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16 なにが真実か②

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今日はどんな拷問にしようか。
考えながら、ランドルフは足早に監獄等を目指す。

忙しいからあまり時間はかけられない。
そうだ、祭りが近いということは花が咲き乱れる季節ということだ。
ならば城の庭園に連れていくのはどうか。
部屋に花を飾ったら喜んでいたとジゼルが言っていたから、きっと大喜びで秘密を話すはずだ。

名案を思い付いてランドルフの足取りが軽くなる。

「入るぞ」

塔の三階辿り着き、鍵を開けながら声を掛ける。
扉を開くと、窓辺に置いた椅子に腰かけ外を眺めていたらしいアシュリーがこちらを向いた。

「お疲れのようですわね」

微かに笑うその顔に、ホッと肩の力が抜ける。

「別に疲れてなど」

笑いながら否定して、ランドルフは部屋に入っていく。

アシュリーがアストラリスに囚われてから約一ヶ月が経過していた。
その間にすっかり気安い関係になってしまった気がする。

囚人と看守という立場のはずなのに、これではまるでただの知人のようだ。

「うそ。顔色が優れないもの。寝てらっしゃらないのではなくて?」

ソファに移動しながらアシュリーが言って、部屋に控えていたジゼルに二人分の紅茶を用意するよう指示を出す。
ジゼルに向けるアシュリーの表情は柔らかく、応えるジゼルも柔らかな微笑を返した。

いつの間にか主従の絆のようなものができているらしいことに少し驚く。
アシュリーはともかく、ジゼルは少し前まであんなに硬い表情をしていたのに。

携帯コンロに魔力を通して着火し、ケトルでお湯を沸かし始めるジゼルを観察しながらそんなことを思う。

「お祭りの準備で忙しいのでしょう。宰相様がほぼすべてを取り仕切ってらっしゃるのだとか」

アシュリーの正面に腰掛けながら「大したことではない」と笑う。
確かに睡眠は足りていなかったが、強がりではない。

ここにくると、不思議とリラックスして疲れが取れる気がするのだ。

「先日の大市より大規模な市が立つのでしょう? あれより賑やかなんて信じられませんわ」
「カラプタリアにもあれくらいの催しはあるだろう。貴様も一国の王女なら少しくらい市井の催事を把握しておけ」

苦笑しながら言うと、アシュリーは曖昧な笑みを浮かべて「返す言葉もありませんわ」と殊勝なことを言った。

それからアシュリーは数日前の大市での思い出を嬉しそうに話し、祭りの想像に胸を馳せた。

「宰相様がこんなに頑張っているのだもの。きっと素晴らしいお祭りになるのでしょうね」
「当たり前だ。せいぜい秘密を温めておくがいい」
「ふふ、そうね。なにをお話ししようかしら」

アシュリーのワクワクした顔を見ていると、仕事の疲れがまた少し軽くなった気がした。

「ロラン様が言っていましたわ。あなたは平気で無茶をすると」

なにが楽しいのか、アシュリーがクスクス笑いながら言う。

「無茶など。少しは寝ている」

ランドルフがムッとしながら答える。
ここにいないロランの名前が出てきたことに、なんとなく面白くない気持ちになったのだ。

「そんなことより今日は拷問をしに来た。外に出るからすぐに準備しろ」

おもむろに話題を変え、ぶっきらぼうに言って立ち上がる。

「今からですの?」

ランドルフからの急な指示に、慌ててアシュリーが立ち上がった。

「きゃっ」

お茶を淹れるために沸いたばかりのお湯の入ったケトルと茶器を運んできていたジゼルとぶつかった。
ガチャンと大きな音を立ててトレイが傾く。

その拍子にさかんに湯気が立ち上るケトルが倒れ、アシュリーの腕にぶつかった。

「アシュリー!」
「アシュリー様!!」

大量の熱湯がアシュリーにかかって、ジゼルが青い顔で悲鳴を上げる。

「あら大変。ジゼル、あなたにはかからなかった?」

対するアシュリーは、自分の腕に熱湯がかかったことに気づいてないみたいな顔でそんなことを言った。

「馬鹿者! 他人の心配をしている場合か!」

怒鳴るように言って、ランドルフは大急ぎでアシュリーに近付く。

大変なことになっていた。
アシュリーの腕は真っ赤に爛れて、白く美しかった肌が見るも無残な状態だ。

だというのに当の本人は眉一つ動かさず、呑気に粗相したメイドの心配をしているのだ。
その異様な光景に、ジゼルが恐怖に近い顔で固まっている。

「ジゼル、タオルを取ってこい。今すぐだ」
「はっ、はい!」

短く指示を出せば、反射のように返事をしてジゼルが部屋を飛び出していった。

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