちる。
キザな仕草だが、やけにサマになっていた。
海賊流の占有の印かなにかだろうか。
わからないが、妙に胸が騒いだ。
宮廷でどこぞの貴族のボンボンが、社交辞令で似たようなことをしてもなんとも思わなかったのに。
「……攫った、の間違いではなくて?」
やられっぱなしなのが悔しくて、ほんの少しだけ反抗してみる。
挑発的なセリフに、男は気分を害すでもなく、笑みを深くしただけだった。
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