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「ほらほら、エルちゃん。垂れちゃうよ?もったいないよ?」
ずいずいっ。
さらに彼女へ指を近づける。
かすみの言う通り、指先の血は徐々にではあるが、流れていっている。

「……っ!」
再びエルの限界が迫る。

「……美味しそう……。舐めたい……。いくら払えば良いかな……?」

「かすみの血だけじゃなくて指もペロペロ出来るなんて……。前世でどんな徳を積めばそんなことが出来るの……?」

何日も食事をしていない者が、急に目の前に豪華な料理を出されたようにギラギラした視線。
二つのその視線が彼女の指先へ向かう。

「早く早くー。」

「え、えっと……。」
ごくり。
躊躇うエルもまた、猛禽類のような鋭く光る目をしている。

「もうっ!」
しびれを切らし、彼女の半開きの口へ自身の指を突っ込もうとするかすみ。

「ちょっ、待っ……!」

「問答無用!」

「っ!?ひぃ!?」
出血したかすみの指と、エルの舌が触れ合う。
それは、その瞬間に起きたことであった。

ビクン!
大きく一度跳ねたエルの身体。
そして、糸の切れた操り人形のように倒れ込んでしまうのであった。

「え、エルちゃん!?どうしたの!?」
今日一番動揺するかすみ。

「……あぁ、気にしなくて良いよ……。」

「えぇ、そうね……。」

「で、でも……。」
ちらり。
エルを見る。

確かに、大丈夫そうだ。
彼女の顔は満ち足りたものであった。

デジャビュ。
ちらりと美咲を見る。

「うん?どうしたの?そんなチラ見じゃなくて、私のこともっとよく見ても良いんだよ?」

「あ、あはは……。」
苦笑いするかすみであった。


「はっ!?」
カッと目を見開くエル。
そして、今自身の置かれた状況を思い出す。

冷や汗。
何をしていたか思い出した時、大粒のそれが、彼女の顔をだらだらと流れた。

せっかく二人きりの時間を過ごせていた。
それを、手放してしまった。
また一人きりだ。

カーテンから漏れる外の光。
それが、もう先ほどまでのものと違い、オレンジ色になっている。
かなりの時間が経過してしまったのが、それだけで分かってしまった。


「あっ、良かった……今起きた?」

「え?」

聞きたかった声。
きっともう、今日は聞けないと思っていた声。
それが、エルの耳に届く。

自身の寝ているベッドのすぐ近く。
椅子に腰かける彼女がそこにいた。
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