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3 悪逆宰相と強欲王女③

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「……それのどこが拷問だ」

罵倒したいのを堪えて静かに問う。
ここで取り乱せば相手の思うツボだ。

「だって秘密を暴く方法が拷問なのでしょう? それが必ずしも痛みである必要はないと思うの」

まるでお茶会でもしているような軽やかな口調でアシュリーが言う。

「その秘密の正否を私たちはどのように判断すればよろしいのでしょうか」

異次元の提案にクラクラしているランドルフをよそに、ロランが勝手に話を詰めていく。
どうやらこいつは話についていけているらしい。
柔軟性の高さは評価していたが、正直ここまでとは思っていなかった。

「あら、そんなの我が国に潜入させている密偵に確認させればいいのではなくて?」
「……なんだと?」

さらりと言われてぴくっと眉が跳ねる。

「城内でそれらしい人間を三人ほど見かけたことがあります。他にもまだいるのでしょうけど」

アシュリーは淑やかな笑みを浮かべたまま、当てずっぽうではない証拠にメイドと馬丁と下男の容貌を並べた。

「ほう……」

目を細めて素直に感心する。
その三人には確かに心当たりがあった。

定時報告の際、彼らは一度も怪しまれたことはないと言っていたが、アシュリーには見抜かれていたらしい。
どうやらただのワガママ娘ではないようだ。

「周囲に警戒されず上手く潜り込めているようですが、下働きばかりですわね。それでは重大情報などほとんど入手できないのではなくて?」

勝ち誇ったように言ってアシュリーが目を細める。

悔しいが彼女の言う通りだ。
このご時世では他国出身の人間が簡単に国の中枢に潜り込めるわけもなく、もどかしい思いをしていた。

それがもしアシュリーのもたらす情報を確認するだけでよくなるなら、格段に成果は上がるだろう。

「ね、そうしましょ。それならわたくしはいい思いをできるし、あなた方にも利益がある。ギブアンドテイクといきましょうよ」

微かに興味をひかれたのに気づいたのか、アシュリーが勢いづいたように言う。

「いや待て、それだといまいちレートが分かりづらい。どの程度の幸福でどれくらいの秘密を話すのか。すべて貴様の主観次第だろう」

さっさと話を進めようとするアシュリーを慌てて止める。
この時点ですでにアシュリーのペースに乗せられてしまっているのだと、自覚もなく。

「んー、では最初はサービスで秘密を先払いいたします。その秘密が正しいと判断できたらわたくしから情報に見合う拷問を要求しましょう。それでだいたいの幸せレートは予想できるのではなくて?」

アシュリーが条件を提示する。

先にどの程度か測れるのであれば、それはなかなかの好条件に思えた。

「なるほど。その幸せレートに納得がいかなかった場合は交渉可能か?」
「善処いたしますわ」
「幸せレートってなんですかね……」

話し合いを進める二人を、冷静な表情で眺めながらロランが小さく呟く。
そんなもの、ランドルフにだってよく分かっていなかった。

だがそのレート次第で正確な内部情報が簡単にもらえるなら、この際なんだって構わない。
どちらにせよ、痛みで引き出せる情報だって結局は確かめるまで真偽不明なのは同じだ。

「では早速、秘密を話してもらおうか」

とにかく、物は試しだ。

その秘密が大した内容ではなかったり、要求される幸せとやらの内容が不相応だったりしたら、その時は躊躇なく本来の拷問に切り替えればいい。

それだけの話なのだから。

「そうですわね……ではこんな秘密はいかが?」

得たりとばかりにアシュリーが笑う。

とっておきの内緒話をする子供のように、無邪気な顔で。
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