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「……。」
絶句するかすみ。
もはや、逃げ出したいという気持ちすら起きなかった。
その場から動けなくなってしまったのだ。

「じゃあ、遠慮なく……いただきまーすっ!」
かすみを抱き締める美咲。

ふわり。
柑橘系の爽やかな香りがかすみの鼻に届く。
そんな良い匂いとは裏腹に、恐怖心が彼女を支配していた。

「お、落ち着いた……?」
逃げ出したい気持ちを抑え込み、勇気を振り絞るかすみ。

「ふふふ、もちろん。かすみをようやく取り返せて、心穏やかになったわ。でも、それはこちらのセリフじゃない?かすみの心臓、凄いことになってるよ?」
かすみの胸元に耳を当てて、彼女の目をジッと見つめながら美咲が言う。

今さっきまで、威圧的な金色をしていた美咲の瞳。
それが、彼女と抱き合ったことで、黒色に戻った。
恐らく、感情が落ち着いたのだろう。

「あはは、お、幼馴染との再会に胸踊るー……なんて……あはは……。」
緊張していることに気づかれたかすみが、慌てて取り繕う。

「へー……そっか……。」
彼女の嘘などお見通しなのだろう。
ボソリ。
虚ろな目で言う。

「……。」
これ以上はもうないと思っていた。
しかし、さらに心臓が早くなるかすみ。

「ふふふ、まぁ良いや。これからじっくり教えていってあげる、私に嘘は必要ないってこと……。」
今までの彼女に戻った。
かすみと再会したばかりの時の、女優として有名な城原美咲の雰囲気に変わった。

どちらが本当の彼女なのだろう。
女優である城原美咲か。
吸血鬼である白原美咲か。
幼馴染であるかすみにも、それは分からなかった。
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