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蟻喜多利奈争奪戦に対する防衛準備(上)
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「……はい。」
少し不満げ、と言うより不安そうに美佳絵が答えた。
「ごめんね、二人とも……。絶対に後で話すから……。」
ここまで海部照姉妹が弱々しい姿を見せるのは、珍しい。
それほどに、有鞠が恐ろしい存在なのだろうか?
しかし、それだけではないように思える。
まだ何か隠している。
きっとそうなのだろう。
しかし、それはまだ言えない。
美佳絵と佐多江。
彼女らが微力だと思ったのか。
それとも、信用していないのか。
そして、時は戻り現在。
佐多江はあずさと会うことが出来ていた。
しかし、間もなくクラス毎の朝礼が始まる時間になる。
それほど話すことは出来ないだろう。
「すみません、姐さん。」
「いや、こっちこそごめん。」
謝罪から始まる二人。
何とも悠長なものだ。
「昨日のことなんですけど……。」
「あー……あはは……その……。」
「結局、姐さん達と有鞠……今回はなんで争ってるんですか?」
単刀直入。
先ほどまでののんびりした雰囲気から一変した。
「あー……やっぱり気になる感じ?」
あはは。
苦笑いのあずさ。
「まぁ、事が事ですし……。」
「今まではまぁ……この土地……だね。」
「この……つまり、平盆市?」
「そう。それで、私達が勝った。……それは覚えてるよね?」
「……。」
無言で頷く。
しかし、佐多江が知りたいのはそのことではない。
過去のことではないのだ。
「その時に、奴らの村から流れて来た者達、いたでしょ?」
「ま、まさか……。」
「そう。」
制服の胸ポケットから折りたたまれた紙を取り出す。
彼女がこのことを追及することが分かっていたのだろう。
すぐに取り出しやすい場所が、そこであった。
そして、それを広げると、佐多江の眼前に持っていった。
「……平盆高校、御亭御蔵高校による……合同体育祭実施のお知らせ?」
「うん。きっと、これで向こうが勝ったら……。」
「蟻ちゃんが取られる……ってことですか?」
蟻ちゃん。
利奈のことだ。
「そうだね。」
「な、なるほど……。」
ボソリ。
呟くように佐多江が言う。
利奈がいなくなる。
これは、ある意味ではチャンスなのではないか?
ふと、彼女の脳裏に、そんな言葉が過る。
悪魔である彼女が、脳内の悪魔に惑わされている。
なんと皮肉なことだろう。
「……まぁ、義妹の考えていることも分かるよ。」
少し不満げ、と言うより不安そうに美佳絵が答えた。
「ごめんね、二人とも……。絶対に後で話すから……。」
ここまで海部照姉妹が弱々しい姿を見せるのは、珍しい。
それほどに、有鞠が恐ろしい存在なのだろうか?
しかし、それだけではないように思える。
まだ何か隠している。
きっとそうなのだろう。
しかし、それはまだ言えない。
美佳絵と佐多江。
彼女らが微力だと思ったのか。
それとも、信用していないのか。
そして、時は戻り現在。
佐多江はあずさと会うことが出来ていた。
しかし、間もなくクラス毎の朝礼が始まる時間になる。
それほど話すことは出来ないだろう。
「すみません、姐さん。」
「いや、こっちこそごめん。」
謝罪から始まる二人。
何とも悠長なものだ。
「昨日のことなんですけど……。」
「あー……あはは……その……。」
「結局、姐さん達と有鞠……今回はなんで争ってるんですか?」
単刀直入。
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「あー……やっぱり気になる感じ?」
あはは。
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「まぁ、事が事ですし……。」
「今まではまぁ……この土地……だね。」
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「そう。それで、私達が勝った。……それは覚えてるよね?」
「……。」
無言で頷く。
しかし、佐多江が知りたいのはそのことではない。
過去のことではないのだ。
「その時に、奴らの村から流れて来た者達、いたでしょ?」
「ま、まさか……。」
「そう。」
制服の胸ポケットから折りたたまれた紙を取り出す。
彼女がこのことを追及することが分かっていたのだろう。
すぐに取り出しやすい場所が、そこであった。
そして、それを広げると、佐多江の眼前に持っていった。
「……平盆高校、御亭御蔵高校による……合同体育祭実施のお知らせ?」
「うん。きっと、これで向こうが勝ったら……。」
「蟻ちゃんが取られる……ってことですか?」
蟻ちゃん。
利奈のことだ。
「そうだね。」
「な、なるほど……。」
ボソリ。
呟くように佐多江が言う。
利奈がいなくなる。
これは、ある意味ではチャンスなのではないか?
ふと、彼女の脳裏に、そんな言葉が過る。
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なんと皮肉なことだろう。
「……まぁ、義妹の考えていることも分かるよ。」
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