7 / 27
7.
しおりを挟む
なんだかめちゃくちゃ深く眠っているみたいだけどどうしよう。
所在なく、枕元に三角座りで待機する。
気持ちよさそうな顔で寝てるし、夜だし、この部屋でこのまま寝かせてやるのも有りと言えば有りだ。
一応王様だし、後宮内で一番偉い人だし、物凄く邪魔だということを除けばここで一晩過ごすのはおかしいことではない。
本当に、メチャクチャに、心の底から邪魔ではあるけれど。
ただ、なんだかいつもさっさと出ていくところを見るに、このあと用事があるのかもしれない。
そういえばさっきも時間がないみたいなことを言っていた気がする。
勝手な判断で寝かせ続けてあとで打首なんて事態は絶対に避けたい。
チラリと時計に目をやる。
寝落ちしてから三十分ほど経っていた。
はあ、とため息をついて膝を崩す。
「陛下。陛下、お時間大丈夫ですか」
めんどくせーなと思いつつ、そっと声を掛けた瞬間、カッと目が見開かれた。
「びゃっ」
初めて見る俊敏な動きで起き上がられて、思わず仰け反る。
焦ったように時計を見るさまにたじろいでいると、こちらにギッと視線を向けられて肩が跳ねた。
「どれくらい寝ていた」
「さ、三十分ほどです」
やはりもっと早く起こすべきだったか。
勢いに呑まれて正直に答えたてから後悔する。
「三十分……」
けれど王様はなんだかぽかんとした顔になったあとで、額の辺りを押さえた。
「……妙に頭がすっきりしている」
「ええ、あの、お昼寝に三十分は最適ですので」
もう夜だから昼寝というのはおかしいけれど。
眠くて眠くて仕方ない、でもどうしても長く睡眠をとれないという時の仮眠ならば三十分にとどめるのが良い。
「肩も軽い……」
肩をグルグル回しながら呟くのを見て、こっそり得意な気分になる。
そうだろうそうだろう。
寝ている間ずっとマッサージしてやったから、当然のことだ。
王様なんて大嫌いだけど、これはプロ意識の問題だ。
目の前に弱っている人間がいたら施術せずにはいられない。
ものすごく不本意ではあったが、客に貴賤はないのだ。
まぁこいつが客かどうかは置いといて、気まぐれにでも始めてしまった以上手抜きは出来ない。
私の腕が良かったおかげですと声高に主張してやりたかったが、なんだか底の知れない男だ、何が逆鱗に触れるかわからない。
間抜け面で眠りこけている間に、好き放題しやがったなんて思われたらたまったものではなかった。
「頭痛もいくらかマシになっているような……」
最低限の仮眠と肩周辺のマッサージだけじゃそんなもんかもね。
でもなんかちょっとだけ顔色が良くなったような。
あくまでも誤差範囲だけども。
ほんの少し手を出しただけで改善を実感できるなんて、普段どれだけ不健康な生活を送っているのやら。
これだから王様というやつは。
「ぴっ」
こっそり呆れたため息を吐こうとした瞬間、唐突に肩をガシッと掴まれて変な声が出る。
「時間は惜しいが助かった」
正面から見据えて王様が言う。
いつも淀んだ黒い目に、ほんの少しだけ光が宿ったような気がした。
「急ぐのでこれで」
短く告げて、嵐のように去っていく。
ホントなんなんだあいつ。
たぶんちんこ出しっぱで行ったけど大丈夫か。
所在なく、枕元に三角座りで待機する。
気持ちよさそうな顔で寝てるし、夜だし、この部屋でこのまま寝かせてやるのも有りと言えば有りだ。
一応王様だし、後宮内で一番偉い人だし、物凄く邪魔だということを除けばここで一晩過ごすのはおかしいことではない。
本当に、メチャクチャに、心の底から邪魔ではあるけれど。
ただ、なんだかいつもさっさと出ていくところを見るに、このあと用事があるのかもしれない。
そういえばさっきも時間がないみたいなことを言っていた気がする。
勝手な判断で寝かせ続けてあとで打首なんて事態は絶対に避けたい。
チラリと時計に目をやる。
寝落ちしてから三十分ほど経っていた。
はあ、とため息をついて膝を崩す。
「陛下。陛下、お時間大丈夫ですか」
めんどくせーなと思いつつ、そっと声を掛けた瞬間、カッと目が見開かれた。
「びゃっ」
初めて見る俊敏な動きで起き上がられて、思わず仰け反る。
焦ったように時計を見るさまにたじろいでいると、こちらにギッと視線を向けられて肩が跳ねた。
「どれくらい寝ていた」
「さ、三十分ほどです」
やはりもっと早く起こすべきだったか。
勢いに呑まれて正直に答えたてから後悔する。
「三十分……」
けれど王様はなんだかぽかんとした顔になったあとで、額の辺りを押さえた。
「……妙に頭がすっきりしている」
「ええ、あの、お昼寝に三十分は最適ですので」
もう夜だから昼寝というのはおかしいけれど。
眠くて眠くて仕方ない、でもどうしても長く睡眠をとれないという時の仮眠ならば三十分にとどめるのが良い。
「肩も軽い……」
肩をグルグル回しながら呟くのを見て、こっそり得意な気分になる。
そうだろうそうだろう。
寝ている間ずっとマッサージしてやったから、当然のことだ。
王様なんて大嫌いだけど、これはプロ意識の問題だ。
目の前に弱っている人間がいたら施術せずにはいられない。
ものすごく不本意ではあったが、客に貴賤はないのだ。
まぁこいつが客かどうかは置いといて、気まぐれにでも始めてしまった以上手抜きは出来ない。
私の腕が良かったおかげですと声高に主張してやりたかったが、なんだか底の知れない男だ、何が逆鱗に触れるかわからない。
間抜け面で眠りこけている間に、好き放題しやがったなんて思われたらたまったものではなかった。
「頭痛もいくらかマシになっているような……」
最低限の仮眠と肩周辺のマッサージだけじゃそんなもんかもね。
でもなんかちょっとだけ顔色が良くなったような。
あくまでも誤差範囲だけども。
ほんの少し手を出しただけで改善を実感できるなんて、普段どれだけ不健康な生活を送っているのやら。
これだから王様というやつは。
「ぴっ」
こっそり呆れたため息を吐こうとした瞬間、唐突に肩をガシッと掴まれて変な声が出る。
「時間は惜しいが助かった」
正面から見据えて王様が言う。
いつも淀んだ黒い目に、ほんの少しだけ光が宿ったような気がした。
「急ぐのでこれで」
短く告げて、嵐のように去っていく。
ホントなんなんだあいつ。
たぶんちんこ出しっぱで行ったけど大丈夫か。
37
お気に入りに追加
2,552
あなたにおすすめの小説
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
【完結】「冤罪で処刑された公爵令嬢はタイムリープする〜二度目の人生は殺(や)られる前に殺(や)ってやりますわ!」
まほりろ
恋愛
【完結しました】
アリシア・フォスターは第一王子の婚約者だった。
だが卒業パーティで第一王子とその仲間たちに冤罪をかけられ、弁解することも許されず、その場で斬り殺されてしまう。
気がつけば、アリシアは十歳の誕生日までタイムリープしていた。
「二度目の人生は|殺《や》られる前に|殺《や》ってやりますわ!」
アリシアはやり直す前の人生で、自分を殺した者たちへの復讐を誓う。
敵は第一王子のスタン、男爵令嬢のゲレ、義弟(いとこ)のルーウィー、騎士団長の息子のジェイ、宰相の息子のカスパーの五人。
アリシアは父親と信頼のおけるメイドを仲間につけ、一人づつ確実に報復していく。
前回の人生では出会うことのなかった隣国の第三皇子に好意を持たれ……。
☆
※ざまぁ有り(死ネタ有り)
※虫を潰すように、さくさく敵を抹殺していきます。
※ヒロインのパパは味方です。
※他サイトにも投稿しています。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
※本編1〜14話。タイムリープしたヒロインが、タイムリープする前の人生で自分を殺した相手を、ぷちぷちと潰していく話です。
※番外編15〜26話。タイムリープする前の時間軸で、娘を殺された公爵が、娘を殺した相手を捻り潰していく話です。
2022年3月8日HOTランキング7位! ありがとうございます!
「不吉な子」と罵られたので娘を連れて家を出ましたが、どうやら「幸運を呼ぶ子」だったようです。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
マリッサの額にはうっすらと痣がある。
その痣のせいで姑に嫌われ、生まれた娘にも同じ痣があったことで「気味が悪い!不吉な子に違いない」と言われてしまう。
自分のことは我慢できるが娘を傷つけるのは許せない。そう思ったマリッサは離婚して家を出て、新たな出会いを得て幸せになるが……
【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜
茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。
☆他サイトにも投稿しています
王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!
奏音 美都
恋愛
ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。
そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。
あぁ、なんてことでしょう……
こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
政略結婚した夫の恋を応援するはずが、なぜか毎日仲良く暮らしています。
野地マルテ
恋愛
借金だらけの実家を救うべく、令嬢マフローネは、意中の恋人がすでにいるという若き伯爵エルンスト・チェコヴァの元に嫁ぐことに。チェコヴァ家がマフローネの家を救う条件として出したもの、それは『当主と恋人の仲を応援する』という、花嫁側にとっては何とも屈辱的なものだったが、マフローネは『借金の肩代わりをしてもらうんだから! 旦那様の恋のひとつやふたつ応援するわよ!』と当初はかなり前向きであった。しかし愛人がいるはずのエルンストは、毎日欠かさず屋敷に帰ってくる。マフローネは首を傾げる。いつまで待っても『お飾りの妻』という、屈辱的な毎日がやって来ないからだ。マフローネが愛にみち満ちた生活にどっぷり浸かりはじめた頃、彼女の目の前に現れたのは妖艶な赤髪の美女だった。
◆成人向けの小説です。性描写回には※あり。ご自衛ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる