あなたにかざすてのひらを

16

16ー2

彼女の言葉は、三人の共通意見だったのだろう。
うんうん。
それに大きく頷くゆかりと美咲。

「う、うん、分かったよ、それは聞かないでおくね。」
そこまで空気が読めないわけではない。
かすみがその要求を飲む。

「ありがとうございます、本当に助かります……。」
本当に助かるのだろう。
エルの声と表情からもそれが伝わる。

「……ありがとう、かすみちゃん。じゃあ話、続けるね……。」

いつ、どこで生まれたのか。
それすらも今は記憶の遥か彼方。
それほど昔。
彼女らは生まれた。

皆が日本で生まれたわけではない。
それぞれが様々な国で暮らしていた。

当時の彼女らの主食は、吸血鬼らしいものであった。
血だ。
しかし、誰のものでも良いというわけではない。

好き嫌いがあった。
血液型だけではない。
性別や、体型はては彼らの性格も影響した。

そうなってくると、彼女らが好むものは絞られてくる。
しかし、毎回特定の人物から血液をもらうわけにはいかない。
貧血で倒れてしまう。
下手をすれば、それ以上のことにもなりかねない。

そうして、彼女らは順応した。
必ずしも血液でなければならないというわけではない。
それらが元となっていれば良くなった。
例えば、だ液や汗などだ。

それらに順応したということは、今まで対応出来ていたものの刺激が強くなってしまったということだ。
血では栄養価が高くなり過ぎ、正常な状態でいられなくなったのだ。


一つの箇所に留まるということ。
それは、吸血鬼であると周囲にバレてしまう可能性が高くなるということだ。
そうなれば、余計な揉め事や争い事を引き起こしてしまう。

他人を傷つけること。
彼女らにとって、それはどうでも良いことであった。
しかし、そうなってしまえば、ただただ面倒だ。
そんな理由から、各地を点々としていたのだった。


その資金をどうしていたか。
どんな傷や病でも治せる薬。
そんな胡散臭いものを売っていた。

彼女らの血だ。
それらは瞬く間に人々の間に広まっていき、様々な病を治した。
しかし、それにも限界がある。
数に限りがあるのだ。

量産することは出来ない。
とはいえ、類似したものや、模造品を作っても効果がまるで期待出来ない。

それでは人々はどうしたか。
答えは単純だ。
希少価値のあるそれらを奪い合ったのだ。
時には友人同士、時には親子でもそれらが行われた。